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第九話 最初の村

 しばし時間が経ち……


「ひいひい……やったぜ、こんちくしょう……」


 刀を杖にして、疲れ切った表情の少年。服がかなり破れ、身体中に打撲の後と、滲み出る血が流れ出ている。顔も元の美形の顔が、見る影もなく腫れ上がっていた。

 そして彼の目の前には、泥水を撒き散らしたかのように、グチャグチャになって散乱している、ジェリー達の死骸がある。散乱して判りづらいが、一応これは三匹分ある。

 彼はもう僅かにも動かない。恐らくもう死んだと思われる。彼は植物怪獣の時のような、派手な雄叫びは上げないものの、その表情は勝利の余韻で満足しきっていた。


 ジェリーとの戦闘は、最初の植物怪獣以上に、熾烈を極める戦いだった。斬っても斬っても、すぐに元に戻って反撃してくるジュエリー達。

 こちらのダメージも重く、時々隙を突いて逃げ回りながら、気功治癒を行って、どうにか長期戦を保つことが出来た。

 刀による攻撃は、一応ジェリー達にある程度のダメージを与えていたようで、再生しながらも、徐々にその動きが弱っているようで、ついさっきようやく動かなくなったところだ。

 彼は自分の状態と、経験値を確認してみる。


《春明 Lv20 HP42/160 SP14/60 》

《獲得経験値 185/1000》


 最初に得た獲得経験値は50あった。それはつまり、あの植物怪獣から得た経験値が50であり、その後の135がジェリー達を倒した経験値ということになる。

 幸運の麒麟像の三倍効果を考えれば、あのジェリー一匹の元々の経験値は15ということだろう。


(一度のシンボルに三匹出てきたとして、レベルアップするには、あと六回は戦わなきゃいかんな。楽勝かと思ったが、結構きついな……。いやあの蜂やジェリーに、運良く出会わなければ……)


 色々考えても仕方が無い。彼は気功治癒で己の傷を回復する。気功治癒の消費SPは10であり、先程のジェリー戦で5回消費した。本当ならSPは0になっている。

 だが元のゲームのシステムでは、主人公が通常攻撃OR防御を行うと、SPが少量回復するシステムになっていた。それが適用されているのかもしれない。


 回復率は通常攻撃の場合、全SPの1/30。防御の場合は1/15である。だけれどこっちの方では、この計算が違うのかもしれない。敵を斬り付けた回数は、少なくとも20回以上はあったはず。回復量が割に合っていない。


(ゲームだったら、スキル無し攻撃での回復で、回復アイテム無しでもかなり戦えたが……ゲームよりしんどくなってないか? このままシンボルにぶつかりまくると、確実にまた死ぬな。仕方ない、回復できる拠点が見つかるまで、なるべく戦闘は避けるか……)


 ゲーム通りなら、恐らくこの先にも、複数のシンボルが現れる。ゲームだったときは、道中進んでシンボルにぶつかったりしたが、今のこの世界では、そんなことをする余裕はなさそうだ。

 彼はセーブを行い、再び森の先へと進んでいった。







 それからしばらくして、最初は空の天辺にいた太陽が、大分沈み始めた時間。


「やった……村だ……」


 彼はようやく、人工物らしきものを発見して歓喜した。

 ここに来るまでの課程に、やはり予想通り、あのシンボルは多数森の中を浮いていた。こちらが近づいてみると、それに反応してか近づいてきた。

 幸いそれほど高速で動くわけではなく、全速力で走れば逃げることは可能だ。そんなこんなで森の各所にいるシンボルから、彼はとにかく逃げ回った。


 一回だけ逃げるのをしくじって、戦闘になったこともあったが、何とか勝利した。この時戦闘になったのは、二回目にあったあのトカゲであった。

 前は三匹ではあったが、その時は二匹で、ジェリーのような悪い相性もないので、特に問題もなく倒すことが出来た。勿論無傷というわけでもなく、何回か噛みつかれたり、爪で引っかかれたり、尻尾で殴られたりして、戦いが終わった後は、HPが三割ほど減っていた。


 ちなみにこの場所に辿り着く過程で、少し違和感のあるものを幾つもみた。この村に近づくにつれて、やたらと倒木や、動物の骨を見かけるのだ。当然倒れた木の切り株もである。

 彼は植物の専門家ではないが、それは出来上がってからさほど時間が経っていないように見える。そのせいか、この辺りの樹木の密度は、最初にいた森よりも低い。


 彼は森林を抜けて、その場所に足を進める。途中で簡素な柵のようなものがあった。何本もの支柱が、一定の間隔で、木々との境の地面に刺され、工事現場のテープの柵が張られている。


(この森は、立ち入り禁止区域なのか?)


