第八十話 王子との再会と返還
その船の特別室に案内された一行。船長室よりも広めで、様々な装飾や、テレビなど色々などの機械器具が置かれた部屋の中。
今回この部屋に、特別な客として乗っているのは、今回の元リームとの会談の為の大使として訪れた、レック・ゲール第二王子である。
彼はリーム教国陥落に、春明達が関わっていると知って、自ら大使を名乗り出たようである。
「ひさしぶりだな、お前達。随分顔ぶれも増えたようだが……」
その部屋の椅子に座って、皆を出迎えるレック。服装は以前王城で会ったときと同じである。
それに向かい合う春明達一行。その中で、サイズの大きなフードをすっぽり被って、姿が見えない怪しい人物がおり、レックもそれに訝しげに見ている。彼女がついさっき合流したルーリである。
「おう、久しぶりだなレック! 振られてから、ちゃんと立ち直れたんだな! 良かったな!」
「あなたがさっき言ってた、振られた王子様ですか? お可哀想に……」
「そんなことより早く出航してくんない? 私、早くこの国から出たい!」
「………」
王族と会ってそうそうに、ルガルガとナルカが、凄い失礼なことを言い、ルーリが一方的に無茶な要求を口にするが、もはや誰も突っ込まない。
レックですら、もはや慣れたのか、別にそのことで表情を曲げたりはしなかった。何という、人柄の良い王子様であろう。
「良いじゃないかルーリ。皆から尊敬されて、私はうらやましいぞ。私もあんな風に成り上がりたいものだ」
「全然嬉しくないわよ! 次から次へと散々人から頼み事されて……しかも骨になった死体を持ってこられて生き返らせろとか、無茶な事を言う奴もいるのよ!」
「だったら、あんな目立つことをしなければいいじゃないか? あんなにノリノリで力を使って……」
「判ってるわよ! ああ……あの時のまま、自分の力を疑ったまま、やきもきしてた時の方が、どんだけ幸せだったか……」
「失礼、こっちの話しに移っていいか?」
ルーリとジュエルが、この場で現状とは関係な話を言い合っているのを、レックが呆れながら制止にかかる。二人ははっとして、即座に口を閉じた。
「お前達の活躍は通信でよく聞いた。ここでも色々派手にやったそうだな。しかも教国が倒れた後も、多くの無限魔を狩り、国民達に食糧を分け与えたとか……」
「ありゃあ、ここ何十日も、何もやることが無いから、暇つぶしに無限魔を狩りまくってただけだよ。ていうか通信?」
「ああ、聖都を占領した新政府から、通信で色々情報が送られてきたよ。まさかリーム教国が、衛星を打ち上げていたとは驚いたが」
教国が倒れたことで、機械禁止の法令は無くなった。
これまで多くの人々が、見えないところでこっそり機械器具を持って、使用していた。また一部の富裕層も、魔道具と称して、それで便利な生活を送っていたりした。
元々あまり守られていない法律であったが、それが完全に無くなったことで、人々は表でも自由に機械器具を使うようになったのである。
また新政府も、聖都の大神殿にあった、通信設備を使って、他国との交渉も始めていた。春明達のことも、それを使って、かなり早い段階でゲールに伝わっていたのだ。
「しかしまさかお前とまた会うとは思わなかったんだが……。王族って、結構暇なのか? それで俺たちに何か用なのか?」
「そういうわけじゃない。これでも忙しいだが、例え時間を割いてでも、会わなければ行けない事案があったのだよ……」
そういってレックが木箱のようなものを取りだした。少し大きめのオルゴールのような箱で、何やら頑丈そうな金属製である。レックはそれを取りだし、春明に手渡した。
「中は開けもいいぞ」
「何だよいったい……? 男からのプレゼントなんてな……おやっ?」
「おいこれって前に、ドーラにやったやつじゃねえか?」
鍵などはかかっていない金属箱を開けると、その中にはとても見覚えのあるものがあった。それは以前、ゲール王国のガルディス村で手に入れた、あの麒麟像である。
