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第九十話 鳥獣人再び

「命の一撃ぃぃっ!」


 ルガルガが自身の最強のリミットスキルである“命の一撃二式”を放った。

 今まで使ってきた、気功強化された斧の一撃とは、比べものにならない出力の斬撃。それが魚竜の片足に炸裂する。それは実に深く、皮と肉は避けて、骨が半分までめり込んだ。


「ピギャァアアアアッ!」


 片足をやられて、魚竜は倒れ込む。だがもちろんこれで終わりではない。魚竜が大口を開けると、そこから圧縮した水のブレスが放出された。それがルガルガの方へと飛ぶ。


「ぶぐっ!」


 だがそれを春明が盾になって止める。ルガルガの前に出て、気功防御を最大まで発動させて、その水のブレスを身代わりになって受け止めた。

 吹き飛びはしなかったが、水の衝撃が彼の全身を伝わり、少なくないHPの消耗を起こしていた。一方庇われたルガルガの方はというと……


「うげぇえええええっ……」


 血を吐いてぶっ倒れていた。弱々しく地面に倒れ込む彼女の全身の肌には、内出血でも起こしたのか、あまり健康的でない変化を起こしている。鉞を手放した両腕も少し曲がっており、間違いなく骨折しているだろう。

 ステータスを見ると、彼女のHPはゼロに近い数値にまで減っている。最初に魚竜に打ち込む前は、これほど弱っていなかった。


 別に攻撃を受けたわけでもないのに、何故この様な事になっているのかというと、実はあの命の一撃二式という技、威力は凄まじい。

 だがその代わりに一発撃つと、反動で自分もダメージも受けるという厄介なハンデがあったのである。ダメージ量は、全HPの半分ぐらい。とてつもない大ダメージである。


「無茶すんなよ……」


 連発する魚竜のブレスを春明が受け止めている中、浩一が呆れながら、ルガルガを抱えてその場から退避する。

 ルガルガが背後にいなくなると、盾になる必要がなくなり、春明は敵のブレスを防護ではなく回避に移る。

 マシンガンのように放たれる、水の弾丸を、春明はどうにか避けながら、アイテムボックスから青い薬瓶を取りだした。


「ほらポーションだ! 飲め!」


 それをルガルガを背負った浩一の方へと、勢いよく投げつける。浩一は俊敏な動きで、それを空中で見事キャッチ。

 直ちにルガルガに飲ませにかかる。ルガルガは自力で飲む力も残っていないので、強引に薬瓶を口に突っ込んで飲ませていた。


「死ねいぃ!」


 魚竜も息切れを起こしたのか、ブレスの乱打が一旦止む。その隙に春明が攻撃に転じた。先程も放った大一撃二式を、魚竜の首目掛けて斬り付けた。

 本当ならば、これで敵の首を斬り落としたかったのだ。だが魚竜は器用にも、倒れた姿勢で、胴体と首を動かし、それが首に当たるのを回避した。

 代わりに肩に命中して、深い傷を負わせるが、致命傷とはほど遠い。

 攻撃後、春明はバックステップで魚竜から距離をとったが、魚竜が再度放ったブレスを受け手、また吹き飛んでいった。


「てりゃあっ!」


 春明が向こうの見えない壁に打ちつけられている間に、今度は浩一が走り出た。ルガルガは魚竜の攻撃が届きにくい裏側の方で寝かされている。HPが充分回復するには、まだ時間が必要だ。


 浩一の刀の刀身が、虹色に輝き、魚竜の腹部を切り裂いた。これは浩一の最強のリミットスキル“殺戮斬り”だ。

 強力な斬撃と共に、複数の種類の毒を敵に流し込み、毒・麻痺・衰弱・出血の、多重の状態異常にかける技だ。

 腹部から大量の返り血を浴びながら、浩一は即座に魚竜から距離を取ろうとする。だがこれもまた間に合わず、魚竜の尻尾の一撃を受けて、また吹き飛んでしまった。


 リミットスキルを使った、三人の敵を吹き飛ばした魚竜。だが魚竜のダメージも半端ない。足をやられて立ち上がれない上に、殺戮斬りの傷口から入った毒が、魚竜の身体を蝕む。

 彼の身体の動きは弱々しくなり、傷口は異様な程の出血が起きていた。だがこの時に、最上級スキルを使い続けていた春明達は、SPもTPも、空に近い状態であった。


「はぁあああああっ」


 ただ一人、まだTPを残しており、さっきまでTPドリンクで補充をしていたハンゲツが、ここにきてリミットスキルを発動させた。

 すると鬼の様な姿をした、3匹の怪人型の霊体が、その場に召喚される。そしてそれらが、ハンゲツ以外の味方全員の身体に乗り移った。


(うぉおおおっ! 身体が熱いぜ! これでまだやれる!)


