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第二十五話 初ダンジョン

 さて新たにルガルガを仲間に加え、一行が早速赴いたのは、ガルディス村付近の森の中である。

 森の中を伸びる、一本の石造りの道を、三人が武器を構えながら進む。ちなみにルガルガ抱えていたリュックは、春明がアイテムボックスに収納した。

 そこは街道よりもずっと、小さな道であるが、確かな人の行き来があった場所だ。だが今はここにいる三人しか、進む者はいない。


「本当にあそこに、あのガキの幽霊がいんのか?」

「さあな……。でもこの辺りに寺っていったら、こっちにしかないんだろ?」


 ゲームのシナリオでは、村を襲う幽霊は、寺の地下のダンジョンに隠れ潜んでいた。それに習って、彼らはここの寺への参道を進んでいたのだ。


「ああ、昔は普通にやってた寺だけどな、今は周りに化け物共が居着いちまって、もう長く誰もあそこに行ってねえ。坊主共も、今は村ん中にいて、仮寺で仕事してるぜ」


 言ってる側から、早速魔の卵が出現する。そして現れたのは、二頭の大猪である。二頭が参道で、彼らの前に立ち塞がる。そしてそのまま参道を走って、彼らに向かって突進した。

 それを真っ先に迎え撃ったのは、ルガルガである。彼女は村から盛ってきた鉞を構える。


「ふん!」


 横薙ぎに祓われた、豪快な鉞の一撃。その一撃が、二頭の内の前の方を走っていた大猪の頭部を、横から激突した。


 ザシュゥウウウウッ!


 斬る、というより、叩き割る、と言った形容が正しい手応え。大猪は頭部を右横から、かち割られて絶命する。血飛沫が花火のように飛び散り、更にその時の衝撃で、大猪の巨体が横側に倒れる。

 その転倒は、左横を走っていた大猪を巻き込んだ。横から倒れ込んできた仲間の死体の衝突に、その猪は突撃の威力を失い、身体のバランスを崩し、横側に仰け反って近くの木の幹に激突する。


「はぁっ!」


 そのバランスを崩して隙だらけになった大猪を、ルガルガは更に追撃する。振り下ろされた鉞の一撃が、もう一頭の大猪の頭を、上からかち割って絶命させた。これで勝利である。


「なあ……本当にこんなこと繰り返すだけで、強くなれるのか?」

「ああ、理屈上はそうなるはずだ」


 最初にフード女に言われたことを、ルガルガは少し気にしていた。それを春明は、あっさりと肯定する。ただし自分以外の者のレベルアップを、まだ一度も確認していないので、すこしはっきりしない答えであったが。

 彼らはこの道中で、結構な数の無限魔を倒している。道中には、いくつも無限魔の死体が転がっており、一行の姿も返り血で大分濡れている。三人の力の前には、この辺りの無限魔の力など、全く脅威ではない。

 だが武器による相性の違いはあった。先程のような大型の敵が現れたときは、鉞という重量武器を持つルガルガが、真っ先に出て始末していた。その方が手っ取り早いからだ。

 ちなみに今の彼らの経験値は……


《春明  経験値 33003/100000》

《ハンゲツ  経験値 14388/160000》

《ルガルガ  経験値 1403/32000》


(まだまだだな……もっと強いモンスターがいればな)


 以前の石の巨人の討伐で、結構な経験値が手に入ったが、レベルアップはまだ先になりそうだ。







 寺というと、日本人ならば仏教の宗教施設を思い浮かべるだろう。だがこのゲール王国は異なる。

 この国の主教は、先祖の霊を崇める『霊界教』という宗教である。特定の絶対的な存在を崇めるのではなく、霊界の住人全てを崇拝する宗教だ。

 そしてその霊界教の寺は、宗教的な行事や葬儀などを引き受けるほかに、霊界から死者を召喚する魔法儀式場でもある。

 春明達は森の中の参道を抜けて、この村の唯一の寺院に辿り着いた。


「これが寺か……」


そこはやはり日本の寺とはやはり異なっているようだった。

 広い庭園の奥に、寺院の本殿がある。三階建ての面積の広い、石製の建築物で、壁は白く塗られている。本殿の正面には、木製のドアでできた入り口がある。

 だが生憎、彼らにとって用があるのは、その建物ではない。この庭園の中にある、この寺の井戸である。彼らは庭園を歩き、本殿の右脇の方へと進む。寺院内にも魔の卵はいたが、それをあっさり蹴散らして行く。

 何年も手入れされていない庭園は、雑草が生えまくって、元がどんなところだったのか判りにくい。彼らはそんな荒れ地となった庭園を進み、目的地の井戸へと辿り着いた。

 その井戸は、日本にもよくある井戸屋形の中にあった。井戸そのものは四角いブロック製で、しっかりつるべも置いてある。しっかり釣瓶もある。

 その井戸は、上が木製の蓋で塞がれてしまっていた。ゲーム通りならば、この中に、幽霊が隠れ潜むダンジョンがあるはずだ。


「本当にこの中に、そんな洞窟あんのか?」

「あんた、ここは初めてじゃないんでしょ? 井戸の中とか、見たことないの?」

「ああ、ねえな。俺がチビだった頃から、ここが開いてるの見たことねえし。まあ水道がある今の時代じゃ、井戸なんて滅多に使わないしな」


 そう言ってルガルガは、その蓋を取り外し、今日初めてこの寺の井戸の中を覗き見た。そして穴の下を見下ろした全員が、大きく目を見開いた。


「何で井戸の中が、こんなに明るいの?」


 井戸の下には水は何も流れていなかった。建物の通路のような、石造りの床が敷き詰められているのが上から見える。

 ぱっと見た感じ、下には結構広い空間がありそうだ。そして何より謎なのが、その石床がはっきりくっきりと見えることだ。地下なのだから、下は暗がりになっていそうだが、その空間は実に明るい。


