第七十一話 超上級の新装備
春明達が訪れたのとは、少し離れた位置に、もう一つ砦があった。少し背の低い森に囲まれ、四方に街道が延びて城門に繋がっている。
春明がいたのと外観はほとんど変わらない。教国が各地での内乱の可能性を監視するために、国内にはこういった場所がかなりある。
その砦には、敵の襲撃がいつ来てもいいよう、兵士達が完全武装中である。その中にはあのパトリック・リームがいた。
「散布の準備完了しました! いつでもいけます!」
「よし判った。すぐにやれ!」
砦の一室で、パトリック・リームとその部下達が、何かの作戦行動を取っているようだった。パトリックの指示で、教国兵がその命令を下に伝えに行く。
何か重大な決定だったようで、部屋には緊迫の空気が漂っている。
「殿下……こんなやり方でよかったのでしょうか? いっそ、さっさと奴らを皆殺しにして、それを春明達の仕業に仕立てる策が……」
「罪を着せて何の意味がある? 嵌めたのがこちら側だというのは、奴らはすぐに気づくし、それで逆上してこちらに襲いかかったら、結局意味は同じだろうが! くそっ、あいつら、いつのまにあんなに強くなったんだ!?」
パトリックが忌々しくそう口にする。春明達の無限魔狩りの光景は、狩りの風景を見た野次馬からの記憶映像で、彼らにも伝わっていた。
人の視覚した物を映し出す技術=記憶映像は、魔法でも機械技術でも使用可能で、それのおかげでこの世界の情報伝達技術は高い。そのおかげで、教国軍はゲームのように、堂々と春明達を討伐する手には出なかった。
「ふん! 父上も、私が奴に討たれると決めつけてやがるが、そうは容易くいくものか! こっちには奥の手が二つもあるのだからな! あの小僧、ゲールで受けた屈辱と私の怒りを思い知らせてくれる! ははははっ!」
何か策があるようで、自信を持って口にするパトリックとは対称的に、周りの部下達は全く自信がなく不安げな様子であった。
一通りの話を終えた後、ジュエルは部下に命じて部屋にある物を持ち込んできた。それは何か見覚えのある、複数の宝箱である。
「これは私にお前達の情報をくれた天者からの贈り物だ。まだ中は見てないが、中には私とお前達用の武器が入っているらしい」
「天者が? 一国の政治家が、他国の戦乱に手を貸したら、ヤキソバの法に触れないの?」
「大丈夫なんじゃないのか? あの時私はまだ、反乱軍に入ってなかったし。既に貰った物を、後からどう使おうが、別に問題ないだろう」
「すげえ~~屁理屈」
内部を開けると、思った通り、そこにメンバーそれぞれの得意武器と装備が入っている。
早速一行はそれに着替えることにするが、その前にジュエルは、先程から部屋の隅にいた副リーダーに声をかけた。
「これから皆で着替えをする。悪いが男は、しばらく部屋から出てくれ」
「はいっ、判りました! ……ちっ」
「それじゃあな。終わったら言ってくれ」
「何言ってんのよ? あんたはここでいいじゃないの」
一緒に部屋を出ようとする春明を、何故かハンゲツが呼び止めた。
「いいだろうって……何言ってんだよ。俺も男だろうが」
「うん? そういえばそうだったわね……まあ、いいんじゃないの」
「いや何でだよ!? 他の奴らも駄目だろう?」
「いや、俺は別に気にしねえけど」
「春明さんの裸……ちょっと見たいかも」
「いいじゃないの別に? 一緒に着替えましょうよ」
「モテモテだな。お前……」
何故か一緒に着替えようということを、平然と言ってのける一行。ただ一人、ジュエルだけが呆れた様子だ。
「春明が皆から慕われているのは判った。だが風紀的にやめておけ……悪いが春明、しばしここから出てくれないか。案内はつけておく」
言われるとおりに、早々に春明は部屋を出て、別室に案内してもらう。その中で春明の中に、妙な疑問が沸いていた。
(何であいつら、あんなに羞恥心ないんだよ! ハンゲツとルガルガが変なだけと思ったら、まともっぽいナルカとルーリまでおかしな事言ってるし……。そういえば会ったばかりのジュエルはまともな反応だったな? ……まさかな? そういや浩一が来てないな……)
こうして一行は、新装備の更新して、再び隊長室に集まる。
春明の身体装備は、黒い生地の和服に、白い崩れ字で『鶏勇者』という文字が背中に書かれている。ちょっと恥ずかしいデザインだ。刀は彼の体格に合わせた感じの日本刀で、真っ白な柄と鞘に、金色の装飾がついている派手な外観である。
