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第十七話 列車

 やがてその駅が置かれている村の入り口にまで進む。まだ村の中には入っていないが、広い畑を突っ切っている街道から、当の線路が見えた。

 街道と同様に、畑の間を突っ切るように、土が盛り上げられた道のようなものがある。死角になって見えにくいが、恐らくあの細長い小山の上に線路があるのだろう。

 だが春明には、少し気になることがあった。


「あの線路、電線がないな」

「電線? 何言ってんの?」


 電線=正確には架線と呼ばれる物が、確かにその線路には張られていない。春明の言葉に。ハンゲツが不思議そうにそう答える。


「電車に電気を通る電線だよ。普通なら線路の上にあるんだけど……もしかしてこの世界の列車は石炭で動いてるのか?」

「よく分かんないわね。機械のことはよく知らないけどさ、確か列車は磁石の力で動いてるって、聞いたことがあるけど」

「マジかよ……」


 何とこの世界の列車は、リニアモーターカーだった。

 そういえば街道で出会った自動車も、煙など吹いていなかった気がする。この世界の機械技術は、想像以上であった。


 二人は村に入る。村の規模は、今朝まで拠点にしていた村よりも、一回り大きい気がする。立ち並ぶ建物も大きく、こちらも充分街と言っていい気がする。

 最も、入り口の看板には《ビンゲン村》と書かれていたが。駅以外には、これと言って特色のない街なので、真っ直ぐ駅まで行こうと思い足を進めたが。


「何か今日は随分と人が多いわね。それに何か騒がしいし」

「そうなのか? 俺はこっちの駅が、いつもどんな感じなのか知らんけど」


 この世界で初めて見る駅は、元の世界にもある、普通の地方の駅といった感じだった。石製の長くて大きな土台の上に、赤い片流れ屋根の駅舎が建っているのが、こちらから見える。

 そして確かに、その駅舎の方から、騒がしい声が聞こえてきた。駅舎の周囲にも、騒ぎを聞きつけたらしい人々が、集まってきている。


「おい、どういうことなんだよ? 今日は列車は来ないのか?」

「今日どころか、もう一生来ないんじゃないのか?」

「くそっ、誰がこんなこと! またリーム教国の嫌がらせか!?」


 駅舎の中には、列車に用があっただろう、随分沢山の人がいた。彼らには大きな荷物を背負ったり、台車に乗せている者がいた。

 そして交わされる会話は、どうも明るいものではない。駅舎に入って、その妙な様子を見て、ハンゲツが一人の客に問いかける。


「どうかしたのか? 何だか騒がしいんだけど……」

「ああ、今日は到着が随分遅いと思ったらよ、ついさっきとんでもないニュースが出たんだよ! この辺りの列車が、全部壊されたんだとよ!」






 この日のこの事件は、ゲール王国内で大きなニュースであった。それは被害の大きさもそうであるが、リーム教国との関わりの可能性が指摘されたことが、多くの人々の関心を生む。


 東方にある地域から、王都に向かって延びていた鉄道の列車が、突然全て機能停止に陥った。事が起きたのが判ったのは、どの列車も、一旦各駅に停まり、再発進しようとしたときに判明した。

 発進しようにも、何故か列車が全く動かない。調べてみると、列車の動力機関が、まるでアイスのようにドロドロに溶けていたのだ。

 何らかの魔法であると思われるが、その手段は全く不明。少なくとも自然現象ではないと考えられる。


 実はゲール王国で運用されている列車は、全て海の向こうの大陸の、赤森王国からの輸入人である。

 かつては国産の列車もあったが、それは赤森製に比べて、性能が悪く、コストも高い。そのため現在、国産列車は、一台も製造されていない。

 そして列車の数は、元々不足気味だったため、予備の列車などない。更に間の悪いことに、現在赤森王国とは、諸事情で交易が休止している。

 そのため、ゲール王国の一部地域の鉄道の運行が、完全に停止することになってしまった。世論では、これをリーム教国の破壊工作と言う声が多く、今後の国交関係に大きな影響が及ぼされることが考えられた。




 ビンゲン村の道の端で、春明とハンゲツが、さっき発売されたばかりの号外新聞を見ながら、何やら難しい顔をしていた。


「なあ、これって偶然だと思うか?」

「そう思いたいけど、残念ながら違う気がするわ。記事を見る限りじゃ、事件が起きたのは、私が列車に乗ろうって言いだして、すぐね。何が何でも、ゲームの筋書き通りにする気かしら?」


 現時点何も証拠は無い。だが二人は、心の中で、これはゲームマスターの仕業と確信していた。

 正体は判らないが、ゲームマスターはかなりの力の持ち主のようだ。今後、ゲームのシナリオに沿わない行動をしたら、またこのようなことをしでかす気なのだろうか?


