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第八十四話 赤森の現状と虹光人

「なんか列車の旅とは関係ない話しで悪いんだけど……」

「いえ、構いませんよ。考えてみれば私も、外国のお客様を案内するのは、無限魔が出て以来です。こうなると色々聞きたいこともあるでしょう」


 ガイドの女性は、特に気を悪くすることもなく、まるで当然だろうと、その質問に乗ってくれる。


「無限魔の出現は、この国の産業に大きな変化を与えました。居住面積は減りましたが、その代わり莫大な資源を確保することが出来ました。鉄鬼部隊が討伐した無限魔の、骨や皮は勿論のこと。金属生命体型の無限魔の死体は、大量の特殊金属の採集も可能でした。

 以前この国は、機械技術の発展に伴い、資源不足に悩まされていました。ですが無限魔という、その名の通り、無限に採取できる資源を手にしたことで、この国は大きく変わり始めています。もう諸外国との輸入に頼らなくても、ほとんど無償で資源が手に入りますからね。

 以前は資材不足で、建築が先延ばしになっていた大型ビルも、次々と完成し始めていますよ。その他に鉄道や船の量産も早くなり始めています。近いうちに、航空機の量産を始める計画もあります」

「そういや、上北にでかい建物が増えてたわね……」


 上北都市の光景に、違和感を覚えていたハンゲツも、この言葉を聞いて納得する。

 しかしやはりというか、この国は無限魔に対抗できる力を持っていたようである。ギン大諸島やリームが、無限魔を倒せず、ただ土地を失って途方に暮れていたのとは大違い。

 それどころか逆に、無限魔を資源にして、この国はかえって繁栄していたのである。リームのせいで他国との交易国が制限されていたが、それも全く問題になっていなかったようだ。


「しかし明るいニュースばかりではないだろう? 無限魔がいきなり出てきて、初期の頃かなりの犠牲が出たのでは?」

「それは大丈夫でした。無限魔が現れる前に、国王陛下と天者の方々の迅速な避難勧告により、活動地域となった土地の人々は、事前に避難しましたから。現時点で亡くなられた方は一人もいません」

「何っ!?」


 突然出現した怪物に、全ての人々の救出が間に合うわけがない。そう思ったジュエルの質問に対する、ガイドの回答に、ジュエルは面食らう。


「ちょっと待て……それでは天者共は、最初から無限魔の出現を察知していたのか?」

「ええ、そのようでしたよ。何故無限魔が現れたのかは、極秘事項と言うことで、未だに私ら、国民は知らされていませんが」


 世界中の人々に、大なり小なり、深刻な被害を与え、今なお人々を苦しめ続けている無限魔達。

 だがこの国では、一人の犠牲者も出ていない。多くの土地を失ってはいるが、その代わりに無限の資源という、素晴らしい対価を手にしているのだ。

 今までも説明したとおり、このキン大陸に出現する無限魔は、他のどの国よりも強い。強い分、倒したときに手に入る、無限魔の資源の質も、他のどの国よりも良質であろう。


「うわぁ……羨ましいですね」

「羨ましいって言うより、ずるくねえか? 世界中で、この国だけ、いい思いしてんだぞ……」


 ナルカとが浩一が、妬むような言葉を口にする。今まで無限魔に苦しめられ来た人達を、散々見てきただけに、これにはやや複雑な感情があるだろう


「でも……最初から出てくる時と場所が判るなら、すぐに世界中に教えてくれても……」

「それは無理だな。あいつが火山から出てから、僅か数日で、無限魔共は出てきたんだ。間に合うわけがない」


 ルーリがやるせない口調で出した疑問に、ジュエルが即答する。この事態の元凶(と思われる)のタンタンメン討伐の時期を考えれば、とても諸外国への避難勧告など、間に合うわけもない。


「今では無限魔狩りは、もうスポーツのようになってますよ。何人もの鉄鬼を装備した王国兵士の方々が、様々な条件を付けながら、無限魔との戦績を競ってます。現在それでトップに立っているのは、ガストン様ですね。ちなみにその方が持っている鉄鬼の鋼鯱も、元は無限魔から取った霊素材から造られたものだそうです」

