第五十五話 転生とTSとロリコン
浩一を加えた春明達一行は、実に早く探しの街を発見した。
砂浜の方から見えた港湾。そのすぐ側に港町があったのである。割とあっさりと次の拠点が見つかったとして、意気揚々と街中に入ったが、すぐに次の難題に降りかかった。
「人の気配が全くないな……ゲールで見た廃村と似てる」
「似てるって言うか……これは間違いなく廃町よ。今時珍しくないけど」
「センサーで感知してみたが、どうやらここにいるのは、ネズミと猫と鳥だけみたいだな」
白い石造りの建物が建ち並ぶ、港町の中央道。そこを歩く一行は、この町が無人であることに、すぐ気づかされる。人の姿も気配も全くなく、時折除いた家の庭には、雑草が大量に生い茂っている。
一息つけると思ったら、この有様である。だがここがどこなのかは一応判った。この街の各地の張り紙や看板に、その名前が記されている。
「ルーカ島のルーカ町ね。ここって島だったのね。まだギン大諸島の中なのかしら?」
「ああ、そうだな。俺の中の電子辞書で検索してみた。ここは無限魔の発生のせいで、住人が島ごと放棄してるぜ。つまりここは無人島だ。……しかし俺がいたあの海からは、随分と離れてるな。どう流れたら、こんな所に?」
「なあ、春明。お前のやってたゲームでも、こんな感じなのか?」
「いや……」
ルガルガの問いに、春明は否定して首を振る。ゲームではちゃんと人のいる島に流れ着いていたのだ。そこが次の章の舞台となり、そこでしばらく冒険を続けるのである。武器の買い換えや、道具の支給なども、そこで行っている。だがこれでは何も出来ない。
「参ったな……ゲームと大分違うぞ。せめて遺跡があれば良いんだけど。それがないと話が進めねえし……」
「さっきから何言ってんだお前? ゲーム?」
話しについて行けないのは、さっき加入したばかりの浩一の方。まず彼に事情説明が必要なっていた。
ルーカ町のとある家の中。元は金持ちが使っていたであろう、大きめの家の居間に、彼らは色々と話していた。
島を捨てる際に、必要なものはほとんど持っていったのであろう。屋内には、ゴミ以外には何もない、綺麗な廃墟であった。
「つまりゲームをしてたら、そのよく判らんゲームマスターにこの世界に飛ばされて、ゲームに沿って冒険させられてるって事か?」
「ああ、そうだ。そいつが何をしたいのか、俺にも良く判らねえけど」
「ちなみに私とルガルガは、そのゲームマスターなのか使いなのか分かんないけど、変なフード被った女に雇われて、春明と旅をしてるわ。あんたもそうなんでしょう?」
「まあ、そうだな」
居間の床に座りながら、情報交換を始める一行。春明の事情を聞いた後、今度は浩一の方が話す番となった。
「それであんたは何者なわけ? 違法ロボットが、リームの軍艦を襲うなんて、明らかに変な話しだけど」
「俺はロボットじゃねえ! 人間だ!」
「えっ?」
ハンゲツの問いに、浩一がそう、やや不機嫌そうに答える。予想外すぎる回答の内容に、ハンゲツは目を丸くした。
「ああ……サイボーグだったのね。それは悪かったわね」
「違う! 身体も頭脳もロボットだけど、魂だけは人間なんだよ」
「えっ?」
一瞬納得しかけたが、サイボーグという話しも否定され、ますますハンゲツは訳が分からなくなる。
「俺はな……一度死んだ人間なんだよ。異世界でな」
「異世界?」
「ああ、春明。多分お前と同じ世界だ。俺は日本人だったんだよ。そんでそこで死んだんだ。そんであの世へ行っちまう前に、俺に取引を申し出た奴がいたんだよ」
「取引? もしかしフード女?」
日本人ぽい名前かと思ったら、何と転生キャラであった。そして取引というと、今まで散々話しで聞いてきた、そいつ以外に思いつかないだろう。
「誰かは知らないな。霊界って言うのか? 何か白いトンネルを通ろうとしたときに、声だけが俺に届いてきた。何でもこちらの要望に応えれば、お前を新しい世界で生き返らせてやるってな。それがお前らの仲間に加わって助けろって話しだ」
「その新しい身体ってのが、そのロボットの身体か?」
「ああ、そうだ」
それが彼女の真実であった。死んだ人間がロボットに転生するという、実にぶっ飛んだ話しであるが、ハンゲツの方は、その話しに何か納得したようだ。
「成る程ね。確かにゲーム通りにロボットの仲間を入れるのは難しいわね」
「何のことだよ?」
「さっき言ったでしょ。自律思考を持ったロボットは、製造は禁止されてるって。だからこの世界で、丁度いい配役を探そうにも、私やあんたと違って、見つけるのは難しかったのかもね。だからわざわざ、配役にあったロボットを作った訳ね。一応ロボットに魂を入れちゃいけないって法律はないし……。人型に関しては、人と区別できる目印があれば、結構簡単に許可が取れるしね」
