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第四十九話 緑人

 それから数日後。件の事件に関して、予想通り国中で報道され、人々を騒がせた。

 無限魔を操る謎の装置の存在も驚くべき話しであったが、それと犯人の動機も人々の関心を高めた。元々この事件には、死者が一人も出ていないこともあって、彼らに同情の声が多く上がっている。

 それと同時に、更に深く掘り下げられることになった移民問題に、人々の彼らへの反感が更に高まっていった。今後はどうなるのか不透明だが、移民と市民の軋轢が更に大きくなることは間違いない。

 ちなみに犯人であるあの男女は、拘留後黙秘を続けている。件の装置の入手路も不明のままで、あの時現場で彼らが喋ったことが、現在の捜査で判明している事実であった。


 さてそんな風に世間が騒ぐ仲、春明達がどう過ごしているかというと、彼らは王城の中でお世話になっていた。

 お世話と言うより、監視されていると言った方がいいかもしれないが……


 王城の中で彼らに割り当てられた部屋の中。王城の客室と言うだけあって、その部屋は広くとても豪華だ。

 床も壁紙も実に綺麗で、設置されている家具も高級品ばかり。壁にはあまり実用性がなさそうな、無駄な装飾が施された刀剣が、何本も飾られている。

 そして天井には……隠す気など最初からないのか、監視カメラが彼らを見渡すように設置されている。


「全くいつまで進むんだ? こんな生活?」

「我慢しなさいよ……。王子は色々言ってくれたけど、国からすれば私らは得体が知れない所ばかりだし……」


 テーブルの上で、先程使用人が持ってきた紅茶を飲みながら、春明とハンゲツが色々文句を垂れる。

 彼らの装いは、王城に来る前の普段着のままだ。王城に招かれたときに、色々と高級そうな服を出されたが、何か肌に合わないので、それらを受け取るのを丁重に断ったのである。


「俺もいい加減イライラがたまんねえよ! ろくに外に出られねえし……何より飯が不味い! これ最低すぎだろ! 王城の豪華な生活ってこんなもんか!」


 ルガルガがベッドの上に座りながら、二人以上に大きな声で、文句を叫ぶ。彼女にとっては、ここで出されている宮廷料理が、一番の不満のようだ。

 最初に食事を出されたとき、レックや他の兵士・料理人がいる前に「不味いわ! 何だこれ!」と、全く遠慮なく叫んだときには、少し騒ぎになっていた。


「くそっ! いっそここから力尽くで逃げ出してやるか?」

「う~ん。別に罪に問われてるわけでもないのに、それでお尋ね者になるのも、何かね……」


 そんなこんなで空気がピリピリしている中、不意に外側からこの部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。


「何よ! クソ不味い飯なら、ついさっき食ったぞ!」

「ドーラよ。春明さん達、科学捜査所から、色々話があるって!」


 ルガルガが苛立って声を上げると、返ってきたのは、数日ぶりに聞くドーラの声であった。






 この王城に招かれる前に、彼らは憲兵所総本部で少しお世話になっていた。調べてほしいことがあると、レックの要請で、科学捜査所から健康診断を受けていたのだ。

 妙な機械で身体を観察されたり、髪や血液を採取されたり、訓練施設で模擬戦をさせられたりと、実に様々なことをさせられた。

 王城に招かれてからも、二回ほど科学捜査所に再び呼ばれたりもしていた。今日もまた何か調べるのかと思ったら、そうではなく、調査ではなく結果報告であった。


 部屋に入ってきたドーラが、大量の書類を、机の上に置く。何か色々グラフ表や、長い文面の文字が書かれているが、春明にはこれが何なのかよく判らない。そもそも彼は文字が読めないだけに。


「なあ、これって何なんだ? くそ難しいことばかり書いてあって、よく判んねえぞ!」

「ええ、専門的用語が多すぎるわね。ていうか今からこれを全部読めと?」


 文字が読めるルガルガとハンゲツも、この書類は難解であるようだった。


「ええ、これはとりあえず持ってきたんだけど。具体的な説明は私がするわ。まずは最初に春明君が緑人かどうかだけど……間違っていないけど、少し特殊、というのが調査結果ね」


 “緑人(りょくじん)”とは、完全なる不老不死の力を持つ、超上級の能力者である。

 力が強大というだけでなく、何度死んでも甦り、年老いることもない。あまりに反則級の力を持つことで、この世界の各地で、神とも悪魔ともされる、とてつもない存在だ。

 現在赤森王国を統治している天者達や、リーム教国が崇拝の対象としている不死の女神ワタナベ・コンも、その緑人なのである。


 最初にレックは、春明がその緑人ではないかと疑った。

 春明自身の説明では、何故か急にこの世界に飛ばされて、その時から不思議な力を使えるようになったということ。そして自分の力が、日増しに強くなっているということである。

