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第八十七話 石の巨人再び

『さ~~て、春明チームの準備は整ったようだ! それではこれより本イベントだ! 行われるのは、この競技場内での熾烈なバトル! はてさて、彼らは勝ち残れるか!?』


 新しい装備品の具合を、あらかた確かめたところで、まだこちらがOKを出していないのに、清司郎がイベント開始を宣言した。


「ああ、イベントってのは、やっぱり戦うのね」

「おっしゃあっ! 燃えてきたぜ! どんどん来い!」

「それで誰を戦闘メンバーに入れるんだ? 俺はいつでもいいぜ?」


 皆が乗り気になっている中、春明はふと不思議に思ったことを口にする。


「なあ、翔子よ……。なんで赤森での試練が、こんな派手な見世物になってるんだ? ゲームじゃもっと、地味なダンジョンだったよな?」

『うん、そうなんだけどね……。今までも沢山の国民から、春明さん達が何なのかっていう、質問が凄く多いし。それに虹光人のことも知りたがってる人もいるし……。いっそ後のことも考えて、ここで世界中に春明さんのことを伝えた方がいいと思って』

「政治的な理由で、ゲームのシナリオを変えたのかよ……」

「お~~い、春明! さっさと誰がいくか決めようぜ!」


 翔子と話している中、他の皆は既に競技場の中心近くに移動して、リーダーの決定を待っている。


「ていうか周りの観客が凄いんだが……こんな所で、俺らが全力で戦って大丈夫なのか?」

『それは大丈夫! 観客席には、すごく強い結界を張ってあるから! ここでは今みたいな闘技大会が、良く開かれてるから、それは保証するよ。ほらっ、早く言ってあげたら?』

「結界か……それじゃあ俺の“レグン覚醒”を使っても……」

『あれは駄目! さすがに“あの力”には、ここの結界も耐えられないわ!』


 翔子が焦った様子で、春明の問いを否定した。今春明が口にしたことは、彼の仲間達からも忌諱されているものであっただけに。






 今までと違って、十万人以上の観衆が見つめる中で、この国での春明の最初の戦いが始まろうとしている。

 係員は既に、競技場のグラウンドから避難しており、ここには春明達一行だけがいる。

 控えメンバーは、グラウンドの観客席近くの脇の方で待機。そして戦闘メンバーが、グラウンド中央付近で、いつでも戦えるように身構えていた。

 戦闘メンバーは、春明・ジュエル・浩一・ルーリである。


(さ~~て、どんな強者が出てくるか? ……おや?)


 向かい側の、競技場の入り口から出てきたのは、一人の少女であった。歳の頃は、小学校高学年ぐらい。黒目黒髪と、日本人と同じ黄色系人種だ。


「皆様初めまして、私は天者の一人の、若松 梅子(わかまつ うめこ)ですわ!」


 歩を進め、こちらにある程度近づいてから、自らを天者と名乗る少女=梅子。観客席からも、梅子の登場に驚き、歓声を上げる客もいる。


「まさか梅子様が、春明と戦うのか!?」

「でも梅子様一人だけ? いくら何でも、四人相手じゃ……」


 観客席から、そんな声が次々と上がる。しかし彼女のように天者というのは、皆このような幼い外見なのだろうか?

 しかもこの梅子という女。装いが赤森人としては異様である。彼女は青と白の綺麗なドレスを着ているのだ。まるで西洋のお姫様のような衣装である。

 この国の民や、今まで見てきた天者達の装いが、皆和装や中華風なのには対し、これはかなり浮いている。


 しかもその少女、先程は黄色系人種と同じと説明したが、一点だけ違う点があった。彼女の頭には、何故か大きな草が生えているのだ。

 王族のようなティアラから、突き出すように伸びる、大きな雑草のような草の葉っぱ。今までの天者にも、頭に角が生えていたりしたが、もしかしてこれも頭から直接生えているのだろうか?


