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第五話 説得


イケメンよろしく颯爽と現れた多村。


彼はその表情を変える事なく若林の隣に立った。


瞬間僕は悟ってしまった。


ーーこいつ、シンに警戒される程の事はある。


僕は心根で何を考えているかわからない奴は嫌いなのだ。


その表情からでは窺えない仄暗い小さな灯。


初対面でこんなにも心象の悪い奴は初めてだ。


こんな奴にシンが勝てるはずがない。


僕は軽く多村を睨みながら、右手に持った血塗れたナイフを生肉に突き刺し立ち上がる。


「 ホノメ 」


「 ん、ありがとう。シン 」


いつもの様に湿ったタオルをこちらに渡すシンに微笑んで礼を言う。


平常運転な彼を見て、心の余裕を取り戻す事ができた。


手を拭い終え再び多村に向き直ると、困った様に笑う奴が目に入った。


イラつく表情だ。


しかし奴は無闇に敵に回したくない側の人間。


けれど困った事に僕は奴の敵の立場に立ってしまっている。


本当に面倒だなぁ、これは。


正に危機的状況だよ。


追い詰められた僕らはさながら哀れな子羊ってところかな。


「 どうやら、俺の憶測は当たってしまったのかな? 」


多村がふと言葉を洩らす。


僕に聞いているのか?


いや違う。これは確かめる為、明確にする為に言葉にしただけに過ぎない。


それを裏付ける様に奴が言葉を続けた。


「 灰陰 君。君なんでしょ? 灰陰夫妻を殺したのは 」


「 えっ!? 何をっ……⁉︎ 」


まさか多村がそんな事を言うとは思わなかったのか、若林が焦りの声を上げた。


と言うか彼女は奴に教えられてはいなかったようだ。


まぁ、知っていたけれど。


「 若林 先生。少し黙っていて下さいませんか? ここは俺に任せてと言ったはずです 」


「 で、ですがっ!!教師として生徒に言ってはいけない事を貴方は………ーーーッ!? 」


多村は若林の方へと振り返り、背筋の凍るような視線を向けた。


そして、冷めた瞳で言い放つ。


「 黙れ、と言ったはずですが? 」


「 ………… 」


途端、若林は怯えたように肩を震わせ黙り込む。


多村は1つ頷き、何事もなかったかの様に爽やかに微笑む。


若林は無言。


どうやら、ここは多村に任せる事にした様だ。


賢明な判断で何よりだ。


「 女性を泣かせるなんて感心しませんね。 多村先生? 」


僕はニヤニヤと笑いながら、忌々しい奴に声を掛けた。


「 君だって、俺以上に酷い事をしているじゃないか 」


よく言うよ。


さっきの奴の目はこちら側の人間の目と同じ匂いがした。


シン が気をつけろと言った意味。


………気味の悪い奴だな。本当に教師か?


多村は僕に向けていた目をシンへと向けた。


途端その目には敵意が宿る。


どうやら奴は、僕ではなくシンを目の敵にしている様だ。


シンはこれでも今まで僕を支えてきた人間だからね、多村でも彼のことは見過ごせない様だ。


「 君も共犯者だね、 叶 君。自分が何をしたのか分かっているのかい? 」


「 俺は唯、友達に手を貸しただけの事 」


おぉ、嬉しい事を言ってくれるなぁ、照れるじゃないか。


いつも本当に口数が少ないから、友達とかどうとかってのは話したことはないんだよねぇ。


「 そうかい? きちんと理解していない様だから言うけれど、君は殺人鬼を作り出そうとしていたんだよ? 既に親殺しと言う名の罪を持つ最悪の殺人鬼を 」


「 そんな事は、理解している 」


「 いいや、分かっていない。 今後起こるであろう事を考えれば、君は手を貸すべきではなかった。 灰陰 君を友達と言うのなら尚の事 」


「 ………… 」


シンは無言。


それを肯定と受け取ったのか、多村は薄く笑った。


「 彼を今後苦しめたくないなら、親殺しの罪を償わせなければならない。今ならまだ間に合う、君だけならば灰陰君に黙っていて貰えば普通に生きていける 」


あー、こいつシンの能力を買っていて引き込もうとしているのか。


こいつやることが教師じゃないなぁ。


なんでこんなのが人気なのかさっぱり分からないよ。


それに、僕を甘く見ないでほしいな。


「 彼を思うなら、友達だと言うのなら罪を認めてこんな事を止めさせるべきだと俺は思うよ 」


「 …………るな 」


シンがぼそりと呟いた。


「 ん? 何だい? 」




「 貴様の様な奴が、俺のホノメを語るな!! 」




「 ーーっ!? 」


「 ………… 」


対して先ほどのシンの様に多村は無言。


僕でも初めて知る、シンの激情。


知らずに胸が高鳴った。


初めて知る感情が僕の裡を駆け巡る。


それは、愉悦。


嬉しいのだ、楽しいのだ。


僕を知ってくれている彼が、彼を知る事が出来た僕が。


彼が居るから僕は多くの感情を知ることができるし、僕が居るから彼は激しく感情を表すことが出来る。


あぁ、僕たちはなんて素晴らしい関係なんだろうか。


本当に。


悦に浸る僕に、彼の抑揚のない、けれど若干の怒りを含む声が聞こえた。


「 ホノメはそんな小さい罪悪感に苛まれる程弱くない。俺はホノメを裏切ることほど怖いものはない。分かっていないのは貴様の方だ 」


そうだ、そう彼の言うとおり。


何の感情も抱かない、そんな些細なモノを殺したとしても湧き上がるのは罪悪感ではなく強烈な快感。


それだけだ。


それだけなのだ。


だって、僕が必要としている存在者はシンだけなのだから。


そんな彼が僕を必要としてくれている。


裏切ることは無いのだと言う。


あぁ………ぁ"あ"あ"っ!!


「 そう、そうだよ。 あんな人間死んだ所で僕にとってはどうでもいいんだ。 シンは僕の事を良く知っているんだね。なんでだろう、こんなにも嬉しいと思うなんて……っ 」


だから僕は言ったのだ。


彼を肯定するその言葉を。


言葉の節々にみえるのは歓喜。


それは、隠しようもない僕の本音。


先程まで無表情であった多村が、ここで初めてその精悍な顔を歪めた。


その隣にいる彼女はもう思考が停止してしまっているのか、呆然として動く様子がない。


顔を上げれば見えるのはシン。


彼は表情の薄い顔を僕に向け、ゆっくりと微笑んでみせたのだ。


再び僕の裡にどうしようもない歓喜が広がる。


また1つ彼の知らない表情を知ることが出来た悦びが僕を染め上げる。


震えを抑えるかの様に僕は僕自身を抱く。


「 ぁあ"あ"あ"ぁぁ………っ 」


口から勝手に洩れ出るは悦楽。


もうだめだ。


分かってしまった。


知ってしまった。


僕はもう、彼なしでは生きてはいけないのだと。




そしてそれは、目の前の彼も同様でーーーー



「 俺は ホノメ のもので、ホノメ は俺のものだから 」






彼も悦楽に顔を歪ませていたのだから。












友人曰く、『この主人公気持ち悪いな』だそうです


どうしてこうなったのでしょう………

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