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第百一話 対鉄鬼戦

「いやだね」


 即効で断った。今まで平静に喋っていたガストンも、周りの仲間達も唖然としている。


「お前達の政治とか経済事情とか、そんなこと知ったことかよ。俺は只ゲームをしてるだけだ。せっかくクリア直前までいったのに、こんな所で中断なんかさせるかよ」

「ふざけてるのか? これはゲームではなく、現実なんだぞ」


 舐められているのかと思ったのか、ガストンの声と表情には怒気が混ざり始めている。


「現実の世界だけどゲームだよ。昔の緑人共も、そのつもりで無限魔を作ったし、天者達もゲームだと認めた。確かに俺は本物の勇者じゃない。只のゲーマーだ。そのつもりで俺をこの世界に呼んだんだ。だったら最後までゲームをさせてもらう!」

「そうかい……じゃあ百歩譲って、これがゲームと認めるとしてだ……。そのゲームのクリアの可否で、この世界の命運をどれだけ左右すると思っている。今までの私の話を聞いていただろう!」

「そんなこと知ったことかよ。お前らが外国の無限魔の被害なんてどうでもいい思ってるの同じだろ? 俺だって、お前らの国のことを、いちいち考えてやる義理なんてないぞ」

「義理がないだと……赤森から虹光石をもらっておいて……」


 ガストンの声が、更に怒りで震える。だが春明は相変わらずマイペースだ。


「それに関しては感謝してるよ。最初はすげえつらかったけどな。慣れてくると、痛みを伴う戦いも、生き物を殺す感覚も、かなり楽しくなってきたしな。でもそうしろと言ってきたのは、そもそもお前らの国だし、勝手に俺を選んだのもお前らだ。それに……そもそも国の意思に背いているお前らに、うだうだ説教されたくねえな」

「そうか……ならば仕方がないな……」


 これ以上の話し合いは無理と悟ったのか、ガストンもまた臨戦態勢に入る。


「断ったら、力ずくでこいつを奪おうって? 一戦やらかして疲れたところを、随分と姑息だな……」

「俺だってこんなやり方は好かんさ。だから魔王城の中で、正面から待ち構えていたんだが……まさかそれを飛び越えて先に行ってしまうとはな」


 そう言えば自分たちが、魔王城のダンジョンをスキップするという反則技を使っていたことを思い出した。


「そうかい。じゃあやる前に最後の質問だ。この魔王城を張ってある時空結界は、お前らの仕業か?」

「ああ、そうだ。例え俺たちが麒麟像を奪っても、時間逆行で無にされたら、何の意味もないからな」


 ガストン含めた、その場にいる赤森兵全員のベルトの中心部。そこのスマートフォンのようなディスプレイが自動で光る。画面にスイッチのような矢印が表示された。


「させるか!」


 敵の変身を待ってやるつもりもない。即座に春明が、飛ぶ斬撃の“飛斬”を放つ。同時にルーリも、マジックシャインを放つ。

 光る三日月のような刃と、聖なる光線が、同時にガストンを狙う。


 バン!


 だがその攻撃が、ガストンの身体に届くことはなかった。ガストンの身体の周りに張ってあった見えない結界が、それらの攻撃を弾き、消滅させる。変身前の鉄鬼装着者を守るための、常時防護結界だ。


 ガストン達は一斉にベルト中心部の画面の、スイッチを押す。ピコン!と小さな楽器のような電子音声が鳴り響く。

 その直後に、ガストン達の周りに次々と、何かが空間を飛び越えて出現した。その鉄板の破片のような物体は、鎧のパーツである。最初は光を纏う半透明だったが、すぐに実体化して彼らの周りを浮遊する。

 そしてそれらは一斉にガストン達の身体に、プラモデルを組み立てるように、高速で装着されていく。それらの現象は、一秒に満たない一瞬の出来事。ガストン達はその一瞬の間に、鉄鬼に変身したのだ。


