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第百四話 ゲームクリア

『ちょっと春明さん! 皆無事!?』


 唐突にどこからかそんな声が聞こえてきた。見ると春明の目の前に、ウィンドウ画面が勝手に開かれている。

 そこには慌てた様子の、翔子の顔が映っていた。あの競技場の時と同じ、立体映像のテレビ電話である。


「ああ、大丈夫だ! 他の奴らも、向こうにいる」


 見ると、遠くに退避していた仲間達が、こっちに向かってきていた。


『そう良かった……魔王城に入ってきてから、急に春明さん達の映像が、こっちに届かなかったから、どうしたのかと思って、そっちに駆けつけようとも思ったけど……でもゲームに割り込んだら、何が起こるか判らないし……』


 どうやらガストンは、あの時空結界と同時に、赤森側の監視を妨害する工作もしていたようだ。ガストンを倒したからかは不明だが、それがたった今解かれたらしい。


「まあ、色々あってな。元々俺たちは不死身なんだから、そんな心配することもないだろ?」

『まあ、確かにそうだけど……でも場合によっては不死だからこそ酷い目にあうこともあるんだよ。……それで結局何があったの?』


 ここで春明は、画面の向こうの翔子に、魔王城に入った後の事を、包み隠さず説明した。





『そうだったの……。ガストンさんは無限魔の採集に意欲的だったけど……そんなことをするなんて……。ごめんなさい、これは私達のミスだわ』

「ああ、そうだな。それで俺たちはどうすればいい? 魔王城と麒麟像は、あんな感じだけど?」


 春明が見渡すのは、全てが消滅した、クレーターのど真ん中。もはやあの荘厳な城の姿は、影も形もない。春明がブレスでここら一帯を吹き飛ばしたためだ。


『大丈夫だよ。魔王城はあくまでイベントの土台。システムは動き続けるよ。そこに麒麟像を収める台座が浮いてない?』

「ああ、あるよ。それは判ってるんだが、麒麟像がな……」

『えっ?』


 春明が視線を向けると、クレーターのある地点に、宙に浮いている三つの光の球。魔王を倒したときに現れた、あの麒麟像を収めるための、光の台座である。

 実は話をしている間に、この光球が再出現していたのに、一行は気づいていた。だがその光球の一つを見て、彼らは唖然としていたのだ。


『出てきてるけど、何か問題でも……あっ!』


 翔子もその光球の一つを見て、事態に気づいたようだ。その光球の一つに、虹色に輝く、小石のような物体が、無数に浮いているのだ。

 球体の内部で虹色に輝くそれらは、小さなプラネタリウムの星々のよう。見るとその小石の中には、生き物の手足や、角の形をした、象形物の欠片のような形をしたものもある。


 実はガストン達と戦闘に入る前に、彼らは麒麟像を一個、光球に捧げていた。そしてそれを放置したまま、一行は戦闘に入ったのである。

 この欠片は、状況的に考えて……その麒麟像の砕けた破片に違いなかった。


『麒麟像……壊れちゃったの?』


 翔子が愕然として、そう口にしたときに、その場の空気が一気に重くなった。

 戦闘の最中に赤森兵が破壊したのか、変身した春明の攻撃が原因なのか、どちらも定かではない。

 だが言えるのは、世界を救う希望であった鍵の一つが、見事に粉砕されてしまったということである。


「もしかして……俺たちはゲーム失敗か?」

『そっ、それはまだ判らないよ! 一応虹光石は、台座の中にあるんだし! 出力が足りるかどうか分かんないけど……。とりあえず、他の三つに残りの像を入れてちょうだい!』


 どうやら麒麟像は、形が崩れても、ある程度力を発揮できるらしい。春明達は言われるがままに、残り三つの麒麟像を、三つの光球の中に収めていく。

 最初と同様に、麒麟像は光球内部で浮き上がり、輝き始める。イベント通りなら、ここで無限魔の封印システムが発動するはずだが……


「……何も起きないね?」


 それから数分経過しても、何も起きる気配はない。三つの麒麟像と、麒麟像の欠片は、未だに光球の中で光り輝いているままだ。


『あああっ、どっ、どうしよう!? 今から新しい虹光石を作っても間に合わないし! もう世界中に、封印するって宣言しちゃったし! ……こうなったら、またゲドさんに頭を下げて……』