着物の黒と、刀の白の、対称的な色合いが、かなり目立つ外見になった。
《春明 Lv82 HP 5600/5600 SP 2250/2250》
《可能装備 武器/刀・槍・弓 身体/和装・和鎧・プロテクター》
《武器/打刀・翔子光式 身体/勇者の黒衣 装飾1/麻痺避けの腕輪 装飾2/幸運の麒麟像 装飾3/ 》
《攻撃力/89900 防御力 71120 魔力 7800 敏捷性 616 感覚 560》
《獲得経験値 1075550913/1640000000》
《スキル 集中 0 気功治癒 10 気功撃 12 気功矢 12 気延撃 20 飛斬 20 百撃矢 30 魂吸撃 20 気功防御 20 気功治癒二式 40 気功撃二式 50 気功矢二式 50 気功撃二式 80 飛斬二式 80 百撃矢二式 120 気功防御二式 80》
《リミットスキル 大一撃 30% 大矢撃 30% 台風斬撃 50% 流星矢撃 50% 大一撃二式 80% 大矢撃二式 80%》
ハンゲツの身体装備は、赤い火属性体勢のローブだった。背中には太陽を象った紋章が描かれている。杖は木製外観の魔道杖。地味な茶色い柄に、虹色の宝石が先端にある。
《ハンゲツ Lv80 HP 3140/3140 SP 3500/3500 》
《可能装備 武器/杖・短剣・剣 身体/和服・洋服・プロテクター》
《武器/夢幻舞踏の杖 身体/太陽のローブ 装飾1/毒避けの腕輪 装飾2/石化避けの腕輪 装飾3/ 》
《攻撃力 42000 防御力 39800 魔力 80500 敏捷性 320 感覚 315》
《獲得経験値 892343021/1320000000》
《スキル ガードアップ 175 アタックアップ 175 マジックアップ 175 スピードアップ 175 ガードダウン 175 アタックダウン 175 マジックダウン 175 スピードダウン 175 TPアップ 50 ゴーストアタック 30 ゴーストズアタック 50 マジックバリア 40 マジックアクア 20 スリープゴースト 30 スリープゴーストズ 60 チャームゴースト 30 チャームゴーストズ 60 コンフュゴースト 30 コンフュゴーストズ 60 オールガードアップ 350 オールアタックアップ 350 オールマジックアップ 350 オールスピードアップ 350 オールガードダウン 350 オールアタックダウン 350 オールマジックダウン 350 オールスピードダウン 350 ゴーストアタック2 120 ゴーストズアタック2 200 マジックバリア 160 ナイトメア 100》
《リミットスキル ゴーストバイソン 30% ゴーストワイバーン 50% ゴーストアサシン 50% スーパーゴースト 80%》
ルガルガの装備は、銀色のプロテクターと銀色の鉞という銀一色の装備だ。鉞の方は、刃だけでなく柄まで銀色の金属で出来ている。
《ルガルガ Lv80 HP 5050/5050 MP 2020/2020》
《可能装備 武器/斧・大剣・鈍器 身体/和服・洋服・和鎧・洋鎧・プロテクター》
《武器/銀爆の斧・翔子 身体/銀固の鎧 装飾1/混乱避けの腕輪 装飾2/ 装飾3/ 》
《獲得経験値 287962155/1320000000》
《攻撃力 130000 防御力 83000 魔力 9800 敏捷性 200 感覚 626》
《スキル 集中 0 気功撃 12 怯みの一撃 18 山割一閃 24 大打撃 24 怯みの乱撃 36 気功撃二式 48 気功防御 20 怯みの一撃二式 72 山割一閃二式 100 大打撃 100 怯みの乱撃二式 150 気功防御二式 80》
《リミットスキル 命の一撃 30% 大ブーメラン 50% 国割一閃 50% 大地震 80%》
「何かお前嬉しそうだな……」
「女子と一緒にお着替えしたからな……えへへ」
「きもっ!」
浩一の装備は、今までのプロテクターではなく、忍者装束のような和服であった。武器は拳銃から小太刀に変更になっている。
くノ一美少女ロボットという、あまり見ない人種が誕生している。
「何か武器の種類ががらりと変わったな……銃が無くなって、今度空飛ぶ敵が出たらどうすんだよ?」
「俺に言われてもな……まあ魔道士三人が仲間になったから、別にいいんじゃないのか? しかし刀か……一応訓練はしてたけど、今までずっと銃を使ってからな。すぐに馴染むといいけど……」