(おおっ、格好いいな……)


 完全に特撮的な変身に、春明は少し感動した。彼らの目の前に現れるのは、前にも海でも見た、伝説の鉄鬼の鋼鯱・赤森式だ。

 他の二百人近い兵士達の姿も覚えがある。あの時鋼鯱と一緒にいた、龍をモチーフにしたと思われるデザインの、量産型鉄鬼達である。


「交代だ!」


 春明は即座に、メンバー交代を発動。ルーリと浩一を入れ替える。唐突な交代だが、浩一はすぐに気を取り直して、臨戦態勢に入った。


「何だ? 回復役はいらないのか?」


 素顔が見えなくなったガストンが、仮面越しにそう言ってくる。


「ああ……もしやったら、お前ら真っ先にルーリを狙うだろ?」

「ああ、その通りだ。今までゲームとの違いに戸惑う姿を散々見てきたからな。少し舐めていたよ。現実の戦いを大分心得ている」


 今までの無限魔との戦いでは、ゲームと同じようなパーティー編成でも、全く問題なかった。攻撃役・防御役・回復役・魔法攻撃役とで、それぞれ違う特性のキャラを並べて、敵と戦うのである。

 だが今回の敵は、知性を持った人間である。そうなれば敵もちゃんと考えて、敵を攻撃する。防御力が弱い魔道士や、こちらの与えたダメージを無にしてしまう回復役は、最も危険な存在として、真っ先に片付けようとするはずだ。

 こういう場合は、ゲームのような複雑な編成は無理である。単純な力と力のぶつかり合いが、唯一の戦法だ。


「疲れているところすまないが、もう一勝負して貰おう。ちなみにここにいるのは、全員不死の半緑人だ。だから殺す気でいっても構わない。……まあさっきの一撃を見る限り、忠告するまでもないだろうが」

「ああ、俺だってそれを知らなかったら、あんなマジで人を斬ったりはしねえよ!」


 鋼鯱に変身したガストンが、腰の刀を抜き放つ。同じく周りの赤森兵達も、各々装備を取りだした。そして長銃を装備した赤森兵達が、春明達目掛けて、一斉掃射した。


 ダダダダダダダダッ!


 重なりながら鳴り響く、無数の銃声。春明達の世界にある銃よりも、遥かに速い弾速で、エネルギーの弾丸が、春明達を襲う。

 だがそれで春明達がやられることはなかった。


 カンカンカン!


 春明が俊敏に動き、弾丸を避けて、たまに刀で弾丸を弾きながら、発砲する赤森兵達に接近する。

 浩一もその優れた敏捷力で、細やかに動きながら、弾丸の嵐を避けていく。

 ルガルガは、鉞を振り回しながら、気功の剣圧で弾丸を、ゴミを扇で払うように、弾き返しながら突進する。たまに弾き返しきれずに、何発かが命中するが、その程度でルガルガは屈しない。

 ジュエルも盾でプロテクトを貼りながら、敵の銃撃を防護しながら、敵陣営に突進する。


 春明達が赤森兵達の陣に接近すると、彼らは手早く銃撃を取りやめて、近接戦に組み替える。刀を装備した赤森兵達が、一斉に踏み込む。

 長銃を装備していた者達も、予備装備である小太刀を抜き出して、近接戦に挑む。


 途端に始まる4対200の乱戦。刀剣同士がぶつかる金属音が、無数に鳴り響く。春明・浩一・ルガルガが、二百人の兵達と戦い続ける。そしてジュエルが、一対一でガストンと激突していた。


