第百二話 対鉄鬼戦2
今回、作中で日本刀賛美な台詞があります。気に入らないと思われる方も、どうかスルーしてください。
春明達が赤森兵達と交戦している中、ジュエルとガストンの戦闘も熾烈を極めていた。
ガストンの日本刀型の武器が、凄まじい瞬足で次々と繰り出される。ジュエルはそれをロングソードと盾で防護し、隙をついては、刃に雷属性を宿したロングソードを振りかざして、斬りかかる。
ジュエルの一閃をガストンが弾き返し、刀を振ると同時に、足が繰り出される。その一撃が、ジュエルの腹に命中。防御力重視のスペックを持つジュエルは、それだけで大ダメージにはならないが、先程から何発も攻撃を受けて、春明同様に確実にHPを削られていく。
「さすがは元リームの精鋭騎士。パワースペックだけでなく、純粋な剣技も中々のものだな……」
「それは嫌みか? こっちはまだ二太刀しか、そっちに入れてないんだが……」
「別に嫌みのつもりはないさ。むしろ羨ましいぐらいだ。俺たちはこの鉄鬼の力がなければ、上位無限魔すら倒せないからな」
「貰い物の力であることは、誰だって同じことだ!」
ジュエルがシールドアタックを繰り出す。飛んでくる光の盾を、ガストンが真っ二つに両断した直後に、ジュエルがロングソードで刺突を繰り出した。
キィイイイン!
だがその攻撃が届くことはなかった。ガストンが刀の刃を横薙ぎにし、来る出される剣の腹を叩きつける。それによって軌道を外れた剣先は、ガストンの頭の右側を通り抜ける。
その拍子に、ジュエルはガストンに無駄に近づきすぎた。
ザキン!
横薙ぎに刀の刃が、即座に刃の方向を変えて、滑り込むようにして即座に二撃目を放つ。
ガストンがジュエルの横側を通り抜けて、その駆け込みと同時に動く刃が、ジュエルの腹を斬り付けた。
「うぐっ!」
斬り付けられた重厚な鎧に大きな傷がつき、剣撃の衝撃が鎧の下を通って、ジュエルの身体に響き渡る。実に格好良い体勢で斬り伏せたガストンが、すれ違って数歩進んだあとに口ずさむ。
「総合パワースペックは、この鋼鯱同様。自前の剣技も、全く問題ない。だが武器の差があったな。お前の剣と盾の装備は、守り役ではなく一対一の戦いでは、世界最高性能の赤森刀には、機敏さも切断力にも全く勝てんさ」
武器の性能差を誇示するガストン。ジュエルとガストンの一騎打ちは、明らかにジュエルが劣勢であった。
「大地震!」
ルガルガが鉞の刃に、凄まじい気功の光を放ちながら、床に鉞を振り下ろして、刃を叩きつける。
ズゴォオオオオオォ!
その一撃が魔王城全体を揺らし、常人なら一発で粉々になるほどの、強力な衝撃波が、この地帯一帯の床に、拡散・解放された。
「「ぬぁあああああっ!?」」
足下に凄まじい衝撃が走り、赤森兵達がバランスを崩して倒れ込む。面白いことに、その地面から伝わる衝撃波にやられたのは、敵の赤森兵達だけであり、どういう原理なのか控え含めた味方には、全く影響がなかった。
敵全体にダメージを与える上に、状態異常のスタンを付加する、ルガルガのリミットスキル“大地震”である。
その衝撃で少なくないダメージを受けた上に、一時行動不能になった赤森兵達。この隙を逃す手はなかった。
「おりゃぁああああっ!」
春明の大一撃二式。浩一の分身斬り。二人の強力なリミットスキルが発動した。大一撃は、ゲームでは単体攻撃であったが、この世界では力に余力が残っていれば、何人でも斬ることができる。
春明の気功迸る斬撃が、次々と赤森兵達を斬り捨てていく。首を斬られる者、胴体を裂かれる者と、致死に至るダメージを受けて、赤森兵達が血飛沫を上げながら何人も倒れていった。
相手が不死と判っているとは言え、この世界で初めて春明が、人を殺した瞬間であった。
浩一の分身斬りも圧倒的な威力を発動させた。何人も分身した浩一が、倒れたり膝をついたりしている赤森兵達の首を、次々と撥ね飛ばしてく。
パワー切れでスキルが停止した時には、何十人もの赤森兵達が死亡・戦闘不能となり、倒れていった。
だが損失を受けたのは、敵だけではなかった。いち早く体勢を立て直した赤森兵達が、次々と立ち上がり攻撃に転じる。彼らは一斉に一人を狙った。今し方自分たち全員に深刻な隙を与えたルガルガにである。
大技を放ったあとで、動きが鈍っていたルガルガは、彼らの攻撃を読み切れなかった。同じく春明達も大技発動直後で、救援に行くのが遅れた。
赤森兵達の、ベルトの画面部分にある、スイッチを押すと、途端に彼らの武器に大量のエネルギーが注入され、刀身が白く輝き出す。必殺技チャージのエネルギーである。
そして彼らは一斉に、その力を高めた刀でルガルガに襲い来る。
ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ! ドシュッ! ドスッ!