それはドーラに手渡した後、ずっとゲール王国政府に預けっぱなしになっていたため、今まで彼らの手元から離れていたものだ。
「いらないか?」
「いや、いる。でもなんで急に?」
これは下手をすれば、国一つ滅ぼしかねない力があるとして、ゲール王国政府が厳重に保管していたはずである。
それを急に、春明達に返すと言いだしたのだ。どう考えたって、妙な話しである。
「こちらにも色々判ったことがあってな、それはどうしても君たちの元に、なくてはならないもののようだ」
「ふ~~ん、なんでそれが判る?」
「実はお前達がゲール王国を出た後で……赤森王国に問い合わせた。どうやらお前達の存在と力は、赤森王国が全て生み出したものだったようだ」
「ああ、そうらしいな」
「何だ? 知ってたのか?」
はっきりと明言されたわけではないが、ナルカが仲間になったときに、はっきりと佐藤翔子という、赤森の天者の名前が出てしまっている。これはもう、ほぼ確定したようなものだ。
「それで、その赤森王国からは、どんな返答が出たんだ?」
「悪いがそれは話せん……。どうもお前達にこの時点で話しをすると、本来必要なことが無効になる可能性があるらしい。お前らに詳細を話すのは、赤森王国での試練を乗り越えた後でないと行けないとさ……」
「ふ~~ん」
春明は何となく、この話しに気に入らないものを感じた。
事態の中心にいるはずの主人公一行が何も概要を知らず、周りの脇役達が全てを知っている。アニメやゲームでも、こういう展開は、いまいち好きではなかった。
「とにかくはっきり言えることは一つ。お前達は早い内に赤森王国に向かう必要がある。移民と食糧の輸送後に、この船団の中の一隻は、すぐに帰国せずに赤森王国へ向かう予定だ。君たちは、それに乗って、赤森王国に渡ってもらう。私はこの国で、必要な仕事があるので残るが……」
「ええっ!? 本当!? ついに赤森に行けるのね! やった~~~!」
赤森へ送ってもらえるという話を聞いて、ルーリがまるで子供のように大喜びをした。
「ルーリ、嬉しそうだな。そんなにこの国が嫌か?」
「いや、あいつ前から赤森王国に行きたがっていたらしいぜ。それで嬉しいんだろ?」
赤森の名前に反応しているのルーリだけではなかった。
「赤森かぁ~~。世界を救った天者様達が、収める国ですね。私も昔からちょっと憧れてました」
「何だナルカ? お前の国では赤森と交易がなかったのか?」
「ありましたけど、私の家、田舎だし貧乏だし、外国にも行けなかったんです」
「ああ、そう。聞いて悪かったな……」
「いえ春明さんが謝ることじゃないですよ。それで前に、翔子様が家に来たときは本当に驚いたんです! 翔子様からお金も頂いて、父さんも母さんも、とても助かりましたし……」
「お前、それって親に売られたんじゃね?」
あまり聞きたくない話を聞いたのかも知れない……
「天者か……。滅茶苦茶強い奴って聞いて、昔から会いたかったけど、何かマジで会えそうな感じだな……。会ったら何て言おう? うわあ、不味いなぁ……全然思いつかねえし」
「死んだ俺に契約を持ちかけて、こんな個人的趣味全開の身体をくれたのも、そいつらで間違いないようだしな。生き返らせてくれたのは良いが、そのことで一言文句言わなきゃ、俺も気が済まねえな」
他の面々も、各自天者達に大小の思い入れがあるようである。ただはっきりするのは、皆世界最大の国である、赤森王国に多大な関心と、入国の意思があることである。
その様子を見てレックは、特に事を進めるのに問題ないとして、再度先程の話しを進めた。
「私はこれからこの船を降りるが、他の船は積み卸しと終わった後で、赤森行きの船はすぐに出航する予定だ。皆はこれからその船に乗って欲しい。春明……天者達に選ばれた勇者よ。お前達の旅の幸運を祈ろう……」
それから一時間ほどして、一行はついに赤森王国のある、キン大陸目掛けて出航した。