 その様子を控えのメンバー達は、黙って見続けている。


「何だかすごいことになっちゃったけど……私達にできることって……」

「何もないわね。今まで通り黙ってみることしかできないわ」


 明らかな数の暴力で挑む敵に、彼らは何も出来ない。戦闘に参加しようとしても、ゲーム法則で縛られた結界に阻まれる。それは敵も判っているのだろう。

 その結界は、敵の控えメンバー攻撃を防ぐ効果もある。そのため赤森兵達は、控えの彼女らに誰も手を出そうとはしない。


 ゲームの場合だと、一度に現れる敵の数は、画面上にグラフィックで表示できる数だけである。たまに大多数の敵と戦う場面もあるが、その場合は大概、数体の敵との連続戦闘ということで表現される。

 どんなに数で現れても、敵は必ずこちらと同数の、数人ずつでかかってきてくれるのである。だが今の敵は、そんなゲームルールに従わない。100を大多数で、一斉にこちらに斬りかかってくるのである。


(くそがっ! 全員さっさとぶっ倒れろ!)


 春明が刀を機敏に振り回しながら、頭の中でそう文句を付ける。敵兵のここの戦闘力は、こちらよりずっと低い。そのために多勢でかかられても、それらの攻撃をある程度防ぐことができた。

 そしてもう三十人以上の敵を、青く輝く刀で斬り付けている。だがそれで今のところ、戦闘不能に陥った者は、まだ三人程度である。

 敵の身体はかなり頑丈で、一回や二回斬られた程度では、早々倒れない。延びる気功の刀で、複数の敵に斬り付けられる気延撃を、使えば、敵は何人も纏めて斬り伏せられるが、すぐに起き上がる。

 短時間で連射できる気功撃二式では、敵にダメージを与えられるものの、それでは倒れてくれない。

 最高ランクスキルの気功撃三式では、一撃で重傷を負わせられたが、こちらは発動時間が長く、連射ができない。


(ぐうっ!)


 戦闘中に春明が背中に痛烈な痛みを感じた。一人の赤森兵が、パワーチャージした刀で、春明の背中を斬り付けたのだ。

 高レベルの身体の頑丈さと、スキル気功防御による防御力強化、そして優れた防御力を持つ着物のおかげで、出血を伴うような傷はつかなかった。だがノーダメージとはいかない。

 防弾チョッキを着て銃撃を受ければ、弾が身体に食いこむことはないが、弾の衝撃は体内に強く響き、場合によっては骨折も有り得る。それと似たような状態の痛みが、春明の脳内に届く。


 一瞬怯んだ春明を、他の赤森兵達が斬りかかる。だが即座に体勢を立て直した春明は、彼らの間を滑り込むように突き抜けて、その一斉攻撃を避けた。

 春明が敵の攻撃を受けたのは、今が初めてではない。これまでに十回近く、斬られたり撃たれたりしている。気功治癒で回復する暇などなく、春明のHPは徐々に、かつ確実に減り続けている。


(やっぱり時代劇はフィクションだな……)


 春明はその戦いの中、そんなどうでもいいことを考えていた。

 時代劇などでは、別に怪物並みの身体能力を持つわけでもない、普通の人間の剣豪が、技能と経験だけで、襲い来る何人もの侍をばっさばっさと斬り捨てる光景がある。

 当然その戦いでは、殆ど場合剣豪は、一太刀も受けることなく、敵兵を全滅させてしまう。だが今、それと似たような状況の戦いをして、あれはあり得ない光景であることが判る。


 複数の敵の攻撃を一斉に捌くには、とても技能と経験だけでは無理だ。単純な身体能力で、敵よりも遥かに速く動けて、遥かに敏感に敵の動きを読み取れる視力・聴力・触覚が必要だ。

 また敵の攻撃をある程度受けてしまっても、それだけでは倒れない頑丈さも必要である。なにしろどんなに機敏に動いても、多勢の敵によって、次々と繰り出される攻撃を、全て防ぐなど不可能。必ず何発かは当たってしまう。

 時代劇のように、全くの無傷で大勢の敵に勝つなど、物理的身体能力的な意味で、人と虫けら並の力の差がない限り、まず無理である。

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