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最終話

 ゲール王国ガルディス村。かつて春明達が訪れた、ルガルガの故郷である。この村では今日、ある重大な決定が、村役場で取り決められようとしていた。


「それでどうするんだ! この村を捨てるのか!?」

「むう……」


 役場の中の会議室で、村の年寄り達が、村長に向かって決断を迫っていた。

 この村は四方を無限魔活動地域に挟まれており、外界との繋がり大幅に制限されていた。狩猟した無限魔の肉のおかげで、食糧はどうにかなっているが、それ以外の物資が慢性的に不足している。

 更に数ヶ月前に起きた、人間の女性の腕が発見された、殺人(?)事件の一端のせいで、更に村の風評が悪くなった。そのため以前にもまして、村を出る者が増え始めている。


「もうこの村を維持するのも限界です! 村民の半数が賛同しています!」

「だがまだ半数は反対してるんだぞ!」

「どのみちこれ以上村に立て籠もっても、干上がるだけだ! 移民共がいなくなったおかげで、避難所にも空きができたって聞くぞ! ここはいっそ、村を出て政府の援助を受けるべきだ!」


 もうこれまで何度も繰り返された討議を、また行い始める年寄り達。彼らを見ながら、村長は重々しく口を開く。


「そうだな……しかたがないか。今より村を……」

「大変だ~~~」


 決断を口にしようとした瞬間、役場の会議室に、村の娘が大慌てで飛び込んできた。突然会議に割り込んだ上に、その切羽詰まった様子に、年寄り達も何事かと動揺する。


「いったいどうしたと言うんだ!?」

「卵が、卵が……」

「落ち着きなさい! 養鶏場に何かあったのか!?」

「村の周りの魔の卵が、全部消えてるんです! 狩りに出かけた奴らが、急に卵が消え始めたって!」


 この日、ガルディス村だけでなく、世界中にその大きな変異が起こり始めた。






 ゲール王国の国中のテレビやラジオで、ここ数年内で、一番のトップニュースが伝えられた。それは以前の、パトリック・リームの逮捕事件よりも、遥かに大きな衝撃を人々に伝えた。


『番組の途中ですが、緊急の放送です! 今日午前十一時より、国内各地より、無限魔発生地域で、驚きの報告がされました! 発生地域の魔の卵が突如消失したとのことです! まだ未確認ですが、他国でも同じ事が起きているという情報もあり、以前赤森王国が公表した、太古のゲームが完了したのではと……たった今、こちらに映像が届きました! 〇〇地区の監視カメラからの映像です!』


 テレビの画像が、一転して、どこかの町の入り口付近の風景に移る。そこにはかつて農地だった場所に、大量の魔の卵が徘徊している場面が移される。

 だが映像開始から数秒後、突如それらの魔の卵が、弾け飛んでいった。これは魔の卵が無限魔に変異する現象と同じだ。

 だが今回はいつもと異なり、弾けた後、魔の卵は完全消滅し、後には何も出現しないのだ。花火のように一瞬で砕け散り、一瞬でそこに動くものがなくなった。

 今までおぞましい者達が彷徨いていたのが、嘘のように静かな農地の光景が映し出されている。


「マジか!? あのレグンが成功したのか!?」

「やりぃっ! さすがは赤森が指名した勇者だ! やるじゃないか!」

「これで村に帰れるわ! 良かった……」

「ああっ、これで仮設住宅ともおさらばだ!」

「……でもこれで……肉と霊素材がまた値上がりするな……どうしよう?」


 国中で多くの人々が歓喜した。だが一部で落胆する者達もいる。

 これまでに無限魔から採集できる、肉や霊素材の利益も相当なもので、それで生活が出来ていた者も大勢いるのだ。

 無限魔が全ていなくなったとすれば、また様々な国内問題が発生することも懸念される事態であった。






 ゲール王国王宮内にて、リームとの国交回復の任も請け負っていた、レック王子の執務室に、ドーラが一連の事態の報告に上がる。


「つい先程、元リーム教国に駐留している部隊から報告が上がりました。やはりリームでも、各地に徘徊していた魔の卵が、一斉に消滅したとのことです。この事態で、憲兵の制止も聞かずに、発生地域や元に住んでいた集落に駆け込む住人が出てきて、かなりの騒ぎになっているようです。そして……」


 ドーラの細かく語られる報告に、レックはホッと安堵の息を漏らす。


「どうやら春明達が成功したようだな……。まあ朗報ではあるが、ここからが大変だ。放置されていた農地の整備に、霊素材の流通法も変えなければいかんし……」

「それなんですが殿下……」


 安堵と共に、これからの課題に関して、気を引き締め始めるレック。そんな彼にドーラが困惑しながら最後の報告をする。


「どうも……全ての地区で、魔の卵が消えたわけではないようです」

「何っ?」






 春明達は、以前にも来た、赤森王国の王城に戻ってきた。行きは船と徒歩で、何日もかかった道のり。だが帰りの道は一瞬であった。

 どうやったのかというと、転移魔法であっさりと帰ってきたのである。あれから数時間後、皆の体力も回復したところで、翔子が迎えに来てくれた。しかも一瞬で。

 空間に穴が開いたと思ったら、そこはこの赤森城内に通じていたのだ。行きは数日、帰りの数秒という、実にあっさりと終わった旅であった。


「ゲームクリアおめでとう! Thank you for planning! お前達のおかげで世界は救われたぜ!」


 赤森城のあの広間で、鷹丸と翔子が、大喜びで彼らを迎え入れる。


「ああ、そうだな。ラスボスが魔王じゃなくて、あんたの部下になってたけど……」

「あれは悪かったよ……俺もすっかりゲームを舐めきって、他の奴らの事なんて、碌に考えてなかったからな……。まあ結果として、上手くいってよかったぜ。まさかあの幸運の像を差し出すとはな」

