第五十九話 パーティー編成
「ようし、準備できたな? じゃあいくぞ!」
「ていうか大丈夫かこいつ? 滅茶苦茶ステータス低いんだけど……」
さっき町の宝箱で見つけた、恐らく彼女のために用意されただろう装備を纏ったナルカ。そんな彼女の今のステータスはこの通り。
《ナルカ Lv32 HP 190/190 MP 210/210》
《可能装備 武器/杖・弓・銃 身体/和服・洋服・プロテクター》
《武器/雷精の杖 身体/海風のローブ 装飾1/幸運の麒麟像 装飾2/封印避けの腕輪 装飾3/ 》
《攻撃力 910 防御力 920 魔力 1860 敏捷性 220 感覚 220》
《獲得経験値 5250/16000》
《スキル マジックファイア 20 マジックアイス 20 マジックエアロ 20 マジックロック 20 マジックアクア 20 マジックライト 20 マジックダーク 20 マジックシャイン 20 ファイアブレッド 20 アイスブレッド 20 エアロブレッド 20 アクアブレッド 20 ライトブレッド 20 ダークブレッド 20 シャインブレッド 20》
《リミットスキル 炎龍 50% 氷女 50%。 風鷹 50% 石巨人 50% 大スッポン 50% 雷獣 50% 大天使 50。》
装備品は高級だが、そもそものレベルが、今の一行と比べるとあまりに低い。同じ魔道士のハンゲツと比べても、まだまだ半人前のレベルである。
まあこんな子供が、最初から今の春明達と同格の力を持っているわけがないのだが。
「う~~ん。この歳で全属性の魔法が使えるってのは凄いけど……でもこれじゃあレベルが上がる前に、先にやられちゃうんじゃ?」
「大丈夫じゃないのか? ゲームじゃ控えのメンバーが攻撃されることないし。こっちの世界でもそれが同じなら……」
「控え? 何を言ってるのよ、あんた?」
「このウィンドウを見てみな」
春明が指差したのは、今のパーティーメンバーの状態を表すウィンドウ。そこには春明・ハンゲツ・ルガルガ・浩一の覧が並んでいる。だがその場に、仲間に入ったはずのナルカのものはない。
「そんな! 私はまだ仲間に入れてもらっては……」
「違う違う! よく見ろ!」
春明が人差し指を動かすと、そのデータ表が、パソコン画面のようにスクロールする。すると皆の覧の下に、新たに四人分のウィンドウが出現し、そこにナルカの名前があった。
「五人目は下の段に入ってたのね。でもそれがどうしたのよ?」
「これは段が違うってだけじゃない。パーティーの出撃班と控え班の区分けだ。ゲームじゃ仲間が四人以上になるとこうなるんだ」
「ますます意味が判んないんだけど?」
「まあ、戦闘になってみれば判るさ。さあ行くぞナルカ!」
春明の言っていることの意図が判らないまま、一行は先程引き返した洞窟に、再び突入した。
映画に出てくるピラミッドの内部のような洞窟の通路。水系を意識しているのか、空気が少し湿って、気温は涼しい。
しばらく進むと、その先に体育館ほどの広さの広間に出た。そしてその広間には、何体もの魔の卵が、彷徨っていた。
「ここです! 私さっきここまで来たら、無限魔に襲われたんです!」
言ってる側から魔の卵達がこっちまで近寄り、そして無限魔に変身する。
現れたのは七体。うち四体は、先程も遭遇した。他の三体は、宙を浮く巨大クラゲである。以前ゲールで出会った、麻痺クラゲの色替えバージョンだ。
「ゲーム通りなら、魚人の弱点は雷。クラゲは火だ! 早速行くぜ!」
先程の魚人との戦闘で、このダンジョンの敵のレベルは判っている。ゲールで出会った無限魔よりは強いが、十分対処できるレベルだ。このぐらいの数、殲滅は容易いだろう。
そして皆が臨戦態勢に入った途端、何故か不思議な動作をする者がいた。
「うわっ! えええっ!?」
「何をして……何が起こってる!?」
