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第十三話 初レベルアップ

 少しして再び春明は、森の中へと入っていった。そしてまた魔の卵と接触する。今回現れたのは、三匹の大きなネズミであった。

 少し可愛い顔立ちの、ラットのようなネズミだが、その大きさはとんでもない。猪ぐらいの大きさがある。カピバラより大きいかもしれない。それに対し、春明の装備は弓。


(初めて見る奴だな。トカゲよりも図体が太くて頑丈そうだ)


 さっきの教訓からすれば、陸上動物型の無限魔相手には不利であろう。ここは無理してでも、弓で戦うのかと思ったら、そうではなかった。何と敵の姿を確認できたと同時に、春明は弓を投げ捨てた。

 敵の前で、得物を捨てるなど、どういうつもりなのかと思ったら、すぐに新しい得物を拾い上げた。実は春明は、この魔の卵と接触する前に、予めアイテムとして出しておいた刀を、自分に足下に置いておいたのだ。

 戦闘中に武器の出し入れができないのであれば、戦闘が始まる前に、予め武器を出してしまえばいい。

 彼は拾い上げた刀を、鞘から引き抜き、構えをとる。

 これでシステム上の、装備変更ができたのかは不明だ。だが武器屋の時のように、刀が手からすり抜けるということはなかった。

 そうこうしている内に、三匹のネズミ達が、一斉にこちらに向けて突っ込んできた。その速度は、あのトカゲたちよりも大分遅い。


「うりゃあっ!」


 春明は刀を振るい、襲い来るネズミ達を、すれ違い様に次々と斬り付けた。ネズミの皮と肉が裂けて、血が吹き出る。だが三匹目の動きは捉えきれず、そのネズミの体当たりが、春明の腹に炸裂した。

 腹に強い衝撃を受け、数歩分後退するものの、直ぐに突撃してネズミに斬撃を加える。だが攻撃を受けた直後で、動きが鈍ったのか、今回の攻撃は避けられてしまった。

 そんな中で、最初に斬り付けられた二匹が、四足で立ち上がり、春明に再突撃。一匹が春明の背中に体当たり。更にもう一匹が、怯んだ彼の肩に噛みついた。齧歯類の発達した前歯が、彼の肩の肉にめり込み、骨と神経を圧迫する。


 彼は自分に覆い被さるようにして噛みついたネズミの腹を蹴りつけた。それで噛みつく力が少し弱まった隙に、彼は刀を振るい、ネズミの横腹を斬り付ける。更にもう一撃を加えると、ネズミはようやく彼から離れた。

 ネズミの血まみれになった歯が、彼の肩の肉から、ズボッと抜ける。だがその直後に、別の一匹が、彼を横から体当たりで突き飛ばした。

 直ぐに体勢を立て直して、見てみると、ネズミ達はこちらの攻撃で傷つき流血はしているものの、その動きには大分余裕がある様子だ。どうやらトカゲと比べて、動きは鈍重だが、身体の頑丈さは上のようだ。


《春明 Lv20 HP 85/160 SP 60/60  TP 51/100》


(TPは結構溜まったが、今はリミットスキルは一つも覚えてないから、溜まっても無駄だな。しょうがない、地道に回復するか)


 そもそもゲームでも、攻撃と回復は、交互に行うのは当然だった。春明はネズミ達の攻撃を、必死に避けながら、気功治癒を唱える。

 頭の中で念じながら、敵の攻撃を見切り続けるのは、結構大変そうだが、ネズミの動きの鈍重さのおかげで、決して不可能ではなかった。

 彼の身体が気功の光で包まれ、傷が回復していく。最も彼の精神は、それ以上にすり減ったような感覚だが。そして回復が終えた後で、再び彼はネズミ達に刀を振るった。


 その後、苛烈な格闘を終え、ようやく春明はネズミ達を撃退した。周りの地面には、数カ所の深い切り傷を負った、ネズミの死体が三つ転がっている。出血も多く、死体の下には、赤い池が出来上がっていた。

 自分の血と、ネズミ達の血が混ざり合った赤い色で身体を塗らし、彼は少し疲れたように息を吐く。気功治癒の影響からか、肉体的な疲労はないが、精神的な疲労はあった。


《武器/名も無き打刀  身体/白い着物  装飾1/幸運の麒麟像  装飾2/   装飾3/   》


 自分のステータス上の装備を見てみると、装備武器がロングボウから刀に変化していた。やはり戦闘中に装備品の取り出しはできないが、予め置いておいた武器を拾って取り替えることは可能のようだ。

 これを確認して、彼は小さくガッツポーズを決めた。


《ちょっとずるくないか? このやり方?》


 横からそんな突っ込みのウィンドウが、表示されたが、彼は迷わず無視した。






 その後春明は、例の予め武器を置いておくやり方で、数回にわたってモンスターと戦闘を繰り返す。

 このエリアに出現するモンスターは、トカゲ・ネズミ・蜂・ジェリーの、全部四種類のようだ。彼は蜂と出現した時は弓を使い、トカゲとネズミが出たときは刀を使って、敵を倒す。ジェリーとも一回遭遇したが、その時は逃げた。幸いこの時は、一発で逃走が成功した。


 彼は万一の時を考えて、あまり村から離れず、魔の卵が出現する地域を行ったり来たりした。SPに不足を感じると、一旦村の近くに戻り、そこで腰を休ませた。

 やはり黙って休んでいるだけでも、SPは僅かずつだが回復した。アイテムボックスに入れておいた、弁当を食べると、SPの回復速度が、一時上がったりしている。どうやら食事でもSPは回復するらしい。


 そして話しに聞いたとおり、あの魔の卵は、どんなに倒しても、すぐにまた新しい個体が同じ場所に出現していた。本当にあれはどこから湧いてきたのだろうか?

