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第九十四話 最後のゲームへ

「どうすればいいかって? 別にこっちから言うことはないな。全部お前らの好きにすればいいさ。異世界を渡りまくって豪遊するのも良いし、そっちが望むんなら、この国で高官に取り立ててやるぞ。そう言えば、出世したいって理由で、このメンバーに加わった奴もいたな……」


 鷹丸含めて、その場の者達の視線が、ジュエルの方に向いた。言われてみれば、この女の同行の目的は、立身出世であった。

 レベル上げをしてきた今のジュエルならば、このまま春明と一緒にいなくても、望む地位を得られるだろうが……


「春明が望むなら、喜んでそうするさ。別にこの国でなくてもいいさ。こいつと一緒なら、どんな権力も怖くないし、好き放題できそうだ。どこかの国に仕えるよりも、むしろそっちの方がいいかもな」


 いつのまにか、立身出世への興味が、薄れていたらしいジュエル。これが例の、虹光人の力で、春明に感情が誘引されたせいか? それともこの旅の経験の結果なのかは判らないが……


「そうだな……。まあそのことは、全部終わってから考えるよ。俺がその気になったら、この国での就職の用意もしてくれよ? ここまで俺たちを巻き込んでくれたんだからな」

「ああ、勿論だ。ただその巻き込んだ側が、こんな事言うのも気が引けるんだが……しっかり言っておきたいことがある」


 今まで他人事のように軽い口調だった鷹丸が、ここに来て、何故か顔つきと口調が、真剣味のあるものとなった。


「お前らがどんな道を選ぶにしても……定期的に俺らの監視があることを覚悟しておけよ! お前らがその力で、何かやばいこと……明らかな悪行をやらかした時には……俺らがお前を始末するからな!」

「……あっ、ああ。何か急に怖い顔するな、お前……」

「そりゃあ、そうさ。無限魔のことは、リーム教国がやらかしたことだから、別に俺らが解決できなくても、別にどうってことなかったがな。だがお前らの場合は違う。俺達が選んで、俺たちが力を与えてやったんだ。そいつが何か問題を起こしたら、それは俺たちの責任になっちまう。俺にとっちゃ、世界滅亡の脅威なんかより、そっちの方が重大だ」


 それが鷹丸の答えであった。確かに無限魔の件の責は、全てリーム教国にある。だが世界滅亡より、自分たちの責の是非の方が、重要という。

 どうやら天者達は、別にどんなことでも責任を持って善事を尽くす、博愛主義者ではないようだ。


「ああ、安心しろ! むしろ俺たちが、余の汚いところを、全部ぶっ飛ばしてやるよ! それが勇者ってもんだろ?」

「そうか……是非期待してるぜ」


 かくして全ての真相は告げられ、春明達は最後の冒険の地。ハガネ大陸への旅立ちの準備を始めることとなった。






 その後の顛末は、実に慌ただしく、急ピッチで進められた。天者達によって、事の真相が、世界中に報じられたからだ。

 今までゲームシナリオを動かす仕様上、真相を隠していた赤森王国。だが春明達の冒険が、終盤に入り、彼ら自身にも詳細を明かしたことで、もう隠す必要もなくなったのだ。


 真相を知った各々の国の反応は、実に微妙なものであった。何しろ自分たちを害する災害の原因が、大昔の緑人達の娯楽という、聞きようによっては、かなり下らないものであっただけに。

 中には、何故そのゲームの舞台に、自分たちの国を入れなかったかという、見栄っ張りな非難もあったが……


 ともかく無限魔が、この世界に今でも災いをもたらし続けている今、なるべく早く事を片付けてくれとという、要望が多く。公表後、春明達は赤森王国の観光も碌に出来ないまま、旅立ちとなった。


