第九十二話 無限魔の正体
「ああそれからか。誤解しないよう言うがな、あれは俺たちが作ったわけじゃねえよ。そもそも人を襲わせるようなもんでもなかったんだ。あれはな、大昔にこの世界で盛んだった、ゲームの残骸だよ」
「ゲーム?」
おかしな話しと春明は思った。ゲームとは、自分が召喚された辺りから、行われたのではないのだろうか?
「お前ら、緑人達が人を移住させる前の、この世界がどんなだったか知ってるか?」
「いや、知らねえな」
確か人妖の世界浸食に追われた人達を、ワタナベ・コン率いる緑人達が、この世界に招き入れて移住させた。一般にはこれがこの世界の始まりの記録である。
だがそれ以前のことは、春明も聞いていない。春明はハンゲツの方に、問いかけるように目を向けるが、ハンゲツもすぐに首を横に振る。
「知らないわね。確かずっと前から、緑人の所有地だって聞いたけど。その時代の記録とか、聞いたこともなかったわね、そういえば……」
「ああそうさ。緑人が難民を招き入れるまでは、この世界には人が殆どいなかったのさ」
確かに何億という難民を受け入れたにしては、原住民との接触・交流の記録がないのは変である。だが元々この世界が、無人の世界だったというなら、話しは別であろう。
「元々この世界はな……緑人と半緑人達が、娯楽用に開拓した世界なのさ。とうに人妖に滅ぼされて、命が完全になくなって、世界そのものが消滅しかけたときに、この世界を改造したのさ。渡辺 紺ってのは、同じ緑人でも、俺たちより遥かにすごくてな。何もなかったこの世界を、あっというまに緑溢れる森に変えたんだそうだ」
それは確かに凄い。リームが崇拝するとおり、ワタナベ コン=渡辺 紺は、飛んでもない偉人であった。
「そんでこの世界を、何に使ったかって言うとな……自分たちが遊ぶための狩り場にしたんだよ。世界中のあちこちに、ゲームビースト……今の時代で言う無限魔の種を植え付けた。そしてそいつらを、この世界に無限に発生するシステムを組み込んだ。大勢の半緑人や、その家来の精霊や神獣なんかが、そいつと戦いを演じて、長すぎる寿命の退屈な時間を満たした。要はこの世界は、巨大なゲーム競技場だったわけだ」
「へえ……そいつは面白そうな世界だな」
あまりに壮大でとんでもない話しが出てくる。世界を一つ丸ごと使って、娯楽場にするなど、当時の緑人というのは、どれほどの高見の存在なのだというのだろう?
このとんでも話に、ルガルガ以外の一行は、何も言わずに黙って、鷹丸の話しを聞き続けている。
「そのゲームもどんどん複雑で、色んなイベントが組まれるようになってな。ついには魔王討伐ていう、かなり大掛かりな祭りも開かれたのさ。そいつはな、お前達今までしてきたような、世界を平和にするための戦いって言う設定の茶番だよ」
「俺たちがしてきた?」
「ああ、まずはそのゲームの為のシナリオを作って、この世界のシステムに組み込むのさ。そうすると世界中に出てくる無限魔の数が、今までゲームよりずっと沢山出てくる仕様さ。それで勇者役に選ばれた奴が、世界中の街を巡って……まあ当時は人がいなかったから、人形で再現した作り物の街だったようだが。そこいらでイベントをこなして、どんどん先に進んで……そんで最後には魔王役の無限魔を倒してエンディング。そうすれば大発生した無限魔はいなくなり、世界平和になったて設定で、お祭りは終了さ」
「人がいない世界で……すげえ茶番だな、おい……」
「ああ……そうだな。人がいない世界だからこそ、気軽に出来たお祭りだ。だけどよ……世界に人が住んでる状態で、この祭りのシステムが、間違って発動すると、かな~~りやばいことになるのさ。それが今のこの世界の状態だよ」
どうやらとうとう、話しに確信に入り始めたようである。
「人妖の侵攻で、色んな世界が滅ぼされ続ける中で、初代の緑人のレイコ、今はゲドと名乗っているあいつが、自分たちの故郷世界の人間を、一斉に人口の少ない別世界に移住させる大事業を起こしたんだ。これがきっかけで、他の世界の奴らも、自分たちの手にある世界に避難させないかって話しが出てきた。それでこの世界が、そいつらの移住先になったわけだ」
「そいつらは、ゲームの方は、もう良かったのか?」
「ああ、丁度その頃、色々あって半緑人達の数が、大分減っててな。そのゲームをする奴も、少なくなってたから、丁度良かったみたいだな。この世界に自然発生するシステムになってた無限魔も、全部封印されて、この世界は元の無人の世界になった。それで色んな世界の奴らが、この世界に流れ込んだんだがな……だがある時、ちょっと問題が起きたんだ」
色々壮大な話しや、問題が起こった歴史を、随分軽い口調で話す鷹丸。まあ本人からすれば、自分が生まれる遙か前に、関係ない所で起きた事件なのだから、当然であろうが。
