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第九十九話 魔王戦3

 その後の戦闘は苛烈を極めるものであった。特にジュエルのインビジブルガードの効果が消えた辺りから。

 春明がアイテムボックスから、大量に回復アイテムを取り出す。ルーリはひたすら、そのスキルポーション・TPドリンクを飲みまくり、味方に回復魔法をかけ続けた。そして春明・ジュエル・ルガルガが、近接戦闘で、魔王と血みどろの戦いを繰り広げていく。

 攻撃部位でもある、腕型触手と刀触手は、最初の怪物口よりも頑丈で、破壊するのに手間がかかった。その間魔王からの攻撃も、彼らを痛め続ける。

 ルーリが回復を繰り返しても、HPの増加・減少のサイクルを保つのはかなり大変である。たまに春明が、気功治癒で回復に参加したりもしているが、それでも過酷だ。

 というか一回死人が出ている。ルガルガが命の一撃を放って、反動ダメージを受けたところを、銃型触手で撃ち抜かれたのである。すぐにルーリが、蘇生魔法を使って、生き返らせたが。


 回復・防御・攻撃を何度も繰り返し続けながら、少しずつ触手にダメージを蓄積させていく。やがて触手の方も限界が来たようで、徐々にその姿がボロボロになっていった。


 ガキィン!


 刃こぼれしまくった刀触手の一撃を、もう何度目かも判らない方法で、ジュエルが盾で防護する。その隙にルガルガが、横から刀の腹を叩きつけた。


「大一撃!」


 パリンッ!


 破壊の音は意外とシンプルだった。鏡を落としたときに鳴るような、破壊音が聞こえ、刀触手の刃が、粉々に砕け散る。大量の尖った欠片が、豆まきのように辺りに飛び散っていく。

 すぐに反撃と、魔王の銃型触手が、ルガルガを狙うが、即座に春明の剣撃叩きつけられて、銃口が曲がって、発射された銃弾は的外れな方向に飛んだ。


「よしっ! あと三本だ! 次は銃の方だ!」


 魔王の近接武器の一つの破壊に成功した一行。これで近接戦の戦力は、大きく減衰しただろう。

 一番頑丈そうな盾型、もう一つの近接武器の腕型は放置して、春明達は銃型の破壊を指示する。それを選んだ理由は、腕型よりも強度が脆そうに見えたことと、それで回復役のルーリが撃たれる危険性があることであった。

 回復役のルーリは、今やこの戦闘の生命線だ。彼女がやられたら、あっというま一行は全滅するだろう。最も、魔王にはそれを認識する能力がないのか、攻撃に参加していないルーリには、一切手を出す様子もない。


 その後も繰り広げられる、魔王と一行の攻防。近接武器が一つなくなったので、今までよりも戦闘で受けるダメージが大分減っている。

 ただし向こうは、盾型を頻繁に使うようになってので、攻撃を当てられる頻度が減ったが。


「命の一撃!」


 ドオン!


 ルガルガのリミットスキルが、既にボロボロの銃型触手の、銃身部分を叩きつける。銃身が紙筒のように砕け、発射直後でエネルギーが溜まっていた触手が、大爆発を起こした。

 その直後に、反動でダメージを受けたルガルガに、ルーリが回復魔法をかける。これにて魔王は、遠距離攻撃もできなくなった。


 その後は、一気に戦闘が楽になった。回避のため、敵から距離をとっても、銃で狙い撃ちされることがなくなったため、かなり余裕を持って、攻撃行動の準備ができるようになる。

 回復頻度にも余裕ができたことで、ルーリもまた、敵に接近し、自慢のメイスを振るってヒールアタックを繰り返して、敵の腕型触手を殴り続ける。回復も近距離で行うため、回復効率が上がり、以前よりもHPの危機は少なくなった。


 やがて腕型触手も破壊され、魔王は攻撃方法を完全に失った。あとは盾型触手の防御のみ。魔王は何度もバリアを張り、防御行動を繰り返した。

 だがバリアが切れた瞬間に、攻撃を待ち構えていた一行が、一気に斬りかかる。防御されている間は暇なので、春明が取りだしたTPドリンクを飲んで、皆力を蓄える。

 そのため今まで以上に、大技が繰り出される頻度が増える。触手の中で最も頑丈であった盾型も、その大技の連撃に、どんどんダメージを蓄積していった。


「命の一撃!」


 ルガルガがHP満タンの状態で、最強リミットスキルを発動。即座にルーリが、反動で倒れるであろうルガルガのために、回復魔法の準備をする。


 パリィン!


