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第三十六話 ドーラ・ガーナ-

「知ってる? それに似た感じの配役がいるのか?」

「似た感じじゃなくて、まさにその設定通りの女よ。名前も同じだし。私が昔働いてた頃の、後輩よ」

「後輩って……マジか? 実在すんの?」


 意外な事実である。ハンゲツはそのゲームキャラと知り合いであった。確かに彼女は、かつて憲兵をしていたという話しではあったが。


「何だ? 要はそいつに会えばいいのか?」

「いや……今のところ会う理由もないだろ? 別に同僚が酷いことしたわけでもないし」

「それ以前に、私あまりあいつと会いたくないのよね。ぶっちゃけ、むかつく女だったし……」

「むかつくって……性格とか悪いのか?」


 ドーラという憲兵は、正義感が強くて、同僚の不手際を代わりに謝罪するような、とても誠実な女性であった。

 だがこれまでの経験からして、この世界のドーラが、全てゲーム通りとは考えづらいだろう。春明はそう解釈したが……


「だってあいつ、後から入ったくせに、強いからって理由で、上から何だかちやほやされてさ……。何だか街のガキ達からも、随分好かれてるみたいだったわね。おまけに何故かレック殿下に気に入られてて、随分いい扱いされてるみたいよ。そのおかげで入隊して数ヶ月で私らを追い越して……正直むかつくじゃん、そいつ!」


 実際は只の妬みであった……。何という典型的な、モブキャラの嫌みであろう。語るハンゲツの言葉は、口調もどこか荒々しい。


「いやお前……自分で言ってて小物だと思わないか?」

「別に私ら、大物になったつもりはないし。……まあ同僚の中には、母親がリーム人だからって、かな~りどうでもいい理由で嫌ってる奴もいたけど」

「ああ……うん。この辺りもゲーム通りだな。ていうかお前の嫌う理由も、五十歩百歩だぞ……」


 話聞く限り、そのドーラは、ゲームのドーラとほとんど同じような存在のようである。一応この世界のイベントを進める、手がかりに違いはない。


「ドーラの家とか知ってるか。会いたいんだけど……」

「ええ~~何でよ? 別に像は盗られてないじゃん」


 春明の提案に、ハンゲツは大ブーイングであった。ルガルガは、何かどうでもよさそうに、二人の会話を聞いている。


「イベントが起きないんじゃ、こっちから像を渡すしかねえ。でも普通に憲兵所に渡しちゃ、ドーラとのイベントが起きなくなりそうだし。だったらドーラに手渡そう」

「別にドーラと絡まなくてもいいじゃん……」

「だから必要なんだよ! このゲール王国の攻略には! そうしないと、俺らはずっとここに居残ったままだぜ。このゲームが途中で終わったら、金も稼げなくなるかもしんねえぞ!」

「……たく、しょうがないわね」


 不満げにも了承したハンゲツは、ズボンの中から何かを取りだした。

 それは銀色の、開閉式に繋がっている、二枚の板状の物質。上の板にはテレビのような画面が、下にはパソコンのようなスイッチがついている。まあ一言で言えば、これは携帯電話であった。


(携帯まであんのかい?)


 もうこの世界に、核兵器だとか宇宙船だとかが出ても、もう驚く理由もないだろう。

 ハンゲツは携帯のスイッチを押し、それを耳に当てる。そしてしばらく待機音が鳴った後、向こうが電話に出た。


「ああ、ドーラ? 私ハンゲツよ。うん……少し前からパイパーに戻ってきててさ……えっ? ……ちょっと、何でもう知ってんのよ!? 飯屋で? ああ、そう……。まあそれはいいわ。ちょっと話しがあんだけどさ、これから先暇ある? 勤務で忙しいなら、後でもいいけど……。えっ、今いいの!? えっ? 奢ってくれんの? いや……金ならこっちも充分あるし、別にそっちが払わなくても……。うん……そう、ありがとう。それでさ……」


