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第五十三話 金山 浩一

 全員が武器を捨てて座り込んだ甲板。そこで唯一立っている四人。春明達一行と、最初に艦隊を襲撃した赤髪の少女である。


 その少女は、身長は150まで届かない小柄で、顔つきも幼く、小学校高学年ぐらいに見える。

 近くでよく見ると、この少女の両腕は金属製であった。銀色の金属のような手は、一見すると金属製の籠手を付けているようにも見えた。だがよく見ると、どうも違うようであった。彼女の両腕は、金属そのものである。ロボットのような細かなギミックの関節が、指の辺りでよく見える。

 春明達もそれに気づいたが、事前情報を持っているので、さして驚かない。


「お前が春明か? まさかここで会えるとはな……」

「そうか。それでお前は?」


 とりあえず初対面なので、一応相手の素性を聞いてみる。少女は拳銃を腰に戻し、話し始めた。


「俺の名前は、金山 浩一(かねやま こういち)だ。ある人から、お前について行けと言われてるんだが……」

「そうか。じゃあ、よろしくな」


 ルガルガに劣らない男性のような口調で、その少女=浩一が、春明との仲間入れを告げ、それをあっさりと受け入れる春明。

 これに逆に、浩一の方が少し動揺しているようだ。


「何だ? えらいあっさりだな。いきなり出てきた奴が、急に仲間に入れろって言ってるんだぞ?」

「まあ、そうだけどな。でもこういうのに慣れたから」


 浩一という人物を、そう言って全く怪しむ様子がない春明。それに同意してハンゲツが、言葉を続ける。


「私らも同じような感じだから。あんたも金で雇われて、そういう風になったの?」

「それとも俺みたく脅されたか? 何か変なのに襲われたりしたか?」

「何だよそれ? いや、まあ俺の場合は……」


 浩一が何か言いかけたときだった。


《緊急事態です! 西方より、謎の巨大物体が迫っています! どうやらモンスターのようです! 全体直ちに避難準備を!》


 各艦に響き渡るスピーカーからの巨大音声。それはこの艦隊に新たな脅威の接近を告げるものだった。


「何だよこんな時に! ……て、無限魔じゃねえのか! ていうかもう見えてんじゃねえか! 発見おせえぞ!」


 前話の提督と全く同じ突っ込みをする浩一。

 西方を見ると、何か巨大な物が、水面近くをもの凄い勢いで移動している、水の波が見えている。それはもう一分後にこちらの船に激突しそうだ。

 只でさえ一戦やらかして混乱した状況の中、唐突に割り込んできた闖入者の登場に、浩一は憤り、他の船員達がパニックを起こして甲板を走り回っている。


「もうまにあわねえ! くそっ! おいお前!」

「ひえっ!? はいっ!?」


 浩一が何をしたいのか判らないように甲板を走り回っている船員の首を掴み上げ、迫るように問い詰める。


「んな馬鹿みたいに走り回ってどうする! 全員脱出すんだよ! 緊急用の転移装置はあるか!」

「いっ、いや、ない!」

「じゃあ、救命ボートは!?」

「三隻しかなくて、しかもどれも古くなって壊れてる!」

「本当にこれ軍船か!?」


 そう言っている間に、無傷だった一隻の軍艦が、その謎の敵の突撃を受けていた。

 敵は水中なので姿は見えない。先程までこの艦は、この水中の敵に向かって、大砲や機関銃を浴びせていたが、まったく効いた様子もなく、敵の攻撃を最初に受ける。

 ゴツン!とこちらにも聞こえる激突音が聞こえる。船体が玩具の船のようにグラグラと揺れる。その時一瞬、海面から大きな魚の尻尾のようなものが見えた。


「くそっ、こりゃ駄目だ! このでかい船じゃ逃げられねえな! おい、全員早く救命胴衣をつけろ!」

「いっ、いやっ! 救命胴衣もない!」

「はあっ! 何でだよ!」

「予算不足で……」

「てめえら、溺れ死にてえのかっ!?」


 浩一と船員がそう叫び会ってる中、春明達は随分と落ち着いた様子で、怪物に襲われている艦を見物していた。


「おお……どんどん沈んでいくわね。可哀想に」

「どうすんだ? あいつと戦うのか?」