 そうは言っても、気がついたときには、あの森の中にいたのだから、咎められる筋合いはない。彼はその柵を跳び越えて、森の領域を抜ける。

 そこは広い水田であった。幾つもの四角く区切られた田が、何十もある。傍らには草が生えた盛られた土の間に用水路と思われる川が流れている。

 稲は大分成長しており、青々として高い稲が数え切れないぐらい生えている。その生長具合からして、今のこの世界の時期は、夏の終わり頃なのかもしれない。勿論これは日本の気候を参考にしての判断だが。


 もっと遠い場所には、水田ではなく畑と思われる区域が、遠目からも見える。そしてそうした農地に囲まれるように、幾つもの建物が密集して立っているのも見えた。

 その水田の中に、その集落地に続く農道と思われる道があり、彼はそこを歩いて行く。途中で水田の内部で、雑草抜きと思われる作業を行っている人の姿が見えた。

 ジャージのような黒い服を着た、鎌を持った三十半ばぐらいの男性だ。顔立ちは日本人と同じ黄色系に近いが、肌の色は何故か日焼けしたような褐色だ。


「やった! 第一異世界人発見!」

「へっ!?」

「あっ!」


 つい大声を上げてしまい、その農夫と思われる人物が、驚いてこちらに顔を向ける。これに彼は、しまった!と慌てた。

 この世界に来てから、人と会うのは初めてなのだ。あの植物怪獣との戦闘によって、リセットされた時間を含めるとどのぐらいの時間が流れたのかは不明だ。だがその間に色々ありすぎて、彼にはまるで何日も山の中を遭難していたような錯覚を覚えていた。

 不思議そうな目でこちらを見る農夫に、彼はどう切り出すべきか悩んだ。


(え~~と、確かゲームじゃ俺は記憶喪失設定で、ここで自分の身元を聞くんだよな……それで俺はどうすればいいんだ? ゲーム通りに行けばいいのか? それとも異世界から来た、とでも言えばいいのか? でもそれだとおかしい奴に思われるんじゃ?)


 彼の作業着から、この世界の一般の服飾文化がどのようなものかを推察するのは難しい。だが少なくとも、こんな和装が一般に着られている文化には思えない。

 だとすると自分は、この農夫から見て、変な服を着た不審者である。どう話しをすればいいのか、確かに悩むところだ。


「異世界人? あんた異世界からの迷い人か?」

「……えっ!? あっ、はい! そうなんです! 気づいたら森の中にいて……」


 何とこちらが説明する前に、向こうからこちらの素性を理解してくれた。初対面の相手に向けて、なるべく失礼のないよう、且つ少し及び腰で彼は答えた。


「何とまあ……変な身なりと思ったら、本当かい!? そいつは大変だったな! 来たのはあっちの森かい!?」

「ええ、そうです」


 農夫は自分が来た道を指差し、彼もその通りなので正直に答える。それに農夫はまた驚き、そして気の毒そうな目を向ける。


「そうかい……あそこには無限魔がゴロゴロいるし、よく無事だったな」

「無限魔? あの変な玉のことですか?」

「そうだよ。何年か前から、世界中に湧いて出てな……まあここで話すには長くなるし、とりあえず憲兵所までいかないとな!」


 農夫は水田から出て、農道に置いておいた荷物を持って、彼を村まで案内してくれた。理解が早い上に、とても親切である。

 さっきの口ぶりからして、異世界からの迷子というのは、この世界ではさほど珍しくないのかもしれない。ゲームではその辺に関する設定は、何一つ無かったが。


「ところでちょっと聞きたいことがあるんですけど……」


 だがここで彼は、常人なら真っ先に気づき驚くべきであろうことを、ここに来て農夫に問いただしてきた。彼は今一度、農夫の姿を見てみる。

 一見普通に見える農夫の身体や服は、少し透けていた。持っている鎌などの農具以外は、まるで色つきガラスのように、うっすらと透明で、向こうの風景が少しだけ見えるのだ。


「あなた……幽霊ですよね?」

「ああ、そうだよ。そちらの方では珍しいのか?」


 ゲーム「鶏勇者」で、主人公が最初に冒険する地の名は、「ゲール王国」。人と霊が共存する、霊媒国家であった。


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