確かに浩一の手を見れば、人と区別するのは難しくない。人格を入れるのに、何故異世界人の魂を使ったのは不明だが、これで浩一という謎のロボットに関する謎は解けた。
「そんじゃ次の質問だ。何でお前、あの時リームの船を襲ったんだ?」
「獲物だからだよ。俺は海賊だからな。あの船の金目のものを取りに来たのさ。俺がこの世界に飛ばされたときに、最初に降りてきたのが海賊のアジトで、あいつらとはそれ以来の付き合いだ」
海賊のロボット。この設定も忠実に再現されていた。しかもわざわざ海賊の居場所に彼を飛ばして、自然と彼が海賊となるように仕向けられているようだ。
「本当は俺が最初に乗りこんで、混乱させた後で、後から俺の仲間が来て、あの艦隊を制圧するつもりだったんだ。まあその前に、あの化け物に無茶苦茶にされたけどな」
「それで真っ先にリームの軍艦を? あそこに何かいいもんでもあるのか?」
「知らないのか? 俺たちにとっちゃ、領海侵犯したリームの船は、恰好の獲物なんだよ。あいつらを襲って沈めちまっても、政府をそれで俺達に逮捕状を出したりしないしな」
赤森との交流を阻害して、世界中に迷惑がられているリーム海軍は、どうやら意外な者達に目をつけられていたようだ。
さて次はどう行動するのかという所で、彼らは行き詰まった。
ゲームでは主人公が辿り着くのは有人島で、その島の集落で色々とイベントがあった。そこでロボット少女の次の四人目の仲間が、早々に登場するのだ。
だがここは無人島、当然次の仲間らしき人物の姿も見当たらない。
「こんな所に飛ばしといて……ゲームマスターってのは、その次の仲間って言うのは、どう手配するつもりなんだよ?」
「さあな。さっぱり判らん」
町の中に何かないか、町内を探索中、浩一と春明が、そんなやりとりをしている。
「おい! こんな所に宝箱がいっぱいあるぞ!」
「何で車庫の中に、こんなのがあんのよ?」
「今さら何言ってんだ! それならタンスの中に、ポーションが入ってた方が変だろ」
そう遠くない所の家の中で、そんなルガルガとハンゲツの会話が聞こえてくる。どうやら町の中の探索を、結構楽しんでいるようだ。
「何か変なものが色々見つかるな。まあ、ゲームマスターの仕業だろうけど」
「ああ、人の家の中に勝手に入って、タンスや壺を漁るのは、ゲームでしか出来なかったけど、ここでなら簡単に出来るってわけか」
次から次へと見つかる、放棄されたはずの町の、様々な物資に、二人はやや呆れたようだった。
「ところでお前も日本人なんだよな? 俺みたく死んだわけじゃないよな?」
「ああ、ゲームやってたら、急にこんななっててな。俺の元の身体がどうなったかは知らねえけど……」
「そんで今のお前がやってたゲームじゃ、今のお前が主人公なんだよな?」
「ああ、そうだけど?」
「ふわぁあああ~~そうなのかよ!」
何やら露骨に不満げな様子で、浩一が声を上げる。
「何だよ、いったい?」
「……いやな。転生者って言ったら、普通主人公がよくやる立場じゃん。だから俺、てっきり俺が主人公で世界を救うのかと……まあ、別にそんな説明されてなかったけどよ。全くうらやましいぜ、女二人と一緒に仲良く旅してたなんてよ」
「今はお前も含めて、女三人だろ?」
「……ああ、そうだな。気づいちゃいると思うが、前世の俺は女じゃないぜ」
「どっちにしたって同じだ。俺ロリコンだから、あいつらと一緒にいても、そんな興奮することなかったし」
途中の言葉で浩一が、別に躓いたわけでもないのに、盛大にすっ転ぶ。そして苦笑いを浮かべながら立ち上がり、春明の方に目を向ける。
「ロリコンって……正直者だなお前」
「正直なのはいいことだろ? それに今の俺は、同じぐらいのショタになったから、別に違法じゃねえし。そう言う意味だと、今のお前はストライクの筈なんだが……どうも機械の身体のせいか、こうして一緒にいても、いまいちドキドキとかしねえんだよな」
「機械の身体のせいって……元が男だってのは問題じゃねえのかよ?」
「ああ……別に問題ないな。TSもありだ」
浩一が春明に対して、大分引いたような目線を向ける中、近くの家の中を探っていた女子二人が、何やら嬉しげに家からでて駆け寄ってきた。
「おい、すごいの見つけたぞ! 家の中の宝箱に、武器がいっぱいだ!」
ゲームではこの島の町の店で、新しい装備を新調する。現実では無人島だったここでは、装備変更無しかと思われたが、どうやらゲームマスターがしっかり用意してくれたようだった。
「やったぜ! 新しい武器と鎧だ! よおし……」
「わっ、馬鹿! こんな所で脱ぐな! おい浩一行くぞ!」
「うわっ、ちょっと待て!」
新しい鎧を見るや否や、即座にその場で脱ぎ出すルガルガ。それに大慌てで、春明が浩一と共に、その場から離れていった。
「ちょっと~~装備品忘れてるわよ~~」




