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無口な君の、「喜怒哀楽」

作者: 夏梅ゆゆゆ

初投稿です。wardで書いた物なので、表記が読みにくいかもしれません。拙い作品ですが、お楽しみいただけたら幸いです。

 ──第一印象は変な奴だな、としか思わなかった。

 ──だけど、そんな彼の少し、変わったところに、私は──



 ──皆さんは、無口、無表情、無愛想…と、ないないづくしの言葉が似合う小学生を見たことがあるだろうか?

……そんな奴いねーよッ!、と思った人…ああ、私もあの時あの瞬間まではそう思っていたさ……あの、転校生が来るまでは───


──そう、転校生だ。昨日、この私の通う舞鶴小学校の、それも、私のクラス──5年1組に彼はやってきた………。


──昨日。

私たちの教室は喧騒に包まれていた。と、いうのも、このクラスに転校生が来るらしい…という情報をクラス一の情報通、深海千里(ふかみせんり)ちゃん(あだ名はセンちゃん)が担任の…か、かねやみゃ、…違う、かにゃ、かねやままや………あだ名でもういいや、カネゴン先生からせしめてきたのだ。

当然、この片田舎にある小学校のようなところでは一大ニュースになり、ということだろう……


「…琴ちゃん、凄い騒ぎだねぇ………」


…なんやかんや考えていたら友達が登校してきたようだ。


「ん、おはよう、真由…騒がしいのは仕方ないんじゃない?ほら、例の…」

「…ああ!、センちゃんが言ってた!それじゃ、仕方ないかもねぇ…でもいつも通り、