「ぐばっ! ぢぎしょ……」
十人以上の赤森兵達の必殺剣の斬撃や刺突が、ルガルガの身体に炸裂する。これまでにも多くのダメージを受けて、耐久度が弱まっていた鎧は、それでバッサリと切断・貫通され、ルガルガの肉体に傷を付ける。
ある者はルガルガの首に、クリティカルヒットを当てていた。全身から大量の血を噴き荒し、周囲に取り囲む赤森兵達の鉄鬼鎧を赤く濡らす。
刀を引き抜かれたルガルガは、そのまま力なく倒れ込んだ。当然残りHPは、0になっている。
(ルガルガ……くそがっ!)
後で復活できるのは判ってるし、さっきの魔王戦でも、数回死者が出ている。だからといって味方が死ぬのは気分のよい者ではないし、現戦闘におけるこちらの戦力も大幅に減った。
戦闘可能な敵の数はおおよそ120人。ついでこちらは2人。割り当て分は先程とあまり変わっていない。
一方のもう一つの方の戦いも佳境を迎えていた。
キィン! キィン! ザシュッ! ザシュッ!
ガストンの瞬足の剣撃が、ジュエルの身体を次々と切り裂いていく。TPは既に溜まっているが、リミットスキルを使おうにも、敵のあまりに果敢な攻撃に、使う暇がない。
盾は既に弾き返され、ジュエルは今ロングソードの両手持ちで交戦していた。だがそれで敵の攻撃を受け止めきれるわけもなく。ジュエルの重厚な鎧はすっかり傷み、刃を受け止めきれずに板金が切り裂かれる。
ジュエルの身体には幾つもの深い切り傷がつき、前進から汗と混じって大量の血が流れ出てくる。やがてジュエルのHPも、0に近づいていった。
ドシュッ!
「ごがっ!」
今までどうにか急所に当たるのを防いでいたジュエルだが、弱り切った身体ではそれもできなくなる。
やがてガストンの刀が、ジュエルの首に炸裂した。ジュエルの装備には、兜と首回りの装甲がなかった。首の肉に刃が食いこみ、更に多くの血が吹き出る。幾ら防御力特化の肉体を持っているとはいえ、これはかなり重大な一撃である。
ガストンは更にジュエルの首にもう一太刀。これで完全に力尽きたようで、ジュエルは首に血を垂れ流しながら、倒れ込んだ。
一行のメンバーの2人が倒れたことで、ガストンは余裕を持って、未だ交戦中の春明に声を上げた。
「もうお前らに勝ち目はない! 降参したらどうだ! それとも魔道士3人と入れ替えるか!?」
挑発するような口調のガストン。今の春明は、多数の敵の斬り込みを防ぐのに手一杯で、メンバー交代を発動させる余裕がなかった。
例えできたとしても、控えにいる魔道士メンバーでは、あっさりとやられてしまうだろうが。
(むっ?)
春明は戦いをやめる様子はなかった。ただ一瞬だけ、ガストンの方に目を向ける。その時の春明は……何故かほくそ笑んでいた。
ガストンが相手にまだ何か秘策があるのか?と警戒しだしたとき……
「「!?」」
数人の赤森兵と鍔迫り合いをしていた春明の身体が、突如爆発したかのように光り出したのである。虹光石の極彩色の光を高めたような、眩い光。
その光と共に、彼の周囲にエネルギーの波のような物が発生し、多人数の赤森兵が、爆風を浴びたかのように吹き飛んだ。
「春明さん! いいんですか!?」
「もうゲーム外だからいいんでしょ! 逃げるわよ!」
状況が判らない中、控えにいた彼の仲間が、その場から逃げ出した。見晴らしの良いベランダから、次々と飛び降りていく。
戦っていた浩一もまた、敵が動揺している隙に、持ち前の俊敏な動きでホールを移動し、ルガルガとジュエルの死体を抱えて飛び降りた。
光に包まれた春明の身体は、人の形でなくなり、どんどん大きくなっていく。数人の赤森兵が、彼に向かって発砲するが、豆鉄砲を鉄に撃ち込んだようにびくともしない。
「全員退……」
危機を感じたガストンが命令を下そうとした瞬間……魔王城の最上階は大爆発した。




