第三十一話 殺人事件?
「やっと着いた~~! 自分の村なのに、何でこんなに嬉しいんだろ?」
「色々戦いすぎたからじゃないの? 何か何ヶ月もあそこに篭もってた気もするわ……」
「しかしここまでの道のり、行くときより長く感じたような……」
ダンジョン攻略を逆向きにやり直し、無限魔だらけの参道を通り抜け、ようやくガルディス村に帰還した一行。
ゲームではダンジョンクリア後の、ここまでの帰還は、全て一瞬で終わっていた。イベントが終わると、自動的に画面が切り替わり、そこまでの道のりがイベント上スキップされて、このガルディス村に戻っていた。
だが現実ではそうはいかず、しっかり帰りの道も、自分の足で進まなければいけなかった。
「そんでこれからどうすんだ? すぐ村を出るのか?」
「私はちょっと休みたいわ……久しぶりにまともなベッドで寝たいし」
「アイテムの補充も必要だしな。しばらくゆっくりしてもいいじゃないのか?」
一度はルガルガの実家に泊まろうかとも思ったが、旅立ちの別れをした後で、また戻るの気が引けるので、彼らは一旦前にも泊まった宿に戻ることにする。
進む村の道には、悪戯で置かれていた石は全て撤去されていた。恐らくもう、新たな石が置かれることはないだろう。ただし建物の壁に描かれていたアートはそのままであったが。
「ああっ!? もしかしてあんたらか!?」
「えっ?」
村の中を歩いていると、見知らぬ通行人のホタインが、何故か大層驚かれて、声をかけられた。
「おぉい! あの旅人がここにいるぞぉ~~!」
村人がそう叫ぶと、声を聞いた人々が、次々とこちらに集まってくる。皆動揺した様子だ。これは一体何事かと、全員が首を傾げる。
「私ら何かしたっけ?」
「さあ?」
ゲームでは暴走幽霊を倒したことで、村人から感謝されるイベントがあった。だがゲームでのあまりの差異から、この世界にそのようなイベントが起きるとは思いにくい。
ではこの騒ぎは何なのか? 集まってきたものには、何故かハンゲツを注視している者が多い。
「良かった! あの腕はあんたのじゃなかったんだな!」
「腕?」
村人の一人が、ハンゲツを見てそう言う。腕とは、何となくで覚えがあるような……
「何日か前に溜め池の方で、切れた女の腕が発見されてよ! それで村中大騒ぎだったんだわ!
「ああ、本当にな! こんな辺鄙な村に、バラバラ殺人だって、皆びっくりだったわ。丁度その前に、久しぶりの旅人が、サウスんとこの娘さんと村を出たって話があってな。その人達が、無限魔に襲われたんじゃないかっても言われててな……」
「えっ、ええ……そうなんだ」
何となくどころか、とっても覚えのある話しだ。まさかあれでここまで騒ぎが起こるなどと、全く予想していなかった。聞けばもうじきここに、街の方から憲兵隊も来るという。
最初はゆっくりしようかとも思ったが、予定は変更となった。変なことに巻き込まれないうちに、一行は早々にガルディス村を後にすることになる。
逃げるようにしてガルディス村を出た一行。前にも通ったガルディス行きの街道で、憲兵隊と鉢合わせにならないうちに、少し急ぎ足で、無限魔を蹴散らしながら一行は進む。
やがて分かれ道に入り、最初にここを通ったところとは別の方角へと向かっていく。やがて少し進んだところで、ハンゲツが安堵して足を止めた。
「大丈夫よ。ここなら憲兵とも会うことはないはずよ」
「おお、そうか」
どうやら安全圏に入ったらしい。別に憲兵とあったからと言って、さほど深刻なことにはならないだろうが、変に問いただされたときの言い訳が大変だ。
「ところで俺ら、これからどうすんだ?」
「どうするって? 王都へ行くんだけど?」
ルガルガの問いに、何を今更と春明が答える。次の行き先は王都パイパーと、ゲームのシナリオ通りに進むだけだ。