 どうやら駄目だったようだ。幾ら強大な虹光石でも、あれほど形が崩れては、封印に必要なエネルギーは発揮できない模様。


「そんな……折角ここまでやってきたのに……」

「俺は別に無限魔はいてもいいけど……これは何かな……腑に落ちねえな」

「結局ガストン達の思惑通りか? まあ、こっちの責任でなければ別にいいが……何となく気に入らないな」


 結局ゲームは失敗、無限魔封印ならずかと、皆が落胆し始めたとき……春明がふと、あることを思いついた。春明は砕けた麒麟像が浮いている光球に歩き始める。


「……春明?」

「なあ、翔子よ。これで代用できないか?」

『それはっ!?』


 春明が取りだしたのは、さっきまで自分の首にかけていた幸運の麒麟像であった。

 春明が初めてこの世界に来たときに、最初にアイテム欄に所持していた装備アイテム。

 元々の世界のゲームで、何十時間もパソコンの前に座り続け、苦心の末に手に入れた、超級レア装備アイテム。

 入手難易度の割に、効果は経験値倍増という、微妙な効果だった、彼にとって少々苦い思い出あるアイテム。

 それを彼が光球に向かって取りだしたのである。


「最初から思ってたけど、これって封印の麒麟像と似てるよな。もしかしてこれも、虹光石でできてたりするのか?」

『えっ、ええ。確かにそれは虹光石よ。虹光人とその眷属の力の成長を、促進させる効果があって……』

「それじゃあ、これで封印の麒麟像の代わりにならないか?」

『ええっ!?』


 その言葉に、翔子が驚愕する。確かにそれは、封印の麒麟像を小さくしたような代物で、同じ虹光石で出来ているというなら、素人的に考えて、もしかしたら代わりになるか?と思うのも不思議ではない。


『代用って……でもそれは春明さんが……』

「いいから、できるのかよ?」

『判らないわ……でも可能性はあるかも?』


 翔子の言葉に、今まで沈んでいた面々も、一気に希望が戻ってきた。


「マジか!? よし、それじゃあさっさとやろうぜ!」

「まさかそれが、こんな役目を持つなんてね……」

「やりましょう春明さん! ダメ元でも良いですから、それを入れましょう!」

「何てことないと思ったら、超重要アイテムだったか……ゲームというより、アニメにありそうな展開だな」


 皆が乗り気で、幸運の麒麟像を、光球に入れるよう言ってきた。だが何故か、翔子は浮かない顔であった。

 春明が早速と、その破片が浮いている光球に、幸運の麒麟像(=以降紛らわしいので幸運像と記述)を手に持ち、突っ込もうとするが……


『ちょっと待って!』


 何故か翔子が、大慌てでそれを制止に入った。


「何だよいったい?」

『いったいって……春明さんは本当に良いの? 捧げちゃったら、それは封印のために、火山に飛んで行っちゃうよ。それ手に入れるのに、あんなに頑張ったじゃない……』

「はぁっ?」


 翔子の言葉に、春明は意図が判らず不思議そうだ。


「頑張ったって……只のゲームでの話しだろ? 只のパソコンのデータ。こっちの世界の実物は、お前らが用意したもんじゃないか?」

『まあ、そうなんだけど……でも……』

「なんかパッとしないな……はっきり言えよ」

『私結構嬉しかったから……私が作ったあのゲームを、あんな一生懸命プレイしてくれて……だからそれも一生懸命作ったし……』

「ああ……うん、そうか……」


 何となく春明は、翔子の言いたいことを理解した。あの鶏忍者というゲームは、ネット上ではお世辞でも、評価が高いとは言えないゲームであった。

 基本的に無料であるため、少しでも飽きられると、途中であっさりとデータをゴミ箱に入れられるのが、フリーゲームの宿命である。

 正直あのゲームを、最後までプレイしてクリアしたのが、どれほどの人数いたのだろうか? ましてやあの超難易度アイテムを手に入れるまでやりこんだのは、もしかしたら自分だけだったのかも知れない。


「まあ、確かに……こいつはあのゲームを完全制覇した証ではあるな。でもそれでいいんじゃないのか? ただの記念品じゃなくて、この世界を救った鍵になったんだからな。これはこれで、あのゲームをやりこんだ甲斐があったんだし」

『そういうものなの?』

「ああ、正直こいつを手に入れたときに、俺はかなりガッカリしたもんだ。今までのプレイ時間は何の意味があったのかってな……。でもそれが無意味でなくなったんだ。逆に今まで懸命にプレイしたことに、すごい意味が出来て、ゲーマーとしてもこれほど嬉しいこともねえし。あのゲームを作ってくれたお前にも、すごい感謝してるぜ」

『そう……うん、判った』


 翔子もゆっくりと頷いた。春明も満足したような清々しい顔で、自身の手にある幸運像を、感慨深くしばらく見た後……とうとうそれを、光球の中に射し込んだ。


 パンパカパ~~ン!


『おめでとうございます! ついに魔物の封印を成し遂げました!』


 またもや安っぽい祝福音と共に、そんな文面が書かれたウィンドウが表示された。それと同時に、捧げられた四つの像が、今まで以上にとりわけ強く輝きだした。



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