第七十七話 対空戦法とPT入れ替え
「うりゃぁああああっ!」
砦のかなり広い屋上。空や庭内に入り込んだ敵に対抗する為に、城壁にあったのと同じ、重機関銃の銃座が、各所に設置されている。
そんな屋上の上で、ルガルガはあの鳥獣人と凄まじい戦いを繰り広げていた。戦いと言っても、完全にルガルガが防戦一向であったが。
空の上で、鳥獣人達が風の魔力で空気を圧縮して生み出した、魔法の矢を、遥か下界にいるルガルガ目掛けて次々と放つ。
纏った魔力の影響で、薄く緑色の光を放つそれを、ルガルガが鉞を振り回して全て打ち砕いていく。彼女が出来ることはそれだけであった。
彼女の気功を纏った鉞が、何連発も気功撃を放って、敵の攻撃を全て打ち払う。その対地攻撃&対空防御の戦闘が、延々と繰り返されていた。
春明がそこまで登ってきたのに気づくと、彼女は何やら喜んでいる。
「やっと来たか春明! 頼むから、あいつを攻撃してくれ!」
「何だ? お前は反撃できないのか?」
敵の攻撃は常に連撃しているわけではなく、数発撃つごとに、魔力切れのためか、少しずつ隙が出来ている。その隙を狙う術が、ルガルガには充分あるように見えたが……
「俺、攻撃飛ばす技全く持ってねえんだ! だから飛ばれると、俺には何も出来ねえ!」
ルガルガの可能装備及びスキルは、全て近接戦向き。ルガルガには遠距離攻撃が、元より全く出来ない仕様であった。
そのため彼女は、対空戦には全くの無力であった事実が、今ここで本人含めて初めて明らかになっていた。
ちなみにちょっと説明をすると、彼らが共通して、通常攻撃一発で、SPが全体の1/50分回復という能力を持っていた。
ゲームでは通常攻撃のみの仕様であったが、こちらの世界ではスキルで“~2”という上位技を覚えると、下位技スキルを撃った場合でもSP回復が起きるようだ。
ルガルガの全SPは2020であるから、下位スキルを一発撃っても、40回復する。それは下位スキルの消費SPよりも多い。つまり彼らは下位スキルならば、何発でも撃ち放題なのである。
それは気功防御などの防御力アップの技でも同じで、彼らは常時、攻撃力&防御力を強化状態で戦い続けられる。
もしこれを敵も持っていたと仮定すると……
「つまりルガルガとあの鳥は、何百年でも永遠に撃ち合い続けられる訳か……」
「ああ、それはちょっと見てみたいかも?」
「ふざけんな! 早く助けろ!」
先走って敵を追っていったルガルガが、敵の攻撃を受け止め続けながら、仲間の何気に酷い言葉にブチ切れていた。
「しょうがねえな……うりゃっ!」
春明が自らの刀を抜き、刀身に気功を纏って、空にいる鳥獣人目掛けて思いっきり振った。
すると振られた軌道から、三日月のような形の、気功の刃が発射される。春明の刀装備時の遠距離系スキルの“飛斬”である。
名前の通りの飛ぶ斬撃が、空に向かう鳥獣人目掛けて飛ぶ。だが鳥獣人はそれに素早く反応、ルガルガへの攻撃をやめて、瞬時に空中を移動する。
飛斬は鳥獣人がほんの一瞬前までいた空間を通り抜け、遥か空まで飛んでいった。
その後も春明は、飛斬を撃ち続けたが、それは全て躱される。飛斬は、春明が使うような、弓矢のスキルと比べて、発射速度が遅い。そのため、空を高速で移動できる者には、今一つ当たりにくいようだ。
攻撃の隙を突いて、鳥獣人も反撃する。春明は刀を振って風の弾丸を払いのけ、すぐに反撃に移る。この状態の戦闘で、敵の攻撃を避けるという行動はとれない。
避けたら屋上の天井に穴が開き、砦の内部にまで破壊が伝わる。そうなると以前のガルディスの洞窟のように、倒壊しかねない。
「あっ! ボヤッとしてる場合じゃないわね! 私らも行くよ!」
「私は駄目ね。私のゴーストアタックは、動きが遅すぎるわ」
続けてルーリも参戦する。一緒にいるハンゲツは、召喚する霊の動きの悪さで参加できず。
ルーリのメイスが、光の魔力で白く輝き出す。そして空にいる、春明の攻撃から逃げ回っている鳥獣人目掛けて、メイスの刃がかざされた。
そこから撃ち出されのは、一発の白い光線。ルーリの魔法攻撃スキルの“マジックシャイン”である。
「ギャフッ!」
春明の攻撃に気をとられていた鳥獣人に、その光線は見事命中した。だが一発では威力不足なのか、鳥獣人の身体は一瞬揺れるもの、墜落には至らず、変わらず素早く飛び続ける。
「これならどう!」
ルーリが次に撃ったのは上位スキルのマジックシャイン2。さっきより4倍のSPを消費して放たれた技が、空にいる敵目掛けて飛ぶ。
だが残念ながら、その攻撃はあっさりと躱された。敵は既にルーリという新たな脅威を認識している。その上、マジックシャイン2は、下位のマジックシャインよりも、魔力の為から、発射までの時間が長いため、避ける隙を見つけやすい。
その後二人は、飛斬とマジックシャインを連写しまくって、鳥獣人を追い詰めようとする。大空に、三日月と白い糸の、二種類の光が、花火のように次々と打ち上げられ、それらの中を踊るように一羽の鳥が盛んに飛び回っている。