「また海か……下らないな……」


 一行は海のど真ん中にいた。彼らが今乗る船は、旅客船でも輸送船でもない。赤森王国の巡洋艦である。

 高性能のレーダーを持ち、海の流れを機敏に解析しながら進むその船は、以前のゲール船のように、うっかり無限魔の活動地域に入ってしまうというようなヘマは絶対にしない。

 しかも船の速度も、これまで一行が乗ってきた船の中では、一番航行速度が優れている。船長の話だと、二日もあれば、ハガネ大陸に着くらしい。


 ちなみにその巡洋艦は、外見は、春明達の世界の巡洋艦と、あまり変わらない。ただ一つ違う点は、武装に大型レーザー砲が搭載されていることである。


 ゲームと違って、特に面白いことが起こるわけでもない船の旅。次の大陸に渡る以上は、やはり海を越えなければ行けないのは必然だ。

 だが何もない海の旅に、とうの昔に飽きていたルガルガが、一番不満を漏らしている。


「そうね……てっきり今度は飛行機ってのに乗れると思ったんだけど、残念だわ。それに赤森王国ももう少し見ていたかったし」

「それは別に、全部終わった後でも大丈夫でしょう?」


 ルーリのそんな不満に、ハンゲツがそう口にする。赤森王国にも一応航空機は存在する。他の国には航空機は普及してないし、空港もないので、現時点では赤森王国国内だけの運用だが。

 それでもハガネ大陸まで、一行を届けることはできるだろう。だが今はそれは駄目だとのこと。

 ゲームでは、ハガネ大陸までの道は、船で行くようにしていたから、現実のイベントでも、なるベくその設定に従うとのこと。


「全く……それだったら、最初からゲームで、飛行機を出せばいいのに……」

「まあ、そう作っちまったまったもんは、しょうがないんじゃないのか?」

「そうね……飛行機なら、帰ってから見せてもらうわ。私はあの国じゃ特別待遇の筈だし……」

「帰ってからって……ルーリは帰ったら、赤森に住むのか?」

「えっ?」


 ルガルガの唐突な質問に、ルーリは言葉に詰まった。考えてみれば、全てが終わった後、皆がどうするかは、結構深刻な話しである。


「あら? てっきり、皆春明についていくもんだと思ったけど……私だけだったのかしら?」

「いやぁ……そういうわけじゃ……」


 ハンゲツは最初から、春明に生涯着いていくつもりだったらしい。

 最も金に困らない生活を求めて、春明の仲間になったハンゲツ。彼女からすれば、春明と共にいるだけで、永遠にその心配はなくなるのだから、それが当然の選択だったのだろう。


「俺は一旦村に戻るぜ。無限魔がいなくなったら、俺んとこの学校もまたやるかもしれねえし。一応、卒業ぐらいはしときたいからな。それが終わったら、またお前についてきていいか?」


 そう答えたのはルガルガ。彼女は元々学生で、村の学校が無限魔のせいで休校になって、暇な生活をしていたのだ。

 無限魔がいなくなったからと言って、それで村を離れていった生徒達が、また戻ってくる保証はないが。


「意外だな……お前の場合、学校なんて平気でさぼるもんかと思ってた……」

「割と酷い事言うな……まあ一応、父ちゃんや母ちゃんにも、話しとかなきゃ駄目だと思うしな」


 次にナルカが言葉を口にしてきた。


「私は……何も考えてなかったな。無限魔をやっつけられるって聞いて、何も考えず、誘いにのっちゃったし……」

「まあ、そんな単純な性格だから、目を付けられたんだろうな。そんで実際のとこどうする? 学校とかに戻るのか?」

「私最初から学校行ってないよ。私の村、貧乏だから……」

「ああ、そう……」


 そう言えば彼女が誘いに乗った理由には、金の話しもあったのだった……。学校の話しで、春明はルーリのことを思い出し、彼女の方に向く。


「お前あの学校には……」

「私は戻らないわよ。また誰に何を要求されるか分かんないし。こうなったのも、あんたのせいなんだから、最後まで責任取ってよね」

「……ああ、そうだったな」


 リーム教国で悪目立ちして、逃げるように国を出たルーリ。彼女には、最初から、春明に着いていく以外の選択肢がなかったのであった。


「まあ……とりあえずどうするかは、魔王を倒してからだけどな。とりあえず今から俺も、色々考えておくか……」


 最後にそう言って、春明はこの話しを締めくくる。


「おい……俺に話しは聞かないのか?」

「浩一には、最初から選択肢なんてないだろ? そんな身体じゃあな」


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