 春明はまだ目撃していないが、あれは最初のが倒されてから、一分も経たない内に、空間転移と思われるもので突然現れるという。出現した無限魔を殺さず、生け捕りにしたエリアから隔離した場合でも、やはり再発生するらしい。

 これを見ると、死んだ無限魔が生き返ったという訳でもなさそうだ。


 それはともかく、彼は一回戦闘が終わる度に、小まめにセーブをし、自身の獲得経験値を確認していた。

 現時点の彼のレベルアップ取得に必要な経験値は1000と表示されていた。そして今の戦闘で、所得経験値が1000を越えようとしていた。襲い来る三匹の蜂を、春明は全て撃ち落とす。


 テレテテテーーーーン!


《春明のレベルが上がりました》


 何だか縁起の良さそうな効果音が鳴り、そういう文章のウィンドウ画面が表示されている。これはゲームの時と同じだ。

 異なるのは、その直後に、身体から力が沸き上がるような、妙な感覚が身体に走ったことだ。


(これは!? 力が上がった感覚なのか!?)


《春明 Lv21 HP 102/171 SP 22/64》

《可能装備  武器/刀・槍・弓   身体/和装・和鎧・プロテクター》

《武器/名も無き打刀  身体/白い着物  装飾1/幸運の麒麟像  装飾2/   装飾3/   》

《攻撃力 212  防御力 68  魔力 7  敏捷性 17 感覚 17》

《獲得経験値 8/1250》


 各ステータスが、魔力を除いて全て上昇している。上がった数値が少ないからか、まだ自分の力が上がったという実感は湧かないが、この数値を信用するなら、自分は確実にさっきよりも、少し強くなったはず。


(よしっ! この調子でどんどんレベルを上げれば!)


 自分は誰にも負けない、最強主人公になれるはず。自分が絶対的な力で、世界中の魔物を屠り、人々から畏怖される姿を想像し、彼は大きく己の未来に期待を膨らませた。


(でもその前に……まずは村に戻らなきゃ……)


 彼は自分の右胸と左足に刺さった、大きな釘のような棘を引き抜いた。実はさっきの戦闘で、巨大蜂の毒針を二発喰らったのである。

 しっかり毒の状態異常を受けたようで、自己状態のステータスに、しっかりと毒を表現する黒い髑髏マークが表示されていた。即効性の毒ではないのか、現時点身体に不調は感じられない。だが万一のことを考えて、今は戻った方がいいだろう。







(遅いわね~~。霊達の話しじゃ、もうあいつは森に入ったらしいのに……もしかして迷子かしら?)


 森の中のとある建物の中。その人物は相変わらず、人を待っていた。だが今日になっても来る気配はなく、彼女は困惑しながら、その建物の中を行ったり来たりしている。


(いっそ私の方から、迎えに行くか? ……いやそれじゃあ契約違反ね。もう一度霊達に、あいつを探させるか)


 その人物は、割り当てられたこの世界の役割を果たすために、ひたすら待っていた。だが聞いてた話と違って、一向に来ない待ち人に、大分苛立っている様子である。









 戦闘の後しばらく歩いたところ、彼の身体に確かな変化が出た。体中に軽い痺れが起き、呼吸が荒くなるなどの自覚症状が出てきたのだ。どうやらあの毒は神経毒だったらしい。


《春明 Lv21 HP 81/171 SP 22/64》


 自己状態を確認すると、確かにゲーム通り、HPが減っている。


(まいったな……これなら回復用のアイテムとか、買い込んでおけばよかった。いやそもそもこの世界にあるのか? ゲームみたいに飲んだだけで毒が治るような便利アイテム……)


 ともあれ毒持ちらしきモンスターの存在を知っていながら、春明は何の対策も考えなかった。トカゲにやられた時と同じく、また考え無しの行動で、危機に陥っている。今さら気づいても遅いが。


(ゲームだとこういうときは……HPが減る度に回復するしかないな)


 この世界での戦闘には慣れてきたが、状態異常を受けるのは今回が初めてである。最もゲームにもあった《出血》という、HP低下の状態異常もカウントされるなら、初めてという言い方はできないだろうが。

 《出血》の場合、回復技をかければ、HPと一緒に回復していた。だが《毒》の場合は、どうなるか? 


 それは戦闘が終わって、フィールド画面に切り替わっても継続していた。数歩動く度に、キャラクターがダメージを受けて、HPが減っていくのだ。

 ちなみに動かず、ずっと静止している場合は、ダメージは受けない。それは解毒アイテムや技を使ったり、宿屋に泊まるしない限り、永久に続く。

 現実に考えると、この毒の進行の仕方は、あまりに変な話しである。


 春明はまた気功治癒を使って回復し、減ったHPを補充する。すると身体の痺れや呼吸もまた、同時に回復した。自己状態を見てみると、まだ髑髏マークは消えたままだ。

 そして村の近くの森の、倒木に座り込んで、黙り込んだ。


(ゲームだと黙っていれば、ダメージを受けなかったけど……こっちの世界の場合はどうなんだろうな?)


 そう思って試してみることにした。その結果は……普通にダメージを受けていた。身体にさっきと同じような、痺れなどの自覚症状が再び現れていた。

 ちなみにSPは、平常時と違って、休憩しても回復していない。


(まあ、そうだよな。現実に考えれば、動かなくたって、毒は勝手に身体に廻るし……)



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