「でも鉄道とか使えねえんだろ? こっから王都って、すげえ長いんだけど、本当に歩いてくのか?」
「そうなるわね。ここから徒歩だと、王都まで十日ぐらいかしら? 無限魔の活動範囲を無視して突っ切れば、その半分ぐらいで済みそうだけど……」
「ああ……うん。そうだな。大変だけど行くしかないな」
ゲームでは王都の道のりは、とても楽なものであった。集落の入り口から出れば、マップ画面が自動で切り替わる。それは世界地図を縮小させたような、森や山などオブジェクトが設置されたフィールドマップが広がっている。
プレイヤーはそのワールドマップを、まるで巨人のように歩きながら、次の目的に進むのだ。
その徒歩にかかる時間は、数分ほどですぐに終わる。何とも楽な道のりである。だが現実のこの世界では……そのような便利な簡略はなく、地道に時間をかけて進まなければいけないようだ。
世界一つを舞台にしたRPG等は、国や世界がとても狭く描かれている場合が多い。
一つの世界に、国家が数個しかなく、その国家にも町や村が数個しかないという、一見すると小国ばかりの世界に見える。中には一つの世界に、国家や王が一つしかない場合もある。
鶏忍者というゲームでも、国は数個しか登場しない。一つの大陸に、国が一つだけ。今春明達がいるテツ大陸は、ゲームとこの世界では大陸名は同じだ。
だがゲームでは、テツ大陸にはこのゲール王国の領土が、大陸全土を占めているように描かれていた。だがこの世界では違う。
テツ大陸には、大小数多くの国が、テツ大陸の土地を分断して統治している。ゲール王国はその中の一国に過ぎない。そして別にゲール王国が、この大陸で一際大きな国というわけでもない。
このゲール王国は、このテツ大陸の中でも、他国との交易が比較的活発な国だ。外国からの人々の出入りが多い。中には亡くした身内に会いたくて、この国の霊術士を訪ねる者もいる。
だがそれが影響してか、無限魔出現以降、この国では少し困ったことになっていた。
「見えてきたわね。あれが王都よ」
「ああ、やっと着いたか……」
襲い来る無限魔を突破しながら、王都パイパーまでの最短距離を通ってきた一行。そして数日かけて、今ようやく王都に辿り着いた。
森から切り開かれた広大な平野の中に、この国の最大都市が、彼らがいる森から抜けたばかりの街道から見える。
山の上などではなく、ちょうど側面にいるため、彼らの視界からは、王都の全体は見えない。だが横から見える、無数の建物が建ち並んでいる風景が、横にとても広く伸びていることから、これまで通ってきた集落とは比べものにならない大都市だと判る。
(ビルとかもあるな……まあ、列車とか電化製品とかがあるんだから、あのぐらいあって当たり前だよな……でもそうなると、王様の城とかはどうなってるんだ?)
遠目から見えるその都市には、山のように目立って立つ、十数軒の高層の建物が見える。元の世界の超高層ビルとは比べものにならないが、それでもファンタジー世界としては異色な印象を受ける建築物であろう。
「おお~~! あれがパイパーか!? ようし俄然やる気が湧いてきた! さっさと行こうぜ!」
見えてきた街に、まだ結構遠いのに、ルガルガが上機嫌である。
「ルガルガ、あんた王都は初めてなの?」
「ああ。昔から行きてえとは思ってたけどよ。わざわざ金を出して遠出するのもめんどいから、別にいいや……て思ってたけどよ。でも着いてみると、少し興奮してきたぜ!」
「そう。じゃあ楽しみにしてなさい。まあ私は会いたくない奴が結構いて、あまり行きづらいけど……」
「そうばったり会ったりはしねえだろ? パイパーてのは、人が八十万はいるんだろ?」
「今は百万よ。無限魔出現以降、すこし増えてるのよ……」
そう言うハンゲツは、何故か苦笑いを浮かべていた。




