1.寒い朝
店の片付けを終えて表に出ると、
弟の和輝(16)が待っていた。
「おはよう、早いな。朝練?」と声をかけると、
少し笑顔を見せて「おはよ。朝早く目が覚めたから、兄のお昼の弁当渡しに来た」と答えた。
そんな弟と連れだって入ったのは、
Barの近くのカフェだった。
「ここ、知り合いの店だから」と言うと、
扉を開けた。すると、店長らしき人が奥から顔を出した。
「おはよう。今日は連れの人がいるんだ」
「弟だよ、和輝っていうんだ。
こっちは店長のレオで、
俺が前に通ってた高校の同級生」
そう言ってカウンターに座ると、和輝は頭を下げて
「はじめまして、下條和輝です」と言った。
「はじめまして、神田玲音です。
礼儀正しいね~、高校の時の誰かさんとは
大違いだ」そう言って笑う玲音の口を、慌てて雅輝は塞いだ。
「いらんこと言うなっての。ほら、かず。早く食べな?」「うん、じゃあいただきます」
と言って和輝が食べ始めると、
雅輝と玲音はコーヒーを飲みながらのんびり話している。
「静かだな、嫁さんとチビ達は?」と
雅輝が聞くと、のんびりと
「嫁と実家に先に帰省中。んで、俺も明日向かう」と
答えた。
「そっか、気をつけて行ってこいよ?。
あ、そろそろ時間だ」と言うと、和輝に声をかけた。「コーヒー、ごちそうさまでした。
俺、また来て良いですか?」と和輝が聞くと、
玲音は優しく笑いながら
「もちろん、大歓迎。今度はまたゆっくりしにおいで」と答えた。嬉しそうに微笑んで頭を下げた和輝は、
先に表に出ていった。
「じゃあ俺も行くわ、ごちそうさまな」と
雅輝が声をかけると、玲音は渡された代金を
受け取りながら「おう」と笑って片手を上げた。
2人で話ながら歩いていると、和輝が通う高校の近くまで来ていた。
「行ってくるね!」「おう、じゃあまた夜にな」と、言葉を交わし交差点で別れた。そのまま昼間の仕事に向かうと、現場に入った。