第六十三話 リーム上陸
完結まで全て書き上がったので、これより高速更新いたします。
時は戻って現代。ドウ大陸、リーム教国領内のとある海岸。すぐ前に針葉樹の森がある砂浜の海に、一隻の船が着船していた。
それは赤と白のカラーリングのホバークラフトだ。盛大に波しぶきを上げながら、もの凄い速さでこの場に現れた。
浅瀬まで侵入して停止し着船する。ホバークラフトの扉が開くと、何と姿を現したのは春明達一行。
「ここがリーム教国かぁ~~誰もいなくね?」
「そりゃあ人のいる国には入れないでしょうが。密入国だし」
春明達は次々と海に飛び込む。浅瀬とはいえ、それなりに水深のある海に、腹の辺りまで浸からせて、びしょ濡れになっても構うことはない。
「皆ありがとな! 今までありがとう!」
「おう! お前も世界を救う旅とやらを頑張れよ!」
浩一がこの船に乗せてきた者達に、そう礼を言う。彼らが出てきた入り口から顔を出して、一行を見送るのは、軽装の鎧を着た、一人の中年女性。ホバークラフトの窓からも、船員達が顔を覗かせて、手を振っていた。
彼らもまた、鎧や魔導ローブを身に纏い、剣・銃・魔道杖などの武器をどこかしかに持っている。見送る明るい笑顔とは裏腹に、結構物騒な装いの者達であった。
「皆さんここは、リームの領内です! それにさっき遠目から確認したとおりに、どうやらここは無限魔の発生地域のようです! なるべく早くここから離れてください!」
「「おうっ! それじゃあな! お嬢さん達!」」
当然のことながら、今彼らが乗ってきた船は、あの無人島で手に入れたリームの救助船とは、全くの別物である。
最初はあの船で、リーム教国に渡ろうとしていた一行。残して置いた航海士に船の操縦を任せて、リームまで向かっていたのだが……
『何だこの船、鈍すぎだろ!? こんなの待ってられるか!? いくら蒸気船だからって、これはねえ。今待てよ……もっと良い船持ってくる。もしもし……ああ親方! さっきはもう会えないかもとか言っといてはずいんだけどよ……』
と、途中で浩一が我慢ならないと言った風に叫んだのだ。そして最初に春明が提案したとおりに、この場に仲間の海賊達を呼んだのである。
浩一の海賊仲間は、快く彼らの乗船を請け負いここまで運んでくれた。そして実際に彼らの船は、リームの蒸気式の外輪船より、遥かに速かった。
乗船してもらってから、半日も待たずして、このリーム領内の海に辿り着いたのである。ちなみに乗り捨てたリーム船は、海賊達が中のものを全て取り尽くし、燃料の石炭を全て海に捨てた後、航海士もろとも海に放置している。
短い間とはいえ世話になった、海賊達に別れを告げ、ホバークラフトは再び海の向こうへと消えていった。小さくなっていく船を見送りながら、一行は海を歩き、無事に砂浜まで上陸した。
「しかし本当にあっさりと着いちまったな……何でリームは、あんな旧型の船を使ってたんだ?」
「さあ? リームの言い分じゃ、あれは魔力で動く魔導船らしいけど」
「はぁ? 中に石炭も蒸気機関もあったし、どう考えたって機械だろ?」
「そうね。まあリームじゃ機械は御法度らしいから、あまり公にできないんじゃないの?」
「それよりここ、リームのどの辺りなんだろ? 近くに町とかあるかな?」
「少なくとも近くにはないわな。何せあんなのが浮いてるし。早速来たぜ!」
砂浜に上がった瞬間に、この辺りを彷徨いていた魔の卵が複数、彼らの元に寄ってきた。あまり長く話す暇はないようだ。
砂浜の中で早速魔の卵は無限魔に変異する。現れたのは、春明が初めてこの世界で戦った植物海獣が五体。ただし色合いは異なっており、以前の強化バージョンと考えられる。
「こいつらか……嫌なこと思い出すな」
「春明さん! ここは私に任せて!」
進んで前に出たのは、ナルカであった。以前は戦闘メンバーからは外されていたが、今は違う。代わりに浩一が、控えに入れられて、少しは慣れたところまで飛ばされていた。
植物怪獣達が、蔓の鞭を何本も振り回し、花の口から涎を垂らしながら、集団で迫ってくる。その姿に春明は、トラウマになりかねない嫌な記憶を掘り返される。