機関銃のように次々と撃ち出される攻撃に、鳥獣人は必死で避け続けた。さすがに二人分の攻撃となると、反撃の隙は見つけられないようで、先程から敵の攻撃は、一切砦に飛んでこない。
その様子を、何もすることがないルガルガと浩一が、退屈そうに眺めていた。
「これじゃあさっきと同じだな……何百年も続けられそうだ」
「しかしすごい速く飛ぶわねあれ。前に狩りで戦った大鳥とは段違いよ。相当高レベルのボスモンスターでしょうけど。もし陸戦型だったら、結構苦戦してたかも」
「そんでこれ、いつになったら終わるんだ?」
敵の圧倒的な飛行回避能力に苦戦させられる春明達。こういうときのための策だった、事前に弓武器を置いておく方法を現在はとっていない。
そもそも今の彼のレベルに合う、弓装備を彼は持っていないのだが……
本当にこのまま、永遠に戦い続けるのかと不安になったとき、春明は一つあることを思いついた。
「そうだ! こういうときのための、PT交代制度だった!」
「えっ!?」
春明の言葉に、ルーリが疑問を浮かべている最中に、春明は一旦攻撃を止め、ウィンドウを開く。そして手早い作業で、ウィンドウのPTの覧を選択する。
「メンバー交代だ! ハンゲツとナルカを入れ替える!」
春明がウィンドウを覧を差した直後、突如今まで近くで傍観していた、ハンゲツ姿が消える。彼女は何が起きたのか、言葉を上げる隙も無く、一瞬でその場から消失してしまった。
その課程は、召喚術による空間転移に似ていた。そしてハンゲツと入れ替わるように、彼女のいた場所に別の人物が姿を現した。
「うわっ!? ハンゲツがナルカになった!?」
驚くルガルガが見る先には、控えメンバーに入れられて、離れた所でパトリックを拘束中であるはずのナルカが、驚いた様子で立っていた。
これはゲームで言うパーティーメンバーの入れ替えで、それに関しては現実のこの世界でも、同じように出来るようだ。
「あれ? ここって?」
「ナルカ! 敵は空だ! 撃ってくれ!」
「はっ、はいっ!」
状況把握は後にして、ナルカは言われるがままに、空に向かって銃口を向けた。見上げる空には、あの鳥獣人がいる。
しかもこちらからの攻撃が中断し、ナルカが自分に銃口を向けているのを見て、即座に彼女に脅威判定を下したようだ。鳥獣人の風の弾丸が、今度はナルカに向かって飛ぶ。
ナルカは攻撃を後にして、そこでマジックバリアという技を使った。銃口から、青白いエネルギーの光が、水道のように放出され、それが彼女の目の前で拡散し、傘のような壁となる。
風の弾丸は、全てそのマジックバリアに阻まれた。この魔法による防御スキルのマジックバリアは、春明達の気功防御のように、防護エネルギーを全身に纏って、身体強化する物ではない。そのため防護しながら、動き回ることは不可能だ。
ただしバリアが破られない限り、術者は完全にノーダメージで、その上一回だけ、防護しながら攻撃を仕掛けることが出来る。
ナルカの銃の引き金が再び引かれる。今度はバリアエネルギーではなく、雷の魔力で生み出された、雷撃の弾丸だ。
それがバリアを内側から通り抜け、その課程でバリアが粉々になって消滅する。そしてその雷撃の弾丸が、空にいる鳥獣人目掛けて飛んだ。
「ギシャァ!」
その雷弾は見事命中した。一応鳥獣人も、ナルカの銃弾を回避するための予備行動は取っていた。
だが瞬時に発射され、音速を超える速度で飛ぶ弾丸は、発射された後では避けるのは難しい。しかもナルカは魔道士であるが、レベル80という高レベルであるため、感覚能力は常人の比ではない。
彼女の優れた視力で、弾丸は正確に鳥獣人のいる位置に、素早く発射されていた。
「キィ!」
だが鳥獣人も、ボスモンスターだけあって頑丈であった。今の一発で堕ちたりはせず、素早くその場から飛び回って、こちらの攻撃の撹乱しようとする。
銃弾という物は、あまりに速く飛ぶため、発射された後に避けるというのは、ほぼ不可能だ。ゆえに銃相手に取る対策は、敵の銃口の先を見切り、発射される前に回避OR防御の態勢を整えるというものである。
春明達が攻撃をやめて傍観する中、ナルカは飛び回る鳥獣人達を次々と発射した。最初は炎弾。次は氷弾。次は光弾と、属性の異なる魔法弾を、引き金を素早く引きながら、連続して撃ち続ける。
最初の二発は素早く飛ぶ鳥獣人を捉えきれずに躱された。だが三発目は見事命中。その攻撃に怯んで、動きが緩んだ隙に、ナルカは次々と魔法弾を命中させる。何となく鳥を撃ち抜くナルカの顔は楽しそうだ。
計十数発の銃弾を為す術もなく当てられた鳥獣人。身体中から羽毛が抜け落ち、銃創から血が流れ出る鳥獣人は、かなり弱っているようだ。動きも先程と違ってぎこちない。
「まだまだ! このまま死になさい」
敵が弱っているのを確認したら、すぐに攻撃の手を戻す。高い身体能力を持つために、指の引き金を引く速度も速く、常人から見れば機関銃のような高速連写。
それを受け続けた鳥獣人が、ついに飛ぶ力を失って墜落していった。揚力を失った紙飛行機のように、力なく砦の庭内へと堕ちていく。