「ガストン?」


 春明は、その名前には覚えがあった。そいつの持っている鉄鬼の名前にも。


「ガストンって、昨日船から見たあいつよね」


 ハンゲツもその名前を思いだしたようである。あの時、ゲールの輸送船に襲いかかった無限魔を倒し、船を上北港まで誘導した、鉄鬼部隊の隊長である。

 どうやら赤森は、こちらの出迎えに、国内最強の鉄鬼戦士を派遣していたらしい。


「それから皆様方のことですが……多分、機密ではないと思うので、話しても構いませんよね? 今は国中の方が、もう知ってますし……」

「俺に聞かれても、どうしようもねえよ」

「はっ、はい、そうでしたね! では言いますね。春明さんは虹光人(こうこうじん)という、緑人を更に進歩させた、新しい不老不死の超人類だそうです」


 緑人の進化形。以前ゲール王国で、ドーラからも聞いた話しである。ていうか自分たちの秘密が、この国では全部公表されていたことには、ある意味で驚きである。


「私も詳しい原理は知らないのですが……緑光石ではなく、虹光石(こうこうせき)で力を得るものだそうですよ」

「虹光石って……確か貨幣に使われてる奴よね?」


 それは一般人にとっても、身近なものであった。この世界の硬貨は、その虹光石という魔力を込めて加工した石で造られているものが多いのだ。

 特殊な加工法から、偽金を造りにくいもので、赤森王国が発展してから、世界中で使われるようになってきた。

 ちなみにその材料の虹光石も、赤森輸出が多い。今春明達が持っている、封印の麒麟像も、その虹光石で出来ているらしい。


「はい。その虹光石を、更に強い力を込めて、加工したものだそうです。まだ正式な名前はないそうで、仮に原材料のまま、虹光石と呼んでいるそうですが」

「正式な名前がない? 俺がその虹光人てのになってから、結構経つのにか?」

「ええ、何でもその虹光石を発明した人が、まだちゃんと名前を考えていなかったそうで……」

「天者が造ったんじゃないのか?」

「はい。初代の緑人のレイコ様……今はゲド様と名前を変えてらっしゃいますが、その人が作ったものを貰い受けたそうですよ。どういう理由で貰ったのかは……すいませんが、公表されていないので判りません」


 どうも向こう側にも、政治的な何か取引のようなものがあるようだ。


「それでなんで俺が、その虹光人に? それで何をさせる気なんだ?」

「すいません……それも判らないんです。ただ、この世界の災厄を払うための、儀式に必要な方だとしか……」


 以前にもガルディス村の幽霊から聞いたような話しである。どうもそういったはっきりしない理由のまま、天者達は春明を、世界を救う重要人物として扱っていたらしい。

 その後ガイドに、色々なことを聞いてみたが、特にこれと言って、真新しい情報はなく。時間が経ち、一行は赤森王国王都・岩樹に到着した。






 王都・岩樹。周囲の地域も含めた、都市圏全域も入れれば、人口二千万人を越える、この世界で最大の都市である。

 当然そこにある都市の機能も、世界最大水準だ。以前見た上北都市よりも、高層建築物が遥かに多く、中にはスカイツリーのような塔もいくつかある。

 町並みも、機械都市らしく、多くの文明の利器が溢れ、人も実に多い。だからといって窮屈というわけでもない。所々に、見渡せるほどの広間があり、各地に公園や街路樹が植えられて、大都市の割には緑が多い。

 街中も路上も綺麗に清掃されており、実に清潔感溢れる都市だ。そんな都市の真ん中の駅に向かって、一行が乗った列車が、街を横断して走って行く。


「うおぉおおっ、でけえな!」

「近くで見ると……今にも倒れてきそうで怖いな」


 窓からその光景を見ていた一行。先程街に近づいてきた辺りからも、この高層建築物は見えていたが、近づくにつれて、その様子に圧巻していた。

 春明と浩一は、そんな彼らを「何をそんな大袈裟に?」という感じで見ていたが。


「この王都・岩樹は、昔からこの様な素晴らしい都市だったわけではありません。70年前にこの世界に召喚された天者様と、そして異界流民であったレグン族の方々の力により、これほどの急速な発展を遂げました。その前の岩樹の光景は、このようなものでした」


 ガイドが丁寧に、外国人向けの台本で、岩樹の事を説明してくれる。

 車内に大きな立体ディスプレイが表示された。そこには、その昔の岩樹の風景の写真が、次々と映し出されていく。


 それは日本の江戸時代の町並みのような風景。ただし貧富差があることが、強調されて表現されて写真が公開されている。

 王や貴族がいる上流街は、実に綺麗に金がかかった町並みである。だが一方の一般市民のいる街は、実に泥臭く、古ぼけた小屋のような建物が建ち並び、人々の身なりもあまり良いとは言えない。


「その当時の赤森王国の国王は、現代だけでなく、当時ですら無能と嘲笑われる男でした。しかし彼が、召喚の精霊と契約し、この世界に天者様を召喚されてから、この国は大きく変わったのです。国は栄え、法は改正され、貧富の差が出来る限りなくなるよう尽力しました。そしてそこに、流民のレグン族の方々の協力があって、ここまで素晴らしい発展を遂げたのです」

「その当時の国王はどうなったんだ?」

「天者様方が、勝手に召喚されたことに怒られて、造反されて、沢山殴られて、最後にはロープで何重にも縛られて“簀巻き”という状態にされて、そのまま川に流されたそうです。遺体はその三年後に、水辺で白骨化した状態で、見つかったそうですよ。実に無様で素晴らしい死に様ですね!」


 結構怖いことを、明るい声で語ってくれるガイドさん。今までの口調からしても、この国の天者達は、相当人々から慕われているようである。

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