 春明から二つ目の回復アイテムを飲み干し、身体が異様な速度で回復しているルガルガが、自身の身体に強い力が沸き上がっていることに歓喜した。これはルガルガだけではない。

 今ハンゲツが使った魔法は“ボルテージ”という、自分以外の味方全員のTPを100%にまで上げる技術である。これによってハンゲツ以外の全員が、再びリミットスキルを放てるようになった。


「「うりゃぁああああっ!」」


 春明達が再度大技を放とうと、魚竜に突進した。魚竜もブレスで応戦するが、麻痺効果のせいで、思うように狙いを付けられずに、それらは全て躱されて、客席の結界に激突四散した。


 春明達のリミットスキルが、再び魚竜の五体を切り裂いた。春明の大一撃二式が、魚竜ののど笛を、深く斬り込んだ。

 ルガルガの命の一撃二式が、魚竜の腹を叩きつけて、腹の肉を切り裂き、内臓を破裂させる。それによってルガルガがまた血を吐いているが、これは仕方がない。

 浩一の分身斬りが、魚竜の全身を小刻みに切り裂いた。


 全身を切り裂きまくられ、血を流しに流して、競技場内に大きな赤い池を生み出した魚竜。

 こんなグロテスクな光景を、国中にテレビ放映して大丈夫なのか?と春明が疑問に思う中、魚竜は完全に生命力を失う。今まで持ち上げていた頭が、地面に倒れ込む。そのまま息絶えてしまった。


『よっっしゃぁああああ~~~! 春明チーム、第二の試練も大勝利! 超大技の総攻撃の二連発! この猛攻にさすがのキングフィッシュドラゴンも耐えられるわけもなし!』


 清司郎の実況により、第二試練の突破が制限された。魚竜の死体も、先程のキングゴーレム同様に、転移と思われるもので消滅した。

 死体だけでなく、辺りに飛び散った血も、綺麗に拭き取られたように消えている。さすがはハイテク設備の競技場である。


『さてさて、予想外の速さで、一度のコンティニューもなく試練を突破した春明チーム! 次が最後の試練だ! さあ、次はどんな大物が出てくるか!?』


 清司郎の最後宣言と共に、観客席の歓声が一斉に上がる。春明達を応援する声も、今までになく大きい。そして梅子が、また先程と同じように歩み寄って、召喚装置を発動させた。


「ちょっと早いけど、これで最後よ。回復は早めにしなさい」

「ああ……」


 また倒れたルガルガに、ありったけの回復役を飲ませながら、春明は頷いた。そしてルガルガを、ナルカと交代させた直後に、最後の試練の無限魔が出現した。


「やっぱりこいつか……」

「大丈夫! また私が、撃ち落としてあげます!」


 春明が想定したとおりに、次に出現したのは、以前リームの砦で戦った、鳥獣人の近縁種であった。

 ただしこちらは全身が青っぽく、以前より地味な色合いである。


 この無限魔との戦闘法は判っている。空を飛んでいるところを、銃で撃ち落とせば良いのである。

 ナルカが銃を構え、敵の攻撃に備える。鳥獣人も、以前と同じように、大空へと舞い上がった。


 ガンッ!


(えっ?)


 だがここから先が、少々間抜けな光景であった。大空へと飛び上がろうとした鳥獣人。そのまま競技場の天井を突き破ろうとしたようだが……突き破れずに自爆した。

 鳥獣人の脳天が、頑丈な天井の板に激突し、そのまま昏倒して、ふらふらを宙を舞いながら、ゆっくり下降していく。

 以前リームの砦の天井は、紙のようにあっさりと突き抜けた。だがこちらはあの時とは、紙と鉄ぐらいの大きな差があるようである。


「あらら……戦わせる場所を間違えたわね……」


 退避していた梅子が、その光景を見て、呆れながらに呟く。空を高速で飛び回れるのが、この無限魔の強みなのに、ここではその真価が、全く発揮されないだろう。


「ば~~ん」


 ナルカが気の抜けた声を上げながら、魔導銃の引き金を引いた。

 風の弾丸が、低空飛行している鳥獣人に、実にあっさりと命中。それによって鳥獣人は、弾丸の衝撃でまた垂直に飛び、またもや天井に激突し、墜落した。


 そのまま頭から地面にまた激突する鳥獣人。その間を、春明達は逃がさなかった。


「ちょっとずるいが……行くぜ!」


 地面に落ちた鳥獣人に、春明達が斬りかかる。ハンゲツによってステータスアップした大技が、為す術のない鳥獣人に、次々と炸裂した。

 やがて鳥獣人は、今までよりずっと早く、絶命することになった。


『春明チーム、最後の試練も、圧倒的余裕で突破! 空飛ぶ敵を、競技場の壁にぶつけるという、見事な戦法での、大勝利だ!』


 清司郎の実況に、その場の全員が、それは違うだろ?と頭の中で突っ込んだ。だがそれを決して言わない、心優しい観客達。

 全ての試練を突破した春明達に、盛大な拍手と歓声が轟いた。


「ねえ、春明……これもゲームのイベントに合ったのかしら?」

「いんや、まさか……」


 ハンゲツの問いに、春明は即答で否定した。ゲームでは、戦闘を行うフィールドがどこであろうと、敵の戦闘力が変化することはない。

 たとえ狭い洞穴の中で、あの鳥獣人のような空飛ぶ敵が現れても、その戦闘ステータスが変化することもないし、敵が勝手に壁にぶつかって自爆するという、珍事故も起こりえなかった。

 だが現実のこの世界では、戦う場所にある程度、考えておかねばならないようである。


『さて、この試練を見事突破した春明チームに、早速賞品を授与だ! それはこの、世界を動かすほどのエネルギーを秘めた、最高級の虹光石の彫刻。虹色の麒麟像だ!』

「ども……」


 係員がその場にやってきて、トロフィーのように、春明達に渡した物。それは四つ目の封印の麒麟像であった。

 これにてゲームにおける最重要アイテムである、四つの麒麟像が、全て春明の手に渡ったことになった。



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