第九十一話 瀬能 鷹丸
さて試練という名の見世物試合を終わらせて、春明達はこの国の王城までやってきていた。
高級タクシーのような立派な乗り物で、その土地まで送って貰う。そして案内役の侍ぽいなりの女性達に連れられて、その王城の城門までやってきた。
その城は辺りを漆喰入りの城壁で囲まれており、城門は物見櫓のような大きな屋根がついている。城門は木製で、塀も合わせて特殊な結界で覆われていたりはしなかった。
人が押すアナログで門が開けられて、一行はその城壁内に入っていく。
「これが赤森城? 何か普通ね……」
今までこの国で、実に圧倒的な物を見せ続けられていたためか、ルーリはその王城の景観に、やや残念そうである。
「建物の形は違うだろ? 私達の国では見ない外観だ」
「そうだけどね……もっと山みたいにでかくて、すごいの想像してたわ……」
その城壁内には、幾つもの建築物があり、少し高いところに、天守閣があるのが見える。
建物全般のデザインは和風である。天守は十数回建ての、大きな箱形の建物であり、建材は石が多い。屋根は瓦屋根で、まるで西洋の要塞に、和風のアレンジをしたようだ。
城壁内には、豪華な和風庭園が広がっている。整備された大きな池に、手入れがされた木々の数々。一部に演習場と思われる広場。建物のも多種多様で、兵舎と思われる城に次ぐ建造物があったりする。
少し離れた所に、大量の木が生い茂っている地帯があるのが見える。おそらく中には、広い林が広がっているのであろう。
(皇居か何かか? 何だか文化遺産の観光みたいだな)
率直に言えばそこは、普通の城である。天守も建物としては大きいことは大きいが、これまで通った街で何度も見た、高層ビル群の方が遥かに大きい。
この国の最高権力者の居城が、ただの民間・商業の建築物に見下ろされそうである。
規制がされているのか、王城周辺数キロには、あまり大きな建物はない。だが遠くからでも見える、多くの高層ビルの方が、こちらより遥かに目立っている。
「この城と庭園は、天者様がこの国に召喚される前から、数百年前よりこの国にあったのであります。今でも万全の手入れがされており、現在でもこのような美しい庭園と城を見ることが出来るのです」
案内役の女侍が、まるで観光案内のように、そう説明してくれた。
「ああ、そうか……この国が変わる前からあった城なのね……」
「つまりはあの簀巻きにされて、川に流された王様の城だよな? こんなとこより、もっと格好いいとこ住めばいいのに……」
「そうですか? 私はこっちの方が、自然があって綺麗で良いと思いますけど?」
「そうだな。でかいとこに住めば格好いいわけでもないぞ」
ナルカの感想に、春明も同意する。日本の天皇だって、住まいは最新建築技術のビルではなく、古くからある皇居である。
女侍達に連れられて、一行はその美しい庭園が広がる城内を歩き、やがて靴を脱いで天守にまで入った。
天守の中も、木の床と漆喰の壁の廊下が多く、出入り口も綺麗な襖で、実に和風である。そこに入る出入り口も、アナログの木門であった。
……だが上階に行く道は、何故か機械式のエレベーターであった。
「折角こんな良い感じの史跡なのに、エレベーターなんて入れるなよな……」
「ああ、大阪城かよ、これ……」
古くからある建物なのに、日本のデパートにありそうな、金属の箱に入っている春明達。
鉄筋コンクリートの復元天守のような、風情のない仕掛けに、春明と浩一が愚痴るが……
「そうは言われましても……機械式の昇降機は、天者様が来られるよりずっと前から、あったようですよ。今は旧型になってて、新しく昇降機を改築したそうですが……」
そんな回答を女侍がしてくれる。どうやらこの国に、機械技術は、天者が来る前から、多少はあったようだ。
やがて最上階より一階前の、大広間に通された一行。襖の外側にある、階の外周を囲う廊下には、ガラス張りの大きな窓が延びており、周りの風景がよく見える。
ただし遠くの街に聳え立つ、高層ビル群が、悪目立ちしているが……
大きな会議にも使われているのか、広間は無駄に広い。時代劇の殿様が出てくる場所より、遥かに広い。一行はその広間にやってきた。
ちなみに彼らは今、さっき貰った武器を持ったままだ。武装した物を、天守の大事な部屋に通すとは、実に懐が深い。
(まあゲームだと、装備付けたまま平然と王様と謁見したりしたけどな……)
そんなことを考えながら、春明達はその広間の奥に座り込んでこっちを見ている、二人の人物に目を向けた。
「直に会うのは今で初めてね。じゃあ改めて、自己紹介するわ。私が天者の一人で、この国の王妃の、佐藤 翔子よ」
「そして俺が、赤森国王の瀬能 鷹丸だ。よくまああんな茶番に付き合って、ここまで来てくれたな。歓迎するぜ! いやぁ……お前らの活躍、今までずっと見てたぞ! 随分色々やるじゃねえか! 一応大事な仕事だったが、いつもの闘技試合なんかより、よっぽど見応えがあったぜ!」
そこにいたのは、さっきも競技場で顔を見た佐藤翔子と、この国の国王であった。
それは外見は、翔子と同じぐらいの、十代前半ぐらいの少年であった。見た目が幼すぎるというのは、今更驚くようなことではない。何しろ相手は、不老不死の緑人なのである。
今まで見てきた天者は、角や葉っぱが生えていたりと、純人とは異なる特徴があった。現に、今初めて全身の姿を見る翔子には、龍のような尻尾が生えている。
だがこの少年=鷹丸は、そういった特徴はない。完全に普通の人間=純人である。完全に日本人と同じ、黄色系の人間であった。
彼は黄緑色の着物の上に、紫色の羽織を着込んでおり、王様と言うには少々雑な衣装である。
(こいつが瀬能 鷹丸か……。かつて大石眼を倒し、人妖を滅ぼして、この世界を救った英雄……)
(どうしよう……私王様なんで初めて見るんだけど! しかもそれがこの赤森王国の王様!?)
メンバーの半数が、あまりの大物の出現に動揺し、何を返せばいいの判らない。だが全く臆していない者がいた。
「お前がここの王様か? じゃあ春明をこっちに呼んだり、俺を誘ったりしてくれたのもお前か?」
何故か最初に声を上げたのはルガルガだった。レックの時といい、相手がどんな大物でも、全く臆さない女である。
「ああ、そうだぜ。俺たちが春明をこの世界に召喚して、お前らを春明に引き合わせたんだ。まあ、最初にこれを発案したのは翔子だけどな。ちなみに今まで、あのウィンドウ画面で文字を送って、お前らに色々言ってきたのも俺だ」
今までの最大の謎を、あっさり暴露する鷹丸。どうやらここに来て、隠し事をする気は全くないようであった。
春明にとっては、相手が国王だろうが何だろうが、そんなことはどうでもいい。ただ知りたいのは、自分たちに起きたことの全容だけである。
「お前も俺に聞きたいこと、山ほどあるだろ? 何でも聞けよ。もう隠す必要もないしな。正直俺も、お前のこと勝手に巻き込んで、悪かったとは思ってんだ」
「そうかい……じゃあ、何から聞くかな? そうだな……じゃあ最初に、あの無限魔ってのは何なんだ? お前らが作ったわけじゃないよな?」
フリーゲームをしていただけなのに、何故かこの世界に巻き込み、ゲーム通りの茶番に付き合わせた張本人。当然聞きたいこと、言いたいことは、山のようにある。
春明は色々悩んだが、まずはこの世界で最初に起きた異変である、無限魔の出現について質問することにした。