 この後は何故か本題からずれて、退職後の世間話に変わっていった。その様子を春明とルガルガが、呆れた顔である。


「あんだけ言っといて……思いっきりダチじゃん」






 彼らが向かったのは、王都パイパーの居住区。地理的には、以前春明達が食事した赤森料理店に近いところにある。

 その一角には、縦長の建物が、まるでドミノのように建ち並んだ団地がある。その団地の一室に、件のドーラ・ガーナーの自宅は、その団地の一室にある。

 ちなみに時間は既に六時を過ぎており、次第に暗くなり始めたところだ。


「憲兵隊の少佐って割には、結構ぼろいとこに住んでんだな」

「ルガルガ……そういう悪い口は、間違ってももう言うなよ。ましてや現場じゃな……」


 団地の階段を上がる一行。無機質な白い石の壁に覆われ、やや汚れた通路は、間違っても貴族が住むような高級住宅ではない。


「ここは外国からの移住者が、多く住んでたところよ。ドーラも家族と一緒にここに住んでるわ。他の部屋は、この時勢だから、とっくに満杯だろうけどね」


 やがて目的地であるガーナ-宅の部屋に辿り着く。呼び鈴を押すと、特に待つことなく、部屋の住人が扉を開けてきた。

 赤い髪の二十代前半ぐらいの、赤髪のゲール人。彼女がドーラである。現在は休暇中であるため、憲兵の装備ではなく、身軽な私服姿だ。


「いらっしゃい、ハンゲツさん! それとそちらのお二人も、一応……初めましてかな?」

「一応?」


 妙な挨拶に春明が首を傾げるが、ドーラはそれに答えず、快く部屋へと案内してくれた。

 ドーラ家の部屋は、ごく普通の一般家庭といった風であった。居間にはテーブルと椅子・ソファーがあり、その前にはテレビがある。奥の方にはキッチンが見える。日本のマンションと違って、和室などは見当たらない。


「どうぞ、楽にして」

「おう、じゃあ遠慮なく!」


 言われてルガルガが、勢いよくソファーに座り込む。春明とハンゲツも、かけてあるテーブルの椅子に座り込んだ。


「ついさっき出前を頼んだんだけど、まだもうちょっとかかるみたい。本当は私が何か出せれば良かったんだけど、ちょっと時間なくて。昨日の残り物じゃ失礼だし……」

「いやいいよ! 何もそこまでしてくれなくても……」


 何だかやりづらい雰囲気の春明。ハンゲツがぼろくそ言ってた割には、随分親切に振る舞ってくれる。

 部屋にはドーラだけでなく、彼女の母親らしい、中年の白人女性がいる。赤い髪に白い肌は、どうもゲール人とは異なる人種に思える。

 彼女は事前に用意してくれたらしい、コーヒーを三人持ってきて、朗らかな笑顔で彼らに語りかけた。


「別に遠慮しなくていいのよ。今日は久しぶりに、お客様が来て良かったわ。この子、昔からあまり友達がいなかったからね……」

「いやそうは言っても……こっちは初対面でいきなり上がり込んだ方だし……」

「別にいいじゃん春明。俺は速く飯が食いてえし……」

「お前は遠慮というもんを知れ」


 春明はそう言って、出されたコーヒーを飲む。彼は実はコーヒーは嫌いなのだが、出されたものを残すのは失礼と、ゆっくりと我慢して飲む。


「ハンゲツさんも本当にお久しぶりです。何かしばらく見ないうちに、若々しくなってて、格好いいですね」

「はっ? 若々しい?」


 ドーラの不思議な発言に、ハンゲツは意図が判らず首を傾げた。だが春明の方は、その言葉に同意のようだ。


「ああ、それは俺も思ってた。何か初めて会ったときより、五年ぐらい若くなってる感じだし」

「うん? そう、ありがとう」


 これをお世辞という意味に受け取ったハンゲツは、軽く礼を言う。そうして少しの間、談笑した後、早速話しが本題に入る。


「それでさっき言ってた、大事な用事って何? 何か変に話しを曇らされてたけど……」

「おう、それだ」


 そこで春明は、早速アイテムボックスから、封印の麒麟像を取り出した。突如空間の穴から召喚された麒麟像を見て、ドーラと母親がやや驚く。


「今のって次元魔法ですよね? レグン族は魔法が使えない筈だけど……」

「アイテムボックスだ。これが魔法かどうかは、俺も知らねえ。それでこれがここに来た本題だ」


 そう言ってそれを、テーブルの上のドーラの前に出す。ドーラはそれを手にとって、よく見てみた。


「すごい……虹光石で出来てるみたいだけど、こんな大きい彫刻は………!?」


 物珍しげにそれに触れていたドーラだが、途中でその表情が急に険しくなる。


「どうした?」

「いえ、うん……ごめんなさい、ちょっと待って」


 いきなり様子が変わったことに、春明が問いただすが、ドーラは何やら真剣にその像を注視している。時々そこに魔力を送り込んだりもしていた。

 2~3分ほどして、ドーラは像から目を離し、春明達を見据える。そこには先程の朗らかさはない、かなり真剣な面持ちである。


「これ……どこで手に入れてきたの?」

「ガルディスっていう村の、近くの洞窟で見つけたけど? 何かしたのか?」

「そう……。この像、尋常じゃない程の魔力を感じるわ。天者の法具すら凌ぐぐらいに……」

「それって凄いのか?」

「当たり前よ! これがもし兵器だったりしたら、この国を一日で滅ぼせるぐらいよ! 何てもの持ってきてるの!」


 何故か声を荒げるドーラ。これを元の世界に例えるなら、旅行のお土産を渡されたら、それが核兵器の起爆スイッチだった……みたいな感じだろうか?


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