「ああ、それなら大丈夫です。私の武器が銃でしたから」
「「えっ!?」」
《浩一 Lv80 HP 4860/4860 MP 1940/1940》
《可能装備 武器/刀・槍・銃 身体/和服・和鎧・プロテクター》
《武器/毒竜の小太刀 身体/忍聖の着物 装飾1/ 装飾2/ 装飾3/ 》
《獲得経験値 339562425/1320000000》
《攻撃力 75000 防御力 59000 魔力 6300 敏捷性 1300 感覚 540》
《スキル 雷神斬り 12 風神斬り 12 闇斬り 15 プラズマブレッド 12 煙幕弾 15 雷神斬り二式 50 風神斬り二式 50 闇斬り二式 50 プラズマブレッド2 50 サンダーショット 50 瞬足 50》
《リミットスキル ファイブショット 40% ブースト斬り 40% オールレンジ 70% 分身斬り 70%》
「私はハンゲツさんと色違いみたいですね」
「まあ、同じ魔道士の装備だからな。被るのも当たり前だろ」
ナルカの装備は、ハンゲツの物とよく似たローブ。ただし色は黒で、背中には月のマークがある。用意された武器は、何やら魔方陣のような紋章が刻まれた、狙撃銃型の魔導銃であった。
《ナルカ Lv80 HP 2850/2850 MP 210/210》
《可能装備 武器/杖・弓・銃 身体/和服・洋服・プロテクター》
《武器/精霊の長銃 身体/月のローブ 装飾1/ 装飾2/封印避けの腕輪 装飾3/ 》
《攻撃力 38000 防御力 37000 魔力 56000 敏捷性 360 感覚 350》
《獲得経験値 777541890/1320000000》
《スキル マジックファイア 20 マジックアイス 20 マジックエアロ 20 マジックロック 20 マジックアクア 20 マジックライト 20 マジックダーク 20 マジックシャイン 20 ファイアブレッド 20 アイスブレッド 20 エアロブレッド 20 アクアブレッド 20 ライトブレッド 20 ダークブレッド 20 シャインブレッド 20 マジックバリア 20 マジックファイアストーム 50 マジックアイスストーム 50 マジックエアロストーム 50 マジックロックストーム 50 マジックアクアストーム 50 マジックライトストーム 50 マジックシャインストーム 50 マジックダークストーム 50 ファイアシールド アイスシールド 50 エアロシールド 50 ロックシールド 50 アクアシールド 50 ライトシールド 50 ダークシールド 50 シャインシールド 50 マジックファイア2 80 マジックアイス2 80 マジックロック2 80 マジックアクア2 80 マジックライト2 80 マジックダーク2 マジックシャイン2 80 ファイアバレッド2 80 アイスブレッド2 80 エアロブレッド2 80 アクアブレッド2 80 ライトブレッド2 80 ダークブレッド2 80 シャインブレッド2 80 マジックバリア2 80 マジックファイアストーム2 200 マジックアイスストーム2 200 マジックエアロストーム2 200 マジックロックストーム2 200 マジックアクアストーム2 200 マジックライトストーム2 200 マジックシャインストーム2 200 マジックダークストーム2 200》
《リミットスキル 炎龍 50% 氷女 50% 風鷹 50% 石巨人 50% 大スッポン 50% 雷獣 50% 大天使 50》
「何か凄い魔力を感じるんだけど……こんな服、私が着ていいわけ?」
「何でだ? お前用の装備なんだし、いいじゃないか?」
「いや、でも……こんなの、高司祭でも着れないわよ。これも天者が作ったの?」
最初からこの面子に場違いな思いを抱いていたルーリは、渡された装備に更に困惑する。
ルーリが着ているのは、金色の模様がある白いフード付きのローブ。春明の世界のファンタジーのプリーストのような衣装である。これには着た者の回復術を高める効果があるらしい。
また武器は槍のように先端が尖った、青白いメイスだ。
「私魔道士なんだけど……何でこんな凶器が武器なわけ?」
「僧侶系キャラにメイスなんて普通じゃねえか?」
「私回復魔法は得意だけど、僧侶じゃないわよ?」
《ルーリ Lv80 HP 3170/3170 MP 3500/3500》
