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第十二話 待ちぼうけボスと、空戦対策

 とある建物の中の、とある部屋。かつては金持ちが使っていただろう寝室だが、今はシーツを剝がされたベッドしかない寝室の中。

 掃除も碌にされていないであろう、埃のこもった不衛生な部屋にて、その人物がいた。


「どういうことかしら? もうあいつは村に来てるって聞いたけど……何で来ないわけ? こっちは凝ったトラップとかゴーストモンスターとか、色々用意してあげたのに……」


 大分夜が更けてきて、窓を見ると、空にはお月さんとお星様が、元気よく輝いている。その人物には待ち人がいた。だが一向に来る気配がない。村で買ってきた弁当を、口に含みながら、彼女はそう独り言を呟いている。


(いや考えてみれば、今日来たばかりだから、すぐにここまで来るわけないか……。じゃあ明日に備えて、仕切り直しね)


 その人物はそう考えて、予定を明日に繰り上げて、その寝室の固い床で一夜を過ごすことになった。







 翌日のこと、春明は再び村の近辺の森に来ていた。

 ゲームならこの後で「幽霊屋敷」のイベントがある。ゲームに準じて、そこに行く気はあったが、その前にレベル上げを兼ねた、戦いの練習である。


 今回は前回と装いが異なっていた。彼の腰には刀がなく、代わりに彼の腕には弓が握られている。彼の背丈と比べると、少し長めのロングボウである。

 時刻は昼に入り始める時間。彼は朝に村の中を見て回り、そして武器屋に入り、このロングボウを購入したのである。

 武器屋の中には、ロングソード等の西洋風の武器が多かったが、僅かだが日本刀もあった。彼はそういった物を無視して、真っ先に弓矢の棚に進んだのだ。

 なお、昨日店員の前でお金を召喚したら、変に驚かれた教訓から、お金を店の外で予め出しておいた。


(やっぱりな……弓なんて初めて握るのに、自然と矢の撃ち方が、頭の中に入ってくる)


 村の中で矢を撃つなんてことは出来なかったので、森の中で初めて矢を試し撃ちし、その効果を実践する。


 なおその武器屋で、色々と判ったことがある。まず武器を二つ同時に装備不可能であるということ。

 刀を腰に差した状態で、弓を手に持ち、試しに矢を撃つような構えをとってみた。すると突如、手に持った弓が、手から落ちた。弓はしっかり握っていたのに、何故か弓と手が、幽霊のようにすり抜けたのである。

 何度試みても、結果は全く同じ。試しに持っている刀を腰から取ってみる。それから弓をとって構えをとると、今度は普通に手に持って構えることができた。ウィンドウに表示される装備も、《武器 名もなきロングボウ》に変化していた。


 なお試しにゲームの設定では、春明には装備不可能だった武器を手に持っても、同じようなことが起きた。

 ロングソードを鞘に収まった状態で持つのは大丈夫だが、柄に手をかけて鞘から引き抜くと、やはり手からすり抜け落ちた。


 彼は森の中で、再びあの無限魔(こちらの世界では“魔の卵”と呼ばれている)の発生元であるシンボルと遭遇する。そしてこちらに接近してくる魔の卵に、昨日と違って逃げずに、こちらから向かっていた。


「出たな! 蜂め!」


 出現したのは、以前苦渋を味あわされた、あの巨大蜂である。今回出現したのは二匹。前よりも難易度は低いだろうし、何より今回は得物が違う。

 巨大蜂が森の中でホバリングし、腹先から毒針を発射した。彼はそれを数歩後退して回避する。前回の戦闘で、敵の攻撃の速さとテンポは大体判っている。そして敵が毒針を発射し、新たに針を生やすまでの間は、隙だらけであるということも。

 彼はその隙を狙って、弓を構え、弦を引く。


 前に武器屋で調べて判ったことはもう一つある。彼は弓から矢を撃つのに、矢を必要としなかった。

 どういうことかというと、弦から光の線のようなもの延び、それが弓の中央部にまで辿り着く。先端は鋭くなっており、後端には羽根のようなものがついている。特撮やアニメなどでよく見る、エネルギーの矢である。

 これを見て武器屋の店主は特に驚いていなかった。これは気功の矢と言って、この世界の気功士といわれる戦士達には、この技の使い手がよくいるらしい。

 ゲームでは、弓や銃でどんなに攻撃を加えても、決して矢切れ・弾切れということはなかった。何ともおかしな話しである。中には一度に数十の矢を放つという、明らかに手持ちの矢が足りなくなるスキルもあった。これはその設定に関して、実に都合のいい設定である。


 彼は矢を撃った。光の矢が素早く飛び、まるでビームのような光の線を描いて、森の空中を浮いている蜂へと飛んでいく。そしてそれは、見事巨大蜂に命中した。


 ドシュッ! ドサッ!