「この井戸なんか変だぞ? 何でこんな田舎寺に、こんな隠し通路があるんだよ?」


 この寺のことを子供の頃から知っているルガルガも、この井戸の様子には愕然としている。井戸の下に、こんな地下道があるだなんて、当然聞いたこともない話しだ。


「よし、下りるぞ」

「えっ!? 春明!?」


 あまりに怪しげな、井戸の下の様子を訝しげにする中、春明はごく当然のように、その謎の地下室へと下りていった。

 釣瓶のロープに掴み、するすると公園のアスレチックのように、地下へと下りていく。致し方なく、他の二人も一緒になって下りていった。

 ちなみに彼らが掴んだロープは、武装した人二人分の体重の負担があっても、ビクともしないぐらい頑丈にできていた。普通は古いロープは脆くなっていそうなものだが……






「何だよこれ? 地下鉄に入ったわけでもねえよな? 何かライトまでついているし」


 地下室はひろい地下道になっていた。幅十メートルぐらいと、高さ五メートルぐらいの、頑丈なコンクリート造りの通路だ。地下鉄道にも似ているが、線路はない。

 道の行き先は、片方は井戸の入り口から二十メートル先は、行き止まりになっている。もう片方はかなり長く伸びており、向こう側は分かれ道になっているようだ。

 そして遠くからフヨフヨと浮いている、魔の卵がいた。まだ標的範囲に入っていないのか、こちらに近寄ってくる気配はない。

 そしてその地下道の壁には、卵形の電灯が均等に設置され、それが発光して地下道内を明るくしている。


「何なんだこのライト? どっから電気きてる?」

「魔法でずっとついてるんじゃねえのか?」

「魔法だからって、いつまでついたりしねえだろ。誰かがエネルギーを供給しねえと……」

「そうなのか?」


 春明にとっては意外な話しだった。通常RPGで入ることになるダンジョンは、例えそこが、日が差さない洞窟などであっても、暗闇で見えなくなると言うことはなく、普通に進むことができた。

 勿論光る燭台のオブジェクトが設置されていたりと、暗くないことに理由付けがされている場合もある。だが何年も人が入っていない設定の、遺跡や洞窟にも、それらのオブジェクトは、構わず光って存在していた。


「というかここ……そんな古い地下室じゃないわね」


 一切の傷も汚れもない、新品同然の地下道の壁や床を見て、ハンゲツはそうコメントした。


「ゲームマスターってのが、わざわざ作ったっていうのか? 随分大掛かりなことするもんだな。……ふんっ!」


 ガスッ!


 何を思ったのか、ルガルガは鉞を振り、刃を壁に叩きつけた。鉞の刃が壁にめり込み、その地点から小さな亀裂が、周囲に蜘蛛の巣のように走る。


「頑丈だけど、壊せないほどでもないな……村から爆薬を少しくすねてくるか?」

「爆薬だぁ? 何に使うんだよ?」


 ルガルガの意図が判らず、春明がそう質問すると……


「何ってこのほら穴をぶっ壊すんだよ。敵はここにいるの確定なんだろ? だったらここちと一緒に、土に埋めちまえば、楽に片付くじゃん」


 何という素晴らしい発想だろう。ボスと戦う前に、ダンジョンそのものを爆破して、ダンジョンボスを生き埋めにしてしまう。確かに効率的に敵を倒す手段だ。ゲームだった頃は、決して考えられなかった手段である。


「いやいやいやっ! それは絶対に駄目だ!」

「何でだよ?」

「ずるだからだよ! ボスを倒してからダンジョンが崩れるのは、シチュエーションとしてはありだけど。倒す前にダンジョンを崩すのは絶対に駄目だ! それだと話しが無茶苦茶になっちまう!」

「はぁ~~~」


 必死になって破壊案を否定する春明。それにルガルガが、呆れて声を上げた。


「……ていうかさ。ゲームマスターだか何だか、そんなよく判らん奴のこんな茶番に、お前よく付き合う気になれるな?」

「えっ? え~~と、何でだろ? 楽しいからか?」

「はぁ? お前ふざけてんの?」

「いや、もしかしたら元の世界に帰れる手段が見つかるかも……」

「誰かがゲームをすると帰れるって、そう言ったのかい?」


 ルガルガの質問には、春明は返答に悩んだ。自分は何のために、この世界を旅することにしたのか? 旅の最後には何があるのか?

 実はその根本的な理由をはっきりさせていなかったのに、今更ながらに気がついたからだ。


「普通に世界を救うための旅でいいんじゃないの? あんたのいうゲームの設定通りだと、今この世界で起きているおかしな事の原因は……」

「ああ、そうだな。そうしよう! 俺たちは世界を救うために、旅をしてたんだ」

「うわぁ……適当だな、おい」


 ハンゲツの言葉に、春明が強く賛成し、ルガルガが再び呆れて息を吐いた。



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