杖を構えて魔法の準備をしていたナルカが、急にパーティーの後方へと移動したのだ。しかも後ろ向きで、宙を浮いての移動である。
これには本人も驚いており、透明人間に連れて行かれたように、彼女の意思に反して、パーティーから距離をとられる。
そして先程通ってきた通路の、十数メートル先まで飛ばされたところで、彼女を掴んでいた謎の拘束は解かれ、ナルカの足は床についた。
「いったい……うわぁ!?」
ナルカはもう一度パーティーの戦いに加わろうとするが、また謎の強制力が働いて、仲間から引き離される。彼女の眼前には、既に春明達と無限魔との戦闘が始まっている。
「ああ、成る程。戦闘メンバーの人数制限か」
「何言ってやがるんだ!?」
謎の力で引き離されたナルカを見て、戸惑いながら敵の槍を弾き返すルガルガ。そして元の世界のゲームの知識があるためか、早いうちに事態を理解し、落ち着いて敵に発砲する浩一。
「ナルカ! お前は何もしなくていい! 戦いが終わるまで、そこで待ってろ!」
「春明さん!? なっ、何でですか!?」
「よく判んないけど、どっちみち今のあんたじゃ足手纏いよ! 言うとおりにしなさい!」
事態を飲み込めてはおらずとも、冷静な判断でハンゲツがそう告げると、ナルカは致し方なくおとなしくなる。
交戦中、無限魔達がナルカを狙う様子はなく。戦いはそう苦戦することなく、春明達の勝利に終わった。
テレテテテーーーーン!
《ナルカのレベルが上がりました》
戦闘が終わった後、敵の死骸が転がっている広間にいた一行に、その聞き慣れた音と見慣れたウィンドウの告知が表示された。
「えっ、何で?」
そう首を傾げるのはルガルガ。それが何なのかは判るが、何故そうなるのかが判らない。というより彼女が個人的に納得できない内容である。
その名前が出た当人の方を、皆が注目すると……
「うう……」
待機していた通路の中で、ナルカが腰を落として、何やら苦しげに呻いていた。すかさず春明が、彼女の元に駆け寄った。
「おい、ナルカ! 大丈夫か!」
「大丈夫です……」
「でも顔が少し赤いぞ! 病気じゃないよな!」
「大丈夫です、病気じゃありません。何か身体の奥から、凄い力が湧いてきて……」
ステータスを見ると、ナルカのレベルは、最初より十も上がっていた。急激なレベルアップで、少し身体の調子が崩れたのかも知れない。
魔の卵が復活しないうちに、一行は一度広間から出る。そして魔の卵の姿がないことを確認して、春明は先程曖昧にしていたことの説明を始める。
「俺たちの世界のRPGゲームってのは、大概に戦闘に出れるメンバーが限られてるもんなんだよ。ゲームの中には、仲間キャラが何十人もつくもんもあるけど、一度に戦い出れるのは数人だけだ」
「何で? 大勢で行った方が強いじゃん?」
「ゲームでのシステムの限界とかもあんだろ。それにあんまぞろぞろ人を連れ歩くと、話しに盛り上がりに欠けるだろうし」
それがRPGの鉄則である。基本的にパーティーメンバーは数人で、他の仲間は予備メンバーとして控えの覧に入るか、本拠地(有無はゲームによるが)で待機である。
「鶏勇者じゃ、一度に戦闘に出れるのは四人で、五人以上仲間にいた場合、残りの奴は控えメンバーになるんだ。控えメンバーはそこにいる間は戦闘に出ない。戦闘中に仲間が瀕死になったりすると、プレイヤーの判断で、控えと入れ替えたりするのが、あのゲームの戦術だよ」
「ふ~~ん。でもなんでこいつはレベルが上がったんだ? 別に入れ替えてないし、戦ってないだろ?」
「関係ないよ。一度パーティーに入れば、控えだろうが、戦ってなくても、戦闘が終われば普通に経験値が入る」
「何それ? ずるくない?」
全く戦っていなくてもレベルを上げられるという事実。その事実にルガルガは若干ショックを受けている様子だった……