「えっ?」


 その結果に彼は少し驚いた。別に上手くいかなかったからではなく、その逆である。命中した光の矢は、巨大蜂の腹にグッサリと刺さった。

 光る矢の長さの半分が、巨大蜂の体内に埋まっている。後ろの腹からは、矢の先端が皮膚を突き抜けて飛び出し、蜂のはらわたと体液が後ろに飛び散る。見事な串刺し状態である。

 どうやらその一撃で死んでしまったようで、その蜂の羽音が止み、森の大地に墜落した。ピクピクと6本の足が痙攣しながら、その身体は動かない。

 もう一匹の巨大蜂は、仲間がやられても構わず、二発目の毒針を発射。春明はそれを、再度躱し、返し技的にまた一本の矢を射る。この一撃も、実にあっさりと命中し、その二匹目の巨大蜂を撃墜した。

 これでこの戦闘は、こちらの勝利で終わった。なお刺さった矢は、倒したから数秒ほどして、霧のように四散して消滅していた。


(何だ? あっけねえな。弓ってこんなに強かったのか?)


 それだったら地上の敵しか撃てない刀より、弓を装備した方が有用である。その後春明は、自分のステータスを見てみる


《春明 Lv20  HP 160/160  SP 58/60 》

(やっぱりSPが少し減ってるな)


 僅かだが身体から力が抜ける感覚があったため、調べてみたら案の定である。ゲームでは弓攻撃は、普通に物理攻撃に分類されていた。通常攻撃を行えば、普通にSPが回復する。

 だがこの世界では、それとは逆、僅かではあるが通常攻撃でSPが減っている。まあスキルに該当されていないとはいえ、あのエネルギーの矢を生み出して、こちらの消耗がゼロということはないだろうが。


(何だかこれも、無理矢理ゲームと同じ仕様にしたら、ゲームの戦闘設定と齟齬ができた……て感じだな)


 とりあえず勝利はしたので、次の獲物を探して、森の中へと出る。






 100メートルも歩かない内に、次の魔の卵と出くわした。それに正面からぶつかり、それを無限魔に変異させる。今回現れたのは、二匹のトカゲだった。


(今度はこいつらか。まあ一度倒した相手だし、大丈夫だろ)


 このトカゲたちは、既に昨日の道中で倒したことがある。彼らはすばしこく、攻撃を当てるのに難儀した。

 だが一発攻撃を当てれば、その上そこが急所に当たった場合、割とあっさりと倒せた。すばしこい代わりに、防御力は低いらしく、刀の一閃で、あっさり首を落とせた。


 三十メートルぐらい先にいるトカゲたちに、春明は弓を放つ。だが案の定、トカゲたちの機敏な動きで、その矢はかわされた。標的を外した矢が、後ろの方角にあった木の幹に突き刺さり、消滅する。

 トカゲたちはこちらから少し距離を取り、こちらの様子を窺っている。こちらの弓の向き、すなわち矢道の方角を測っているようだ。先程の巨大蜂のような、ホバリング中で攻撃直後の敵とは、やはり機敏性が違うようだ。


 彼は素早く手を動かし、矢を次々と発射して、トカゲたちを攻撃する。トカゲたちは左右ジグザグに動かしながら、どんどんこちらに接近してきた。

 そしてとうとう間合いにまで近づかれ、一匹が春明の腕に噛みついた。


(くそっ!)


 ただしトカゲが噛みついたのは、春明の着物の袖の方であった。春明はその一匹を思い切り蹴りつける。蹴られたトカゲが、数歩分吹き飛び、すぐに起き上がってまたこちらと距離を取る。

 もう一匹の方が、大口を向けて、春明の首目掛けて飛び込んできた。春明は素早く横に動いて、その攻撃を避ける。飛び込んだトカゲが、春明の後ろの方に飛び、数メートル先の地面に転げ落ちる。


(よし、いける!)


 春明は急な回避運動で、身体のバランスを崩し、彼は尻餅をつくような姿勢で、地面に倒れる。

 だがこの姿勢なら、弓を引くことは可能だ。素早く弦を引き、さっき蹴りつけたトカゲに向かって撃つ。


 ドスッ!