《可能装備 武器/杖・鈍器・ナックル 防具/洋服・ローブ・洋鎧》
《獲得経験値 232559722/1320000000》
《武器/殺聖者の槌 防具/聖者の白衣 装飾1/封印避けの腕輪 装飾2/酔い止めのお守り 装飾3/ 》
《攻撃力 64000 防御力 48000 魔力 65000 敏捷性 410 感覚 390 》
《スキル キュア 20 リカバリー 175 リカバリーソウル 175 マジックシャイン 20 ヒールアタック 20 レイズ 60 シャインアタック 20 キュア2 80 マジックシャイン2 80 ヒールアタック2 80 レイズ2 240 シャインアタック2 80 キュアオール 80 リカバリーオール 700 リカバリーソウルオール 700》
《リミットスキル ハイリカバリー 30% フラッシュオーラ 50% ライトアタック 50% オーラバリア 80%》
「しかし凄いな。こんなとてつもない業物を只で貰えるとはな……。さっきはああ言ったが、やはりこれは、他国の戦争の兵器補助という違反になるような……」
「どのみち罰せられるのは天者の方でしょ? 私達が気にする必要はないんじゃないの?」
ジュエルが装備しているのは、重装甲の板金鎧。青白い金属板が、綺麗に鏡のように輝いている。他に同じ色合いの盾も持っている。
武器はシンプルなデザインのロングソード。見た目は普通だが、武器としての性能はとてつもない。
《ジュエル Lv62 HP 1800/1800 MP 720/720》
《可能装備 武器/剣・大剣・斧 防具/洋服・洋鎧・プロテクター・盾》
《獲得経験値 0/16000000》
《武器/戦王の剣 防具/戦王の鎧 防具2/戦王の盾 装飾1/標的の腕輪 装飾2/治癒の守り 装飾3/ 》
《攻撃力 22500 防御力 45000 魔力 1120 敏捷性 90 感覚 180》
《スキル 挑発 10 リフレクト 36 プロテクト 30 シールドアタック 20 ドレインアタック 20 レッドソード 20 ホワイトソード 20 ブルーソード 20 オールリフレクト 120 プロテクト2 120 シールドアタック2 80 ドレインアタック2 80 レッドソード2 80 ホワイトソード2 80 ブルーソード2 80》
「しかしまあ……ここまで来るのに、ほとんど金を使わなかったな。ゲールの時には、先の金欠を心配して、金稼ぎをしてたが、あまり意味なかったかも」
「いいんじゃないの? 金は多く残って悪いこともないし」
春明の所持金は、ゲールで買い物をして以降、ほとんど減っていない。色々あって、宿代なども使っていないので、何とも浪費の少ない旅であった。
春明とハンゲツが、そんな会話をしていると、ジュエルが不思議そう問うてきた。
「何だ? お前らの言うゲームでは、この武器は金で買うのか?」
「まあな。リームの店で買える武器は、強いんだけど高いのなんのって……。そのせいで金稼ぎで、かなり時間をくってたし」
「それはすごいな。こんな超上級の武器が、普通に店で買えるのか? どんな危ない世界の武器商人なんだ?」
「うん? いやそういうわけじゃ……」
ジュエルが不思議に思っている理由が、何となく分かって春明は苦笑する。
ゲームでは、ストーリーを進め舞台が代わるにつれて、現地で購入できる武器が、どんどん強くなっていく。
面白いことに、途中で訪れる世界最大の軍事国家という設定の舞台で買える武器よりも、後から来る貧しい小さな村で買える武器の方が遥かにレベルが高い、ということもあるのだ。
モンスターのレベルと同様に、主人公が進む先から、入手できる武器が、国力関係なく強くなっていくのは、ゲームではごく普通のことであった。
この世界ではモンスターはゲーム通りに強くなっていくが、さすがに武器に関しては同じように行かなかった様子である。
「こんな武器が、普通にその辺の店先で売られてたら、相当な騒ぎになるな。軍も動くし、この武器の入手先も問われるだろう。各勢力も、その武器の出所を必死に探って、己の手にしようと模索するだろうな」
「いや、まあ……それはゲームだしな」
小さな島の、貧しい村の、小さな武器屋に、オルハリコンやミスリルの武器が普通に売られていたゲームがあったのを、春明は思い出す。ここにきてまた一つ、ゲーム世界の不思議に気づかされるのであった。