 ゲームに関しては、少し問題が起こる気がして話していない。


 実は春明に似た事例が、過去に存在するのだ。

 二代目の緑人であるワタナベ・コンは、あるとき初代の緑人のレイコに、いきなり緑人の力を与えられ、異世界に無理矢理飛ばされたのだ。彼女はその世界で力を上げ、やがて不死の女神と呼ばれるようになった。

 レックは春明の境遇から、また何者かが、その時のワタナベ・コンの時のような、異世界トリップをさせているのではないかと考えていた。

 そしてそれを確かめるために、憲兵隊の科学捜査所で、彼の身体を調べさせてもらっていたのだが……


「何だ? 緑人とは違うって言うのか?」

「ううん。緑人には違いないけど、力の特性が少し違う……というよりこれまでの緑人より進化してるみたいなの。普通の緑人は、他人に自分の血を飲ませることで、その人に緑人に近い力を与えることが出来るの。でも春明君は……血を飲ませなくても、それが出来るみたい。ただ近くにいるだけで、他人に緑人の力を与えることが出来るのよ。ハンゲツさんとルガルガさんみたいに……」


 この言葉にハンゲツとルガルガが当然反応する。


「それって春明と一緒にいるだけで、強くなれるってのか?」

「ええ……勿論力を得るには、相応の鍛錬を春明君の近くでする必要があるけど。二人とも、春明君と一緒にいて、力が上がったような気がしたことはない?」

「ええ、あるわね」


 気がするにも何も……彼らにはその力の上がり具合を、ウィンドウ画面のLv&ステータス画面で、数値的に認識している。その力が無限魔を倒す度に上がることもだ。

 これはゲームでは当たり前の概念だった。だがゲームの話しは禁句になっているので、二人は単純に、あるとだけ答えた。


「お二人の身体を調べて、色々判ったけど。やっぱり半緑人に近い状態で、魔法や気功の力が少しずつ強化されてるわね。それに肉体年齢も変わってるわ」


 肉体年齢という言葉に、二人は意図が判らず訝しげにする。ドーラがかなり真剣な面持ちで、二人の顔を見る


「ハンゲツさん……前に会ったとき、見た目が若くなっていう話ししたよね?」

「ええ、そういえばそんなことあったわね」


 その時はお世辞と思って、ハンゲツも気にしていなかった。だがドーラの様子を見ると、そうではないのだろうか?


「あれ気のせいじゃなくて、本当だったみたい。ハンゲツさんは今25歳だけど、今の肉体年齢は18歳まで引き下げられてるわ。まだ確証はないし、推測だけど……春明さんには、力を上げた人の肉体年齢を、適齢期まで引き下げる力があると思うわ」

「春明とバーティー組んで、レベルを上げてくだけで、若返るっていうの? それはとんでもないわね……」

「パーティー? レベル? ……ええ、そうね。春明君と一緒に戦い続ける度に、それが加速すると思うわ」

「そりゃ、すげえや! これだったら春明と仲間になりたがる奴、世界中からわんさか出てくるぜ!」


 告げられた事実に、楽観的な様子で感心する二人。だがその様子に、ドーラが少し苛ついているようだ。


「もうちょっと危機感持ってください! 後からどんな副作用があるか……。それに春明さんに、理由も告げずにこんな力を与えた人も、ちゃんと調べないと!」

「あ~~判ったよ! そんで昔の緑人みたく、春明の血を人に呑ませたら、どうなるんだ?」


 忠告するドーラに、ルガルガが相変わらず深刻に受け止めた様子もなく、軽く返していた。


「それは動物実験で試したけど、何も起きなかったわ。普通の緑人とは性質が違うのか、今の春明君の力がまだ弱いからなのか判らないけど……。それともう一つ判ったことがあるの。どうやら春明君の力が影響するのは、生き物だけじゃないみたい。貴方たちの武器や防具が自然に修復されたり、特殊装備や回復薬の効果が上がっているのも、その力の影響ね。実際にあの麻痺避けの腕輪には、そんな強力な力は………て、ルガルガさん聞いてます!?」


ドーラの長ったらしい解説に飽きてきたルガルガが、ベッドに入って昼寝に入り始め、それをドーラが叩き起こす。そんな風に三人が話し込んでる中、問題の当人である春明は、少し考え込んでいた。


(ゲームでのレベル上げの概念が、こんな風に説明されるとはな……。こんな力くれて、ゲームマスターは、俺に何をさせたいんだか……)


 未だ正体も目的も分からないゲームマスターに、以前よりも少しだが、春明は気にかけたようだった。


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