表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/105

第五十二話 ガンマンガール

「誰だあいつ? この船の護衛か?」

「う~~ん、違う気がするわね。何しらあの子?」


 彼らが戦っているのは、一人の少女である。その姿は、この高性能の望遠鏡のおかげで、こちらからもはっきりと見える。

 赤毛の短髪で、兵士達との体格差から、かなり小柄であることが判る。髪の毛の一部に、現実ではあり得ない、触覚のようなアホ毛が、一本生えている。

 服装は黄色いラインの白いジャージ。そして彼女の両手には、二丁の拳銃が握られている。西部劇のような二丁拳銃のガンマンだ。形状は今までもこの世界で見てきた、一般的な銃火器ではなく、SF映画に出てくる光線銃のようなデザインの、銀ピカの拳銃である。


 その拳銃からは、青い直線上の弾道線が見える。恐らく春明の使う気功矢と同じように、気功か魔力の、エネルギー弾を撃っているのであろう。

 彼女は兵士達の魔法や銃弾を軽快に避け、時には蹴りで弾き返したりながら、それらの攻撃を全て無力化させている。

 そして己の手に握られている銃の引き金を高速連続で引き、もの凄いで連射速度で発砲している。

 兵士達はそれらを何とか避けたり、銃や魔法の結界で弾いたりしている。だが対処しきれなかった兵士達が、次々と撃たれ倒れていった。

 銃弾は全て彼らの足に当たっていた。恐らく意図的にそこを狙ったのだろう。そのため死者は出ていないようだ。これが春明達が、望遠鏡で見た光景の全てだ。


「うおおっ! すげえな、あいつ!」

「ああ、ていうかあれって春明が言ってたあれじゃない?」

「多分そうだな。ゲーム通りなら最初は敵なのに、何かこっちが助けられてる側になってんな」


 その人物の特徴に、春明は心当たりがあった。ただし現実で知っているわけではなく、ゲームでの話しであるが。

 海上で会うのはゲーム通りだろうが、現状はゲームのイベントとは大きく異なっている。


「まあこの方が、話が進みやすそうで良いんじゃないの? そんでどうするわけ? ゲーム通りなら、あの子は海賊って事になるけど」

「そうだな……とりあえずあいつには直に会っておかないとな。俺たちもあの船に乗りこむか?」

「おお、それがいいな! 俺も早く暴れたい気分だしな!」


 少女と会うために軍船に乗りこむ=船のリーム兵と戦う、という風に解釈したらしいルガルガが勇んで賛成の声を上げた。

 一度決まれば話は早い。彼らは展望台から下りて、究明ボードのある船室に向かっていく。避難するためではなく、軍船に向かうための船を借りるために。






「もっと早く進まねえのか!? 向こう終わっちまうぞ!」

「悪いけどあまり早くすると、すぐに魔力切れになるわ」

「じゃあスキルポーションやるよ。いっぱい買い込んだし、すぐ回復するから良いだろう」

「ああ、そういえばそうだったわね」


 春明がアイテムボックスから出したスキルポーションの受け取り、それを一気飲みするハンゲツ。

 今彼らは海の中の船の上にいた。ただし乗っている船は随分小さくなった。彼らが乗船しているのは、フェリーではなく、フェリーからかっぱらった救命ボートである。


 その船の先にいるものが、身体をロープを回し、繋がれたボートを、馬車の馬のように引っ張って海上を進む。

 それは牛ほどの大きさもある、怪物のような大きな魚。しかもその魚は、身体半分透けていた。ハンゲツが冥界から召喚した実体化した動物霊だ。

 ちなみにこの魚霊の召喚にスキル名は特にない。ウィンドウに表示されているスキル以外の、大技でない魔法も、ハンゲツは普通に使える。別に全ての能力が、ゲーム設定に縛られているわけでもないらしい。


 海面に身体の半分を出しながら、精一杯ヒレを振って泳ぎ、ボートの移動の動力となっている魚。ハンゲツがスキルポーションを飲むと、一気に遊泳速度が一気に上がる。

 目的地である軍船の姿がどんどん大きくなっていく。この様子だとあと数分で到着するだろうという時だった。


 ドン! ドン! ドゥウウン!


