第九十八話 魔王戦2
(回避不能の全体状態異常攻撃か! くそっ! 今回の敵の厄介なところは、攻撃力や防御より、こっちの方だな! やられる度にルーリに回復させて貰っても、これじゃすぐにTP切れになるか、回復前に全滅する!)
魔王は倒れたジュエルに向かって、三本の触手足を機敏に動かしながら接近し、彼女に刀触手を振り下ろす。ジュエルは倒れながらも、己の力を振り絞って、プロテクト3を発生させた盾で防護する。
攻撃そのもの防ぐことはできたが、またさっきと同じように、横から腕触手のパンチが炸裂して、毒で弱っているジュエルを撥ね飛ばす。
「くうっ……はぁっ!」
毒で犯されながらも、ルーリが気合いを込めて、回復魔法を唱える。唱えたのは全体状態異常回復魔法の“オールリカバリー”。それによって全員の身体の毒が、あっというまに消える。
だがその間に、倒れたジュエルに、魔王が接近してくる。装備品の影響からか、彼女はとても狙われやすい。
頑丈な守備魔法戦士のジュエルでも、さすがに魔王の攻撃を何発も受けたせいで、HPが8割も減り、まともに動けない。ナルカも中ランクの銃スキルを連射し続けているが、その効果は焼け石に水だ。
ザシュッ!
そこに春明が背後から魔王を斬り付けた。魔王の背中(この体型に、背中や腹の区別があるかは不明だが)に切り傷をつけ、僅かだが確かなダメージを与える。
すると魔王は、身体を独楽のように回転させて、今一番ダメージを与えた春明に、向き直る。
(やばっ……)
無表情に春明を見る女性体の不気味な目が、春明の目と合う。そして即座に二本の触手を振り上げてきた。
その繰り返される近接攻撃を、何とか避けるが、やがて避けきれずに、春明は触手パンチを受けて吹き飛ぶ。さっきから皆、吹き飛ばされてばかりだ。
(春明っ! ええと……)
ルーリが、春明とジュエル、どちらを先に回復させるべきか、一瞬悩んだ後、またキュアオールを使おうとしたとき。魔王の動きが止まった。
吹き飛ばした春明に、止めをさそうとせずに、そこに立ち止まって何をしているのかと思ったら、何と回復をしていた。
ルーリがキュアオールで皆を回復する中で、魔王もまた今まで春明達に付けられた全身の傷が、見る見る塞がっていく。
「ルーリ! これを!」
「!?」
ルーリの魔法で多少回復した春明が、アイテムボックスから出したものを、ルーリに投げつける。無事ルーリが受け止めたそれは、TPドリンクであった。
「TPが溜まったら、すぐにオーラバリアだ! その後で、一斉にあの口を潰すぞ!」
「えっ、ええっ!」
ルーリがTPドリンクを、喉に詰まらせるんじゃないかと心配になるほどの勢いで、一気に飲み干した。その間に、魔王の回復は完了し、今まで春明が与え続けたダメージは、全て無となった。
「チェンジだ! ルガルガ!」
「うおいっ! 任せろ!」
直ちにナルカをルガルガと交代させる。ナルカの銃では、魔王とは相性が悪いので、攻撃力重視のルガルガの出番となった。
魔王が再び動き出す。またあの怪物口が開き、そこからまた何かを吐き出そうとする。だがその前に、TPを溜めたルーリの方が速かった。
「はぁあああああっ!」
ルーリのメイスから、虹色のオーロラが放たれた。これまでの回復魔法と似ているが、色合いがこれまでよりずっと派手だ。
一瞬の内で、味方全員の身体を包み込むオーロラ。それらが彼らの身体の全身に、服のように覆い尽くし、薄い虹色の布を被ったような状態になる。
そしてそのスキル発動完了直後に、魔王の怪物口が、黄色いガスを吐いた。今まで同様に、防ぎようのない状態異常攻撃が、春明達を襲う。
「胴体は無視しろ! あの口を狙え!」
「うっしゃぁああああっ!」
だが春明達は、それを受けても、全く平気で、魔王に襲い来る。
今ルーリが使ったのは、TPスキルの“オーラバリア”。これを使うと、味方全員が、一定時間状態異常攻撃に無敵なる。
今魔王が放ったのは、どんな状態異常だったのかは不明だが、どのみち今の春明には通用しない。
「うりゃあっ! 気功撃!」
ルガルガのスキルの気功撃三式と、春明のリミットスキルの大一撃が、その怪物口の触手に炸裂する。
春明の剣撃が、怪物触手の首を下から斬り付ける。ルガルガの斧が、怪物触手の首を、今春明が斬ったのとは逆の、上側から叩きつける。
重い斬撃二発に、怪物口の触手が、4割ぐらい肉が斬れた。
勿論魔王も、ただやられるだけではない。すぐに二本の触手を、二人に向けて振り下ろす。
春明は即座に回避運動をするが、ルガルガは反応が遅れ、刀触手の一撃を喰らいそうになるが……
ガキッ!