「まさか対戦相手が天者とはね……」

「天者か……やっぱつええんだろうな! しかし、俺たち四人がかりでも良いのか?」


 子供の頃から、天者という存在に、大きな興味を持っていたルガルガが、大分緊迫した面持ちで語る。

 果たして今の自分たちの力で、天者という超常的な存在に立ち向かえるかどうか? 今の時点では、何一つ判らない。好戦的なルガルガも、これにはかなり警戒しているが……


「まさか? あなたたち四人相手に、私が勝てるわけないじゃないの! ていうか、今戦うのは私じゃないし!」


 即効で当人から、自分たちでも勝てると言われてしまった。


「えっ? お前が戦ってくれるんじゃないの?」

「そんな事言ってないわよ! ていうか清司郎! あんたちゃんと説明しなさいよ!」

『悪い悪い! このままノリで、お前がやってくれたら面白いと思ったんだけどな! 最初の春明達の対戦相手は、この梅子が召喚する、この国の上級無限魔だ!』


 天者と戦えないと聞いて、少し残念そうなルガルガ。わざと遅れながらに、清司郎の実況が、この試練という名の観覧試合の、最初の対戦相手を教えてくれる。

 梅子は転移術と思われる物で、その場で何かを、何もない空間から取りだした。これは春明の、アイテムボックスの物の出し入れに似ている。

 そしてその場で梅子が取りだしたのは、今までにも何度か見た、無限魔の召喚装置であった。


「それ今までにも見たな。やっぱりゲールのテロに荷担したのは、お前らだったか……」

「ええ、もう向こうには、既に賠償は済んであるわ! では行くわよ! 言っとくけど、私らの天者の力を上乗せして召喚されるのは、今まであんたが戦ってきたのとは、全然レベルが違うわ! 覚悟して戦いなさい!」


 梅子が召喚装置を起動させた。装置の宝玉が、これまでにない強いエネルギーを発し、その場に無限魔を召喚して見せた。


「これは……また会ったな」


 姿を現したのは、大きな石の巨人だった。まるでこけしに、大きな腕と、棘のような足が生えた、岩石型のモンスター。

 このタイプのモンスターを見るのは初めてではない。最初に出会ったのは、ゲール王国での、ガルディス村への街道で遭遇したボス敵である。ただし体色は異なり、濃い灰色の石材で出来ている。また体格も、今までの者よりも、少し大きいように見える。


 無限魔を召喚させたことで、観客席もどよめき出す。そして春明達も、目の前に敵が現れたことで、更に気を引き締めた。

 そして召喚した梅子は……そそくさとその場から立ち去り、こちらの控えメンバーと同じような感じで、観客席近い壁側の方に待機した。そして常人でもこちらにも届く声で、春明達に忠告した。


「言っておくけど、私を攻撃しちゃ駄目よ! 貴方たちの相手は、あくまでそいつなんだからね!」


 どうやら召喚者を倒して、召喚獣を抑える戦法は、ルール違反であるようだ。


『では早速……試練開始!』


 清司郎の実況と共に、観客席からは歓声が上がり、この試練という名の、闘技大会が始まった。


(こっちに来るか!?)


 石の巨人が、相変わらずの重い足音を立てて、こちらに走り寄ってくる。その走行速度は、今までの石の巨人とは、比べものにならないぐらい速い。恐らく、以前戦ったのとは、外見は同じでレベルが違う、上級種なのだろう。

 ゲームでは同じグラフィックで、レベルと種類の違うモンスターなど、当たり前のようにいる。そしてその石の巨人は、まっすぐにジュエルを狙い、その大きな腕を振り下ろした。


「はぁあああっ!」


 事前に自分が最初に襲われるのを予測していたジュエルが、防御系魔法盾スキルの“プロテクト3”を発動させた。黄色い光の魔法による結界が、彼女の持っている盾の表面をコーティングして、その盾の強度を大幅に増幅させる。

 更に周囲の空間も固定され、彼女の体が、そう簡単に吹き飛ばされないようにされた。


 ドンッ!


 石の巨人の巨大な腕が、彼よりも遥かに小さいジュエルの体を叩きつける。だがジュエルはそれを、盾で防護した。あれ程の質量と重量の物質が激突したというのに、ジュエルの身体が地面に埋まったりはせずに、まるで大きな鋼の塊のごとく、その場で踏みとどまる。

 彼女の盾は未だ破られも押し出されたりもせず。ジュエル自身も当然無事。あれほどの体格差の敵の攻撃を、彼女は盾一つで防いだのである。


 ジュエルは防御能力に優れたタイプの魔法戦士である。彼女のスキルは防御に適しており、さらにジュエル自身の防御能力も高い。

 そのため集団戦では、壁役として高い力を発揮する。またジュエルは今“標的の腕輪”という名の、装飾品を付けている。こ

 れを持っていると、戦闘の際に、敵に狙われやすくなるという特性があるのだ。勿論それは無限魔のような魔物に対してで、人間のような知性の高い生物には、効果が薄いが。


「おっしゃ行くぜ! 雷神斬り!」

「ぶっ叩くわデカブツ!」

「てりゃあ!」


 石の巨人の攻撃が防がれた、その僅かな隙に、他の三人の仲間が一斉に石の巨人を攻撃した。

 浩一の電撃を纏った刃の一撃の“雷神斬り三式”が、石の巨人の身体を、電熱と共に石材を溶解させながら、その身体に傷を付ける。

 ルーリの聖魔力を纏ったメイスの一撃“ヒールアタック3”が、石の巨人の足下に衝撃を与える。これは物理攻撃力を上げるだけでなく、攻撃と同時に、自身の小回復させる技だ。

 そして春明の“気功撃・三式”が、石の巨人の身体を切り裂き、無数の砂粒を巻き上げながら、その巨体に傷を付ける。


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