「列車が無理となると、他の方法は街道をバスか、ジャイアントダックでの空路か……いえ、止めた方がいいわね」

「俺も賛成。次はバスが壊される気がするし」


 確信的な事は何も判らないが、ともかく機械技術による移動手段が絶たれた二人は、結局ゲーム通りに徒歩で王都に向かわざるをえなくなった。







 二人は街道の方に戻る。村には各方角に街道が延びており、更にその先に、分かれ道が幾つもある。地図や標識を見なければ、迷路のように迷いそうな地理である。


「歩きでの王都行きはここからよ。無限魔の縄張りのせいで、かなり遠回りになるけど」

「無限魔のいるところを避けていくのか?」

「それが常識でしょう? 言っとくけど、この辺りの無限魔は、あんたが狩りをしてた所より、ずっと強いわよ」


 それは願ったり叶ったりだ。恐らくより強いモンスターを倒せば、より多くの経験値を得られるはず。それもゲームと同じ仕様であったならの話しであるが。


「それでいいよ。無限魔を倒して、真っ直ぐ王都に行こう」

「はぁ?」


 当然のごとく、ハンゲツからはその判断を変に思われた。春明は構わず言葉を続ける。


「そういや途中にホタイン族の村ってあるか? あったらそっちに寄りたいんだけど……」

「あるっきゃあるけど、そこに何の用よ?」

「さあな。でもゲームじゃ、王都に行く途中で、そこに立ち寄ってイベントがあったんだよ」


 列車に乗っていたら、そのイベントに該当する事象に出会わなかった可能性があるが、どうせ歩くなら、そっちにも行った方がいいだろう?


「ふ~~ん、それでどこのホタインの村よ?」

「どこの?」

「ホタインの集落なんて、王都の途中にだって、結構いっぱいあんのよ? 何処でもいいわけ?」

「それは……何処でもいいんだろうか?」


 ゲームでは登場する集落が、一定に決められていた。主人公はゲームの道中で、様々な集落に立ち寄って、装備を整えたり、イベントをこなしたりする。

 その集落というのは、フィールドを進むと、必然的に訪れることになるものである。大概の場合、全く来る必要のない集落というのは、ゲームの仕様上、ほぼ存在しない。

 大きな城を作れる程の、巨大国家の領土のフィールドに、町村が数個しかないということもある。多くのゲームでは、それは自然なことで、特に変に思われることはなかった。


 だがここは現実の世界である。このゲール王国には、人口が数百万人とおり、大小数多くの集落がある。それらを全て廻れというのは、あまりにも酷な話しであろう。


 先程、春明が言ったホタインの村であるが。ゲームではホタイン族の村と言えば、フィールド上に一つしか用意されていなかった。

 だがこの世界では、ホタインの集落は、実に沢山あるのだ。それのいずれに行けば、件のイベントに遭遇できるのだろうか?


「適当でいいってわけ? 本当に大丈夫なのそれ? そのゲームに、村の名前とか出てなかった?」

「村の名前? そんなの……」


 何しろ何十時間もやりこんだゲームである。ゲームの初期の辺りで、用済みになった街フィールドの名前など、覚えているわけがない。その筈だったのだが……


「思い出した! ガルディス村だ!」

「ガルディス村ね。ちょっと待って」


 ハンゲツは早速、地図を取り出して、該当する村がないか調べ始める。元の世界のガイドブックのような、すこし厚みのある地図帳だ。

 その一方で、すぐにゲームでの村の名前を思いだした春明は、妙な違和感を覚えた。


(何か、あっさり思い出したな。ゲームやってたときは、キャラの名前すらよく忘れてたのに……。何か前の世界にいたときよりも、頭が冴えているような?)


 これもゲームキャラに転生した影響だろうか? 少し不思議に思っている中、ハンゲツが地図から頭を上げた。


「あったわ、ガルディスって村。確かにホタインの居住地もあるわ。でもちょっと困ったことになってるわね」

「何だ?」

「その村、今無限魔の活動区域に囲まれて、孤立状態になってるみたいね」



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