「無限魔め、燃え尽きろ!」
気合いを込めて魔道杖に魔力を注ぎ、ナルカはこのグロテスクな敵に、攻撃魔法を放つ。杖の先から放たれたのは、巨大な炎。それはその場で一気に膨張・変形し、大きな炎の嵐となって、植物怪獣達に襲いかかった。
「「ギシャァアアアッ!」」
津波のように襲い来る炎の範囲攻撃に飲み込まれ、敵は一斉に焼き付く苦痛で悲鳴を上げた。火は数秒で消し去られ、後には全身が焼けただれた、植物怪獣達の姿が現れる。やはり植物には火が効くようだ。
それに加えてナルカ自身の魔法攻撃力もある。あの島で、リームの救助船が来るまでの二日間の間、一行はとにかくナルカのレベル上げに専念した。
結果今のナルカのレベルは70。ギン大諸島では、宮廷魔道士の超エリートにも匹敵する力を持っているのだ。
「うう……まだ生きてるよ……」
とはいえ敵も強い。ギン大諸島を上回るレベルと言われる、ドウ大陸の無限魔。今ので全滅までにはいかなかった。
全身を焼けただれているが、その身はまだ原型を留めており、やや弱っているが攻撃態勢の動きは止まっていない。
「大丈夫だ! 後は俺たちに任せろ!」
ナルカを後方に回し、春明とルガルガが、ハンゲツのステータスアップの魔法の加護を受けながら、敵に突っ込んで敵陣に突っ込む。
この世界にて、ナルカが仲間になって判ったこと。魔法攻撃も、どうやら気功の物理スキルと同じように、強力な技ほど発動までの時間と、発動後の隙が大きくなるらしい。
ここは最初から魔の卵がいることが判ったので、ナルカは予め魔力を溜めていた。戦闘が始まる前に、大技の準備をするのは、ゲームではなかった方法ではあるが。
さっきナルカが撃った魔法は“マジックファイアストーム2”という。それより下位の“マジックファイアストーム”ならば、威力が弱い分もっと手早く魔法を連発できるのだが。
植物怪獣達と近接戦を繰り広げる。春明とルガルガ。敵は以前戦った敵よりも、遥かに動きが俊敏で身体が頑丈だ。
そのため楽勝とまではいかなかったが、何とか全てを撃退することができた。
「やっぱつええんだな。ドウ大陸の無限魔ってのは」
自分が倒した、胴体真っ二つの植物怪獣を見て、ルガルガは感心するようにそう喋る。
「強い分、経験値の実入りはいいけどな……でも次の町を見つけるまで、戦闘はなるべく避けた方がいいかもな」
「その前に消火活動ね。ナルカお願いね」
「はっ、はい!」
ハンゲツが指摘したのは、先程のナルカの魔法の巻き添えで、現在大火災中の森である。
辺り一帯に、メラメラと赤い輝きを放ちながら、森が黒い煙を上げて炭化していっている。魔法範囲に近い位置にあった木々などは、原型を留めないぐらい灰になっているものまである。
岩を溶かす高熱の炎が、拡散して放出されたせいで、それが近くの森に燃え移るの当然であった。
ゲームでは、森の中で炎や電撃、大爆発を起こしても、周囲の木々のオブジェクトが変化することはなかった。だがこの世界では、周囲の環境にも気をつけねばらない事実を、強く突きつけられる光景である。
そんな山火事をナルカが“マジックアクアストーム”という魔法で、消火活動を行う。先程の炎と似たような感じで、拡散放出される水が、うるさいぐらいの蒸発音と、真っ白な蒸気を上げて、山火事の消火を行っている。
ちなみに今彼女が使っている技は、本来戦闘に使うよりも、力を弱めて撃っている。そのためSP消費量は、ウィンドウのスキル覧に載っている数値より、ずっと低いはずだ。
「敵の強さとは別な理由で、戦いを避ける理由が出来たわね。戦う度にこんなこと繰り返してちゃね……。せめて巻き添えが出ないような、開けた場所でないと……」
「ていうかまず……あいつを戦線に出さなきゃ良いんじゃ?」
一行は魔の卵が再出現しないうちに、そそくさとその場から逃げるように立ち去っていった。
リーム領内と言うこと以外は、地図も何もない当てもないところで、ある意味今まで一番困難な旅かも知れない。