「ルガルガは水の中にいる敵と戦えるか?」

「いんや、俺山育ちだからな! 全然泳げねえよ!」


 ゲームではここで海の怪物と戦って、イベント上必ず敗北する。俗に言う負け戦闘というものである。

 だが現実の今の状況では、敵の強さとか勝ち負けと関係なく、そもそも戦うことすら出来ない。水中から船体を攻撃されては、こちらは何も出来ないのだ。


「……お前ら随分落ち着いてるな。何か秘策でもあんのか?」

「いやないな。まあこういうシチュエーションだしな」

「お前、何言ってんだよ?」


 この現状に全く慌てる様子がない春明達に、動揺を隠せない様子の浩一だった。そうこうしている内に、襲われている艦が、黒い煙を上げながら完全に海の藻屑となっていた。


「ひゃああああっ! もう駄目だ!」


 パニック中だった船員達が、次々と甲板や桟橋から、海へと飛び込んでいく。ボトンボトンと、人の雨が落ちる音と水しぶきが、近くの海面に響く。


「くそっ! 俺らも行くぞ!」

「行くってどこにだよ……」

「海にだよ! もう他に逃げ道はねえよ! 近くのフェリーに頼るしかねえ!」

「大丈夫だと思うけどな……だって俺たちこの後……」


 ドウン!


 会話の海の怪物の体当たりが、今彼らが乗っている艦に衝突する。船体が地震とは比べものにならない程に大きく揺れる。

 この衝撃で当然一行は、バランスを崩して立っていられなくなった。


「うわぁあああっ! くそがぁあああっ!」

「あ~~れ~~」


 深刻な事態に焦る浩一と、ここまで来ても実に余裕な春明一行。実に対称的な反応を示す両者が、そう時間もかからずに、艦と共に海へと沈んでいった。







「うぇえええ~~しょっぱ。海の水ってこんなに不味いのかよ……」

「そりゃあな……。そういやルガルガは、海で泳いだことなかったんだか」


 春明達三人は、海を歩いていた。海面が腰まで使った状態で、浅い海底で足を進めている。当然彼らは全身びしょ濡れである。

 目の前にあるのは陸地の砂浜。彼らは砂浜近くの、浅瀬の海の中にいるのだ。全身を潮水で濡らしながら、砂浜に無事上陸する一行。


 島の気候はかなり温暖で、砂浜より離れた陸地には、熱帯性の森林が広がって視界を覆う。足下の砂には、カニが何匹か歩いている姿があり、どうやらかなり自然豊かな土地のようだ。

 右方の数百メートル先には、港湾と思われるコンクリートの橋も見える。


「しかし何だったんだ? 何か気がついたら、こんな所にいたし。俺らが乗ってたフェリーの近くに、こんな陸なかったよな?」

「そうね……展望台で見たときには、確かに周りに島とかなかったわね……。多分誰かが転移魔法で飛ばしたんでしょうけど……。ここってどこかしら?」


 ずぶ濡れの一行が、そんな風に、自分の身の上で起きたことを、不思議そうに話す。

 船が沈没した後、一行はここに来るまでの記憶がなかった。海に投げ出されて、意識を失ったわけではない。海に飛び込んだ後、急に視界が暗くなったと思うと、いつの間にかここの海面にいたのである。

 イベントを終えた後、暗転して瞬時に次の舞台に移る。これはある意味、とてもゲーム的な現象ではないだろうか?


「春明、ここがゲームであった、次の舞台の島なの?」

「多分そうだろうな。確かゲームじゃ、海で漂流した後、島民に助けられるんだけど……どこにも人がいないな」


 ゲームと違って、一行は五体満足であり、助けを貰うような状態ではない。傷もなく、武器などの持ち物もなくしていない。

 そして現時点、この場には、彼ら以外に人の姿はなかった。そう思っていたら……


「あっ! 何か流れてるぞ!」


 ルガルガが指差したのは、さっき自分たちが歩いてきた海の中。そこには海を漂う二つの物体が見える。


「あれって人よね……それに赤い髪……」

「ていうかあいつ……マジで漂流してんじゃん! すぐ助けねえと!」


 そう言って春明が、さっき出たばかりの海に、再び飛び込んだ。



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