 突如鳴り響く轟音。音源は目的地に軍船の方。今までも少女との戦闘によるものであろう、銃声や爆音が聞こえていたが、今のはその日ではなかった。


「何てことしやがる……」

「味方の船ごと、あの子を殺そうしたのかしらね? あれでどうにか出来るようには見えないけど」


 何が起こったのかというと、今まであの少女が乗りこんで、戦闘を行っていた軍船に、隣にいた別の軍船が、大砲を発射したのである。しかも何発も継続して。

 十数発の砲弾を受けた軍船が、船体が大きく破壊され、山火事のような盛大な火柱を上げて、雷雲のような真っ黒な煙をモクモク上げる。このまま船全体が海の藻屑と消えるのも、時間の問題であろう。





 味方を攻撃した軍船の一隻。艦橋で炎を燃え上がらせながら、沈む味方の艦を眺めるのは、この艦隊のリーダーであるリーム海軍の提督である。

 春明の世界の観点では、昭和以前の船のような、レトロ感溢れる旧型の機器が置かれている艦橋である。ガラス張りの全面のドアから、外の様子がよく見える。


 白いシャツに黒いネクタイの上に、海軍証のついた青いコートという、海軍の制服を着た者達がいるその艦橋の中、提督が次の指示を出す。


「これでいい。引き揚げるぞ!」

「宜しいのですか? まだ任務は……」

「良いのだ。これであの春明という男に、新たな討伐大義が出来た。海賊と組んで、リームの艦隊を襲撃したのだからな」


 最初は焦りが見えた提督の表情も、途中で良いことを思いついたという感じで、ほくそ笑む。


「海賊と組んだ? あのロボットの襲撃と、春明と繋がりがあるようには……」

「良いのだ。こちらがそう報告すれば、それが真実だ。さあ、さっさと退却だ! あのロボットもあれで死にはすまい! 早く……」

「大変です! また敵襲が!」


 逃げの一手を実行しようとする前に、またもや艦の危機となる報告が飛び込んだ。


「春明です! 春明とその仲間が、この船に乗りこんで、我が兵と交戦を……」

「もう見えとるわ、馬鹿たれ!」


 艦橋の窓から見える甲板に、既に船に乗りこんで、海兵達と戦っている春明達の姿が、既に見えていた。


「どうやって乗りこんだ! 転移魔法か!?」

「いえ、どうやらフェリーからボートで移動して、こちらに乗りこんだようで……」

「はぁ!? 何故ここまで近づくのに気がつかなかった!」

「それが……コウイチの襲撃に皆気をとられて、誰も周囲を監視していなかったようで……」

「この馬鹿たれが!」


 部下の無能ぶりに提督が激昂するが、もう事態はそれで済む問題ではなくなっていた。





「たりゃあああああっ!」


 ルガルガの鉞が盛大に振られ、数人の海兵達が吹き飛ぶ。相手が無限魔ではなく人間と言うことであって、刃は向けず、珍しい鉞の峰打ちで殴っていた。

 吹き飛ばされた海兵は、ボキッと骨が折れる音を立てながら、甲板から吹き飛んで海に落ちた。一応手加減はしているのだろうが、これでも既に死んだのではと疑問に思う。

 ルガルガはこんな風に、甲板の上で鉞を振り回し、リーム海兵達を殴り飛ばしていた。


 近くで春明も、海兵達と戦っている。素早い動きで銃弾や砲弾を避け、敵の剣撃を払いながら、敵の手足を斬り落とす。

 またその戦闘のついでで、甲板にあった砲台も真っ二つに割られていた。ハンゲツの霊術でステータスアップした二人が、そうやって甲板の上で派手に戦闘を繰り返していた。


「くそっ! 機関砲を撃て!」


 右舷の方で海兵の将校が、そこに設置された銃座を指して部下に指示を出す。その銃座に設置された機関銃は、春明の世界で言うM2機関銃に近いデザインと大きさだ。


「しかし今撃てば味方にも……」

「構わん! 早く撃てえ……はがぁ!?」


 言ってる最中に、その将校が吹っ飛んだ。甲板の上を転がって、壊れた砲台の壁に激突する。

 それをやったのは春明達ではなかった。ついさっきこの甲板に上がってきた一人の少女。最初の襲撃者のあの拳銃使いである。


「よおっ……」

「コウイチ!? あわわわっ……」


 拳銃を持った赤髪の少女が、その海兵に銃口を向ける。海を泳いで渡ってきたのだろう。彼女は全身ずぶ濡れであった。


「判った! 降参だ! 撃たないで!」

「「!?」」


 只でさえ春明達に壊滅しかかっていた海兵隊。そこへ更に新たな敵が現れたことで、海兵の一人が武器を投げ出して、両手を上げた。


「わっ、私も降参よ! お願い、撃たないで!」

「おっ、俺も俺も!」

「積み荷も提督の首でも何でもやる! 助けてくれ!」

「俺もこ……ぶへぇええっ!?」


 一人が降参すると、それに乗じて他に生き残っていた海兵達も、次々と武器を投げ捨てて降伏した。急な降伏で、勢いを止めきれなかったルガルガの一発が、不幸にも数人の海兵を吹き飛ばす。

 見ると艦橋の方にも、窓からこちらに向けて、両手を挙げている者達が見える。突然現れたリーム教国の艦隊は、そもそも何をしに来たのかも判らないうちに、あっさりと制圧されてしまっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