すんでの所で、ルガルガを庇うように、ジュエルが彼女の前に出る。まだ回復しきっていない身体で、防護結界を張った盾で、その攻撃を受け止める。
そんな時に、春明はバックステップで距離を取り、アイテムボックスからTPドリンクとスキルポーションを何本も取り出し、ジュエルに向かって遠距離回復魔法を撃っているルーリに投げ渡した。
「SPとTPを急いで回復しろ! オーラバリアが切れたら、すぐに次をやれ!」
「判ったわ!」
ルーリが即座に、二つの回復役を飲む。向こうの方では、ルガルガとジュエルが、魔王の近接攻撃を防ぎ続けている。
だが魔王の攻撃力と、意外と機敏な動きに、押されまくっており、あっという間に競り負けて叩きつけられた。
(うりゃぁああああっ!)
春明がその直後に、滑り込むように魔王の足下=三本の触手足に、大一撃で斬り込む。それで敵を転倒まではできなかったのものの、魔王の攻撃速度を一瞬遅め、ジュエルとルガルガへの追い打ちを防ぐ。
ただし今の一撃で、春明のTPはほとんどなくなった。この技はあまり連発ができない。
「はぁあああああっ!」
敵の攻撃が一瞬緩んだ隙に、ジュエルが己のリミットスキルを発動。ジュエルの身体から、オレンジ色のオーロラが放出され、それがルーリのオーラバリアのように、味方全員の身体を覆い尽くす。
そうこうしている間に、魔王の隙がなくなり、ジュエルに向かって触手パンチが飛ぶ。
ゴン!
今までは結界付きの盾で防いでも、かなり押されていた一撃。だが今回は、完全に防ぎきった。
先程ジュエルが使ったリミットスキルは“インビジブルガード”。味方全員の防御力を激増させるスキルである。
そうしている間に、ルーリから回復魔法をある程度受けたルガルが立ち上がる。先程刀触手に腹を刺されて、死にかけだったが、回復魔法のおかげか、本人の気合いからか、手早く起き上がった。
「気功撃!」
再びルガルガの気功撃が、怪物口触手に炸裂した。だがその直後に、触手パンチが炸裂して吹っ飛ぶ。
ただでさえ深手だったのに、今ので死んだかと思われたが、インビジブルガードの防御力増加のおかげか、ルガルガはまだ生きていた。最も既にHPは激減しており、また死にかけに戻っているが。
春明がルガルガの元に駆けつけて、彼女に気功治癒を施す。ルーリも同時に回復魔法を彼女にかけた。
「ぐぅううううっ!」
二つの触手の連撃を、ジュエルがひたすら受け続けていた。いくら防御力激増しているとはいえ、触手二本の連撃には押されていた。
しかもあのスキルには、効果時間が限られているので、このままだと確実にやられる。
「どりゃぁあああっ!」
そうしたらルガルガが、早急な回復をされて、またもや死にかけから不死鳥のように立ち上がる。
そしてジュエルへの攻撃に集中して、こちらに隙を作っている魔王に突撃し、怪物口にリミットスキルを叩きつけた。
「国割一閃!」
ルガルガの巨大な気功の刃が、さっき自分が斬り付けた傷口に、再び叩きつける。
ズシャッ!
怪物口の首が見事に切断された。大量の紫色の血が、噴水のように勢いよく吹き出て、怪物口の頭が地面に転がり落ちた。
そしてまたその直後に、ジュエルが攻撃を受け入れきれずに、触手パンチと触手刀の、同時攻撃を喰らった。
何発も繰り広げられる攻撃に、さすがに防御力激増していても、ジュエルのHPがどんどん削れていく。春明が援護に駆けつけるが、大砲触手の一撃を受けてしまい吹き飛んだ。
その直後に、ルーリのオーラバリアの効果が切れて、虹色の結界が、一行の身体から消える。
「ルーリ! オーラバリアはもういい! 皆を回復しろ!」
「ええっ!」
怪物口触手はもうないので、状態異常攻撃を恐れる必要はない。ルーリが即座に、全体回復魔法を唱えた。これまでのキュアオールとは、比べものにならないエネルギーの、回復のオーロラが放たれた。
今彼女が放ったのはリミットスキルの“スーパーキュア”。味方全員のHP・状態異常・戦闘不能を全快させる、究極の回復魔法である。
「たりゃぁあああっ!」
ルガルガが、ジュエルをぼこっていた触手に、怯みの乱撃二式を叩きつけて、その動きを止める。
ルガルガの身体は、さっきまでのボロボロな状態が、嘘のように無傷の状態である。同じく完全回復したジュエルも立ち上がる。そして自分を襲っていた刀触手の根元を斬り付けた。
「皆! 胴体は一先ずほっとけ! 今は触手を先に全滅させるぞ!」
「「おおっ!」」
この敵の有用な対処法を完全に見切った一行。胴体は一旦無視して、攻撃部位である触手に各一本ずつ、集中して攻撃を仕掛けた。