「さっき言った、魔王討伐のイベント。あれが途中で、間違って作動しかけたんだ。どうやら途中で追加したパッチのこれは、初期設定と違って、完全に封印できなかったらしい。すぐに再封印したが、それが結構力押しだ。無限魔発生のエネルギーを放出する場所を、でかい蓋で閉じるやり方だよ。上から蓋と重しをのっけて、無理矢理無限魔が出ないようにして、祭りの開催を止めてたわけだ」
「蓋と重し? 私が会ったあのタンタンメンという霊獣か?」
ジュエルが自分が体験したあること思い出し、そう問いかける。彼女が確信していることは、あの火山での事件である。
「そうだ。タンタンメンが重しで、その下のマグマの下に蓋があった。でもあいつが……その役目を放棄したせいで……力が一気に吹き出て、蓋が壊れちまったのよ。それがあの、ど派手な火山噴火だ」
タンタンメンが火山から離れ、その数日後に大規模な火山噴火が起きた。そしてそれから、世界中に無限魔が溢れるようになった。それがこの件の真相であるようだ。
「一度始まっちまった、魔王討伐というイベントを、止める方法はただ一つ。そのイベントそのものを、正攻法で攻略して、イベントを終了させることだ」
「それで俺たちにあんな茶番を?」
「ああ、そうだ」
どうやらこれまでの春明の旅は、この世界に組み込まれた、大規模イベントの道筋だったらしい。
そしてそれを終わらせることこそが、世界中に発生した無限魔を抹消する、唯一の方法であるのだ。長い鷹丸の説明の後には、翔子が話しを引き継いだ。
「それ以前にも私は、このイベントを、直接止める方法を探ったんだけど……結局駄目だったの。でもイベントのシステムの一部に、介入することが出来たわ。魔王討伐イベントの道筋になるシナリオ、それをある程度、こっちで決めることが出来たの」
「そのシナリオって……まさかあのゲームか?」
「ええ、春明さんがプレイしたあのゲーム。鶏勇者のストーリーは、それに組み込んだシナリオで作ったの。ゲームをごく自然にクリアするには、そのシナリオ通りに動かさなきゃいけない。でも短編ゲームみたいに、数回バトルしただけで、話が終わるような、単純なシナリオでも駄目だったの。システムが満足して終了するには、それに最もらしい長めのシナリオを用意しなきゃ……」
「最もらしいシナリオか……それで俺なわけか?」
異世界から召喚された勇者が、世界中を歩き回り、仲間を集めながら魔王を討伐する。確かにそれは、ありふれた王道で、尚且つ最もらしいシナリオに違いない。
「ええ、そんなとこ。私達は、この世界だと有名人で、シナリオを動かすのに不便だから、別の人に頼むことにしたんだ。あのゲームを異世界の人達にプレイしてもらって、その中でも一番ゲームに熱中してて、それでいて勝手にこっちに喚んでも怒らない人を選別したら……今の春明さんが選ばれたんだ」
「怒らない? 随分勝手なことを言うな……。俺がこの世界に来て、どんな目にあったと思ってる?」
今まで冷静に黙って聞いていた春明。だが今ので、明らかに声に怒気が満ちていた。
彼はこの世界に来て早々に、無限魔に何十回も食い殺されたのだ。その時の痛みと苦しみを思い出せば、喚んでも怒らないなどというのは、実に心外な発言であった。
「そっ、それはその……」
「でも最終的には、かなり良い思いをしただろ? これだけの力に、これだけの女を囲ってんだ」
「ぬう……」
翔子を庇うように、鷹丸が話しに割って入る。それに春明は、あまり強く反論しなかった。
確かに最初以降は、かなり良い思いをしていることは確かである。春明が色々思い悩んでいるとき、今度はハンゲツが声を上げる。
「じゃあ私から次の質問よ。春明の力って、一体何なの? 虹光人とか聞いたけど、貴方たち緑人とは違うのよね?」
発せられたのはその質問だった。ゲール王国で、ドーラが不思議にその力の内容を話したように、春明の力は今までの常識から見ると、かなり異質なものである。
この国に来てから虹光人と虹光石という単語を聞いたが、具体的な力の詳細は謎である。
「ああ、春明は緑光人よりも、更に進歩させた虹光人だ。虹光石ていう特殊な石を、人の肉体と魂に融合させて、ぶっ飛んだ力を持った人間を生み出す。力はお前達が知っての通りが、ほとんどだよ。緑光人と違って、血を分け与えずに、側で鍛錬を積むだけで強くなれる。その上、時空をある程度操作して、死から蘇れるっていう、俺から見てもとんでもない力だったが……」
「それをこのイベントのために、わざわざ作ったの?」
「いや、俺らが作ったわけじゃねえ。ゲドから貰ったんだ」
「ゲド?」
その名前は先程も聞いたばかりだ。自分の故郷世界の住人を、別世界に移住させた、初代の緑人である。