「あれを差し出すことが、そんなに凄いことなのか?」

「まあ、人によってはな。翔子なんか、お前があそこまでゲームを熱心にやってくれたのを、すげえ喜んでたし」


 話を振られた隣の翔子が、何やら恥ずかしそうに目を反らしていた。


「これから国中に公式にこのことを伝えるぜ! お前らの為に、しばらくの間、国中で大喝采の感謝パレードを開いてやる! 楽しみに待ってろよ!」


 全て上手くいったと、大喜びの鷹丸。だが国中でという言葉に、春明の心情が、僅かに曇る。


「本当にこの国の奴ら、このことを喜んでるのか? 英雄として壇上に上がって、皆から恨み言言われるのごめんだぞ……」

「ええ……無限魔の素材は、この国にとって、大事な資源だったはずよね? 他の国ならともかく、赤森王国の場合は大損じゃないかしら?」

「私もちょっと素直に喜べないわね。この国の凄い文明に憧れてたから……これから干上がるかも知れないと思うと……」


 ガストンがこちらを妨害する動機となった件を考えると、少々全てがハッピーエンドとは行かないと、一行はやや結果に不満な感情を持っていたが……


「ああ~~そうだな。俺もその辺のこと、あまり深く考えてなかったからな」

「ちゃんと考えろよ。一応この国の王だろうが……」


 まるで他人事のような口ぶりの鷹丸に、春明達は呆れかえる。


「ああ~~それは大丈夫だ。無限魔の資源はこれからもなくならないから。別に全ての無限魔が消えたわけじゃないし」


 だがその次の爆弾発言に、一行の表情は唖然に一転した。


「そりゃどういう意味だよ? 魔王を倒して、世界から魔物がいなくなって、ハッピーエンドだろ?」

「そうだな……その魔物を消す力の源が、あの虹光石だったんだが……どうやら出力が後一歩足りなかったみたいだな」

「一個が幸運像だったからか?」

「まだ確定はできないが、多分そうだ」


 やはりあの幸運像では、完全な封印はできなかったらしい。これでは魔王討伐によるハッピーエンドがなっていない。ゲームクリアが成功したとに喜んでいた一行も、これでは立つ瀬がない。


「まあでもそれで充分なんじゃないか? 発生地域は前から8割ぐらい減ったし、おかげで無くなった土地も、大部分取り戻したし……」

「でもまだ2割が残ってるでしょうが……」


 無限魔の発生地域は、世界の土地面積の30%を埋めてしまった。それから8割減らしても、まだ6%も残っている。

 数字から見れば少ないが、世界全体の人が住んでいる面積を考えると、かなり広大な土地が、未だに占拠されたままである。


「まあ、たしかにそこは人が近づかないよう、ちゃんと管理するしかないな。これができるか、各国の手腕に任せるしかないな。まあおかげで霊素材の狩り場が残ったわけだし、これでハッピーエンドで良いんじゃないか?」

「そんな適当な……誤作動で活動地域から出る奴がいたらどうすんのよ……」

「おい、翔子! お前はそれでいいと思ってるのか!?」


 また急に話を振られた翔子。だが今回は、俯いたりせず、はっきりと口にした。


「全く思ってないわ! ハンゲツさんが言うとおり、何百年も前のシステムが、いつ誤作動するかも判らないし。今はまだ無理だけど……でもいずれは再封印できるよう、色々準備と研究をするつもりだよ!」

「大丈夫だと思うんだけどな……まあいいけど」


 真剣に語る翔子と違って、鷹丸は未だに楽観的な様子だ。この男は、最初から最後まで、無限魔に関して、他人事のような態度であった。


「さてじゃあ早速これから、テレビにこのことを公表するぞ! 勿論お前らも一緒にだ! お前達が一番の功労者なんだから! 国民が挨拶の一つぐらいしような!」

「まあ、そうだな……」

「そういや全部終わった後、どうするか、あの時まだ決めてなかったな。それで何か決まったか? まあ祭りが終わった後でも良いけど、こっちも何か支払うなら、早めに準備したいしな」

「そうだな……それじゃあまず最初に……俺のゲームに今まで付き合ってくれた、こいつらの願いを叶えて欲しい」


 春明は周りにいる仲間達に目を向ける。彼らは一時目を丸くしていたが、少しして、皆軽く笑い出した。


「何を今更……その話は前にもしたじゃないの。私はあんたについてくわよ」

「付き合ってくれたって……まるでこっちが付き合わされた見たいに言わないでください! 私は自分から春明さんについていったんですよ!」


 彼は皆そう言って、頷いた。それに鷹丸もまた、軽く笑い始めた。


「はっはっはっ……良い仲間だ! すっかりモテモテだな!」

「そうさせたお前が言うなよな……」


 春明は呆れながらも、満更でもない様子であった。こうしてゲームから始まった彼らの旅は、ゲームにて終わった。



 その後、赤森国内では数日間にわたって、救世界のパレードが盛大に行われることになる。それが終わった後、相変わらず春明は、刺激を求めて世界中で無限魔狩りを行う。

 ただしそれは永久ではなく、仲間のこの世界に残った用が終わるまでである。未成年であったルガルガとナルカが、一度国に戻って、学校に復学した。学校がなかったナルカの村も、赤森の援助で、わざわざ新たに学校を建設したという。こ

 の話を聞いて、国中から入学希望者が、その村に押し寄せたという。

 彼らが卒業後し、春明達の元に戻ったとき、彼らがどこに行くのか……それはまだ判らないが、今後も新たなゲームを求め続けるのかも知れない。


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