 矢はトカゲの短い前足の間=人間でいう胸の辺りに刺さった。ここを貫通させれば、トカゲは確実に死ぬだろう。

 だがトカゲは死ななかった。トカゲは怯み、一瞬倒れそうになるが、すぐに踏ん張り直して、こちらに向き直った。


(えっ? あんま刺さってない!?)


 春明の矢は、刺さるは刺さったが、その深さはかなり浅かった。確かにトカゲの皮膚を貫いたが、体内に潜った矢の長さは、せいぜい数センチといったところだろう。これでは心臓まで届かない。

 矢は自身の重さで、ポトリとトカゲの身体から落ちて消滅する。トカゲの胸から血が流れ出ているが、この程度の手傷で戦闘不能にはならない。


(何でだ!? さっきの蜂は、串刺しにしたのに!?)


 考えている余裕はない。態勢を立て直した二匹が、同時に春明に飛びかかろうとしている。尻餅をついた状態を春明では、受け止める余裕はない。

 矢を撃てば一匹は撃ち落とせるだろうが、もう一匹の攻撃は防げない。彼は身体を倒し、その場で地面を横に転がる。彼の座っていた地面に、二匹のトカゲが激突する。

 頭に地面にぶつかり、二匹の身体が横にぶつかり合う。その衝撃からか、トカゲたちの身体が少しの間だけ鈍くなった。


(刀だ! 武器を取り替えよう!)


 彼はすぐにコマンドから、《アイテム》を選択する。だがそこに表示されたものに、彼は驚愕した。コマンドから選択したアイテム覧には、何もない空白の欄が広がっていただけなのだ。そこには刀も、あの黒いブーツもない。

(そういや戦闘中に使えるのは、回復アイテムだけだったっけ?)


 それを見て、彼はそんなゲームの仕様を思い出した。ちなみに現時点、彼の手持ちに回復アイテムはない。

 そうこうしている内に、二匹が顔を持ち上げて、今にも飛びかからんと、こちらを睨み付けた。


 彼は素早くウィンドウを開く。二匹が地面を蹴ったと同時に、彼はコマンドの《逃げる》を押す。今回は逃走に成功した。二匹の口が、春明の頭を鷲づかみしようという寸前のタイミングで、二匹は元の魔の卵に戻った。

 彼はすぐに立ち上がり、魔の卵が静止中に、そこから離れた。そして村のあった方向に戻る。途中でさっき倒した魔の卵(もう復活していた)とも遭遇したが、どうにか撒いて、無限魔の活動圏外にまで移動した。


(どうなってんだ?)


 畑の近くの地面に座り込んで、彼は自分のステータスを見てみた。


《武器/名も無きロングボウ  身体/白い着物  装飾1/   装飾2/   装飾3/   》

《攻撃力 98  防御力 64  魔力 7  敏捷性 16 感覚 16》


 何と刀を装備したときと比べて、攻撃力が半分にまで減っている。勿論素手の時よりは強いが、これが現在装備中のロングボウの性能ということのようだ。

 これでは刀で戦ったときと違って、一撃で敵を倒せないのも当然である。まあ遠距離攻撃が、近距離攻撃以上の威力があったら、剣や斧などの武器の存在意義が無くなるが。


(でもさっきの蜂は、一発で倒せたんだよな。何でだ?)


 そこで彼は、あることに思い至る。飛べる存在というのは、飛べない者より、耐久度が低い場合が多い。


 鳥は身体を軽量化させるために、骨の中が空洞になっている。戦闘機は高速で飛ぶための軽量化で、兵器でありながら装甲というものが一切取り付けられていない。そのため、脆くて破壊されやすい。

 あの巨大蜂達が、羽根の推進力だけか、それとも重力操作でもしてるのか、どういう理屈であの大きな身体を飛ばしているのか不明だ。

 だが少なくとも、あのトカゲよりも体重は軽くなっており、身体の耐久度も低くなっていたのだろう。


(これではっきり判ったな。弓は飛べる敵には有利だが、飛ばない敵には威力不足って事だな。でもそれだと、どの装備でいけばいいんだ?)


 魔の卵から出現するモンスターはランダムで、予め敵の種類を予測することは不可能だ。近距離にまで迫れるまで、敵への対処法が判らないというのは、結構な難題である。


(戦闘中に、装備を変えられればいいんだけどな)


 だがそれは不可能であることは、さっきの戦闘で実証済みだ。戦闘中に装備アイテムは召喚できない。常時と戦闘中とでは、表示されるウィンドウも異なっているようだ。


(あっ、そうだ!)


 春明はそこで、ある方法を思いつき、アイテム覧から、最初に装備していた刀を取りだした。



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