第九十六話 魔王城
隠身の札で魔の卵の接近を払えるようになってから、春明達はスムーズに進んでいった。
常人より遥かに身体能力が高い彼らならば、少し駆け足で歩くだけで、相当な速度になる。ただし魔の卵と、うっかりぶつからないように、注意しなければならないが。
やがて一行は、最終目的である。魔王城まで辿り着いた。
「これか……いかにもって、感じだな」
数キロ先からも見える、何とも目立つ建造物。浩一がその城を見て、そう口にする。
棘のような細長い塔が幾つも延びており、屋上の真ん中に、無駄にでかいドラゴンの像がある、何とも異様な城である。浩一が言うとおり、一目で何かやばい者がいそうな雰囲気ではある。
「……しかし無駄なオブジェが多い城ね。あれじゃ上り下りとか大変だし、場所も取られて、立て籠もれる人数も減っちゃうんじゃないの? しかもこの城……城壁も砲台もなくて、すごく無防備なんだけど……」
「実用性より、雰囲気重視なんだろ。だって、そもそもゲームの為の城なんだし」
ハンゲツの疑問に、春明がそう即答する。確かに実用性のない建築構造だが、見た目のインパクトは絶大だ。
ゲームではこういった、異様な雰囲気を出すために、無駄に凝ったデザインの魔王城がよくある。
「あら……これって?」
「どうした? ……うん? これは……」
そこに近づいていく時、最初にハンゲツが、何かに気がついた。何事かと春明が問いかけたとき、春明含めた他のメンバーも、この一帯のおかしな所に気がつく。
「不思議な力を感じます。何だか、時間の流れが固まってるみたいな……」
「多分その通りだと思うぜ。これは時空結界だ」
浩一の放った聞き慣れない単語に、皆が不思議そうに彼女を見る。
「今、ここらを覆ってる、謎のエネルギーを、俺の電子頭脳で解析したぜ。それでデータベースに該当するものも発見した。何ていうか……天者共、いくら最後の決戦だからって、一気に難易度上げやがって……」
「いや、ちゃんとした説明してくれよ! それじゃ判らんぞ……」
「ああ、失礼。この城一帯には、時空結界っていう、特殊な結界で覆われてるぜ。データベースによれば、この場所では、時間を操ったり、動かしたりする力は、全然出来なくなるそうだ」
「へえ……」
結構凄い力なのだろうが、一行の反応は淡泊であった。今一行には、時空を操るような力を持った者は一人もいない。別にこれで、何か不都合があるようには思えなかった。
「何かあっさりした反応だな……。いっとくがここじゃあ、お前のセーブ&ロードも、効かなくなるんだぜ」
「何だって!?」
この言葉で、ようやく事態の深刻さに気づく春明。セーブ&ロードによる復活能力。これまで春明が何度もお世話になったゲーム的仕様の能力である。
これがなければ、春明はとっくに、再序盤で植物怪獣に喰われて終わりだっただろう。
「そっそれじゃあっ、ここで死んじまったら、俺たちはもう生き返れないのか!?」
それはあまりに深刻な話しである。今まで春明が、余裕な感じで旅をしてきたのは、セーブ&ロードで、死の危険がないためだ。
だがそれがないとなると、春明には一気に、戦いに関する恐怖が沸き上がってくる。初めて植物怪獣に喰われた、あの時と同じ気分である。
「それは大丈夫なんじゃねえのか? ここに入る前のセーブデータを残してればよ。ただこの魔王城の中で起きたことは、0には出来ないだろうな」
「そりゃどういうことだ?」
「つまり……ロードで時間を戻しても、世界でこの結界に張られたところだけは、時間を巻き戻せないんだよ。つまり俺たちが来て、魔王が復活したら、時間を戻しても復活したままってことだ」
ロードで時間を戻しても、この場所にある時間だけは、元に戻らない。それはつまりここで何か失敗を起こしても、ロードで0にはできないと言うことである。
ゲームでは主人公が訪れた直後に、魔王が復活して、主人公と激戦になる。その激戦に負けたら、ロードでその魔王復活という事態も、0にすることができた。だがそれがここでは出来ないというのだ。
「それって……かなりやばくない?」
「最後の決戦では、失敗は絶対に許されないってか? もしこの世界で、魔王が復活してそのままにしたら、イベントはどうなるんだ?」
「春明……大丈夫か?」
今の話しで最初は冷や汗を流した春明に、ルガルガが心配そうに問いかける。だが春明は、城に入る前のセーブデータがあれば大丈夫だろうという話しで、ようやく落ち着いてきたようだ。
「ああ、大丈夫だ……。そうだな、戦いってのは、このぐらいのスリルがあった方がいいかもな」
歩を進め、その魔王城の門前までやってきた一行。頑丈そうな金属製の大門が、一行の前に立ち塞がる。
ギィイイイイイッ!