 刀触手を砕いたときと、よく似た音が鳴り響き、ついには魔王の最後の触手も、完全に破壊された。これで魔王は戦闘方法を完全に失った。


「おっしゃぁあああっ! ぶっ殺せ!」


 その後の戦いは……戦いではなく完全に虐めであった……

 破壊された触手は再生したりはしないようで、手も足も出ない魔王を、一行がひたすら殴り続ける。狙うは勿論、本体ぽい外見の女性体だ。

 人の女性の姿に、刃物や鈍器で振るい続ける姿は、まるで婦女暴行のよう。だが魔王とて、すぐには死なない。本体だけあって、その身体は頑丈だ。しかもあの自己回復能力で、何度も回復する。

 だが繰り返される、春明達の攻撃の数と威力に、その回復能力も追いつかず、どんどん魔王が弱っていく。その身に回復しきれなかった生傷が、無数につき、腕の部分はとうにグチャグチャに粉砕され、彼女の顔も元の美少女的な容姿が見る影もない。

 傷を負う度に、魔王の力は弱っていき、再生能力も、徐々に低下しているようであった。


「命の一撃!」


 もう何度目かも判らない、要回復のルガルガの大技。それが魔王へとの止めとなった。魔王の脳天へと叩きつけられた鉞の一撃。


 グチャッ!


 まるで卵を潰すような音が聞こえた。その一撃で、魔王の頭は、砂浜のスイカのように、粉々に叩き割れる。

 斧の一撃は更にその下まで届く。既にボロボロで、強度が脆くなった肉体は、あっさりとのその刃を通す。魔王の本体らしき女性体は、見事に一刀両断されてしまった。

 異色の血液が、大量に放水されて、ルガルガの身体を汚く汚す。


 ドン!


 そして魔王の身体が倒れた。攻撃を受けまくってボロボロで、立つのもやっとの状態であった、三本の触手足。それが完全に力を失い、魔王の巨大な肉塊のような身体が、地面に伏した。


「……やったか?」


 ジュエルがやってないフラグのような台詞を口にするが、今回は当たりであった。魔王はしばし痙攣していたが、やがて完全に動かなくなり沈黙した。

 ケーキのように一刀両断された女性体から、血が滝のように流れ、魔王城決戦ホールの床を塗らしていく。


 パンパカパ~~~ン!


《魔王撃破! おめでとう!》


 何だか気の抜ける、祝福の効果音と共に、春明達の前に、そんな一文が添えられたウィンドウ画面が出現した。

 第二形態とかはなく、どうやらこれで完全勝利であったようだ。


「よっしゃぁああああっ! 勝ったぞ!」


 割と静かな最後だったのにすぐには実感が持てない中、魔王に止めをさしたルガルガが、盛大に勝利の雄叫びを上げる。その言葉で、一行の緊張も、大分緩み始めた。


「勝ったのか……今まで一番苛烈な戦いだったな……」

「そりゃあ……ラスボスだからな……でもこれでようやく終わったか」

「うう……回復薬飲みすぎたせいかな? 何だか安心したら、お腹が痛くなってきた……」


 ルーリがお腹を抱えながら、そう口にする。ゲームでは薬はある限り、どんなに飲んでも大丈夫だったが、この世界ではある程度のペナルティがあるようだ。


「お疲れだな……お前もすげえ活躍だったな。ゲームでも現実でも、回復役は大事だって判ったよ」

「私も薬がなかったら、ここまでやれなかったわよ。薬も半分ぐらいまで減ったし」

「まだ半分も残ってんのか?」

「まあ、あれだけ買い込めばな……」


 HPは全快しているが、長期にわたる戦いで、精神的に疲弊しきった一行は、その場で尻餅をついて座り込む。そこへ戦闘メンバーに入らなかったメンバーも、そこに駆け寄ってきた。


「お疲れ! 皆かっこよかったわよ! 何か私の出番がなくて残念だったけど……」

「これで俺たちの旅は終わりか?」

「いや……まだだ。麒麟像を捧げねえとな」

「ああ、それがあったか」


 この祭りは、魔王を倒して終わりではない。無限魔の出現を封印する鍵である、四つの麒麟像を、封印に捧げなければいけないのである。


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