物々しい音を立てながら、その大門が開け放たれる。こちら側に開かれた門の向こうには、人の姿はなく、自動で動いているようだ。
ここから見える城の中は、不気味な燭台の灯りが照らされる、迷宮のような通路であった。
「侵入者を前に、堂々と扉を開けるなんて……何て無防備で自身家な城なのかしら?」
「だからそういうことは突っ込むなって……」
「春明さん。ゲームだと魔王はこの城の、どの辺りにいるんですか?」
ナルカの質問に、春明は随分前にクリアしたゲームのことを思い出す。
「確かこの城の最上階だったな……まあ、大概のゲームじゃそうだけど」
「最上階……」
「ふ~~ん。要はあそこまで行ければいいわけね?」
一行はこの城の最上階と思われる所を見上げる。そこには大きなドラゴン像の足下にある、この城のドーム場の最上部が見えた。
その最上部の壁には、太い柱が立ち並び、その合間には壁がなく、内部が丸見えになっている。西洋ファンタジーで王様が庶民を見下ろすような構造の場所である。
「じゃあ早速、再度気合いを入れて……てっ、おい!?」
門から中に入ろうとしたのは、春明・ルガルガ・浩一の三人。それ以外の四人は、門を通ろうとはしなかった。
どっちにいったかというと、何と門の側にある、城の壁に掴まり、そこをよじ登り始めたのである。
既にレベルが100越えにまで到達した、超人的な力を持ったメンバー達。
まるで蜘蛛やトカゲのように、城の壁をすいすいと登っていく。あまりに予想外な行動に、春明は面食らう。
「何してんだお前ら!?」
「大丈夫でした! このぐらいの取っ掛かりがあれば、普通に登れます!」
「いや、そうじゃなくて……何で登ってんだよ!?」
「何って……最上階に行くためですけど?」
当然のことのように言うナルカ。これまたとてつもない発想である。確かにこれだけの体力があれば、わざわざ中に入って階段を使わなくても、最上階まで到達できるだろう。
ゲームではあり得ないが、スパイ映画とかでは、よくある手法である。
「よく考えれば、別に登る必要もないわね。私が召喚した幽霊で、空を飛べば良いのよ」
「ああ、そういえばその手もあったな」
皆が乗り気で、この魔王城ダンジョンスキップを行おうとしている。結果一行は、様々なトラップや敵が用意されていただろう、魔王城ダンジョンを無視して、実に迅速に最上階へと辿り着いた。
あっという間に最上階の柱のあるベランダに登り詰めた一行。忍者でもここまで手早く、城には上がれないだろう。
ドラゴン像の足下のベランダから中に入り、その奥に進む。燭台の火で照らされた城内。その廊下を進み、城の中央部に入る。
(ここが決戦場か? そしてあれが……)
そこは円形の大きな広間であった。周囲に悪魔像と思われる彫刻が設置された、かなり雰囲気を作った部屋の中。その中央には、魔の卵と思われる物が浮いていた。
その卵は、これまで多く見た通常の魔の卵とは、大きく異なるようである。色が青く、しかも動かずにジッとしている。
このタイプの魔の卵は、以前にも見たことがある。ガルディス村への街道で出現した、石の巨人というボスモンスターを生み出した魔の卵である。
「なあ、あれって……?」
「迂闊に近づくなよ。多分あれが魔王だ」
慎重に近づく春明達。いつでも戦闘になれるように、一行は臨戦態勢をとる。参加メンバーは、春明・ナルカ・ジュエル・ルーリである。
やがてその魔の卵は、春明達の接近を感知したのか、一瞬で破裂し、最強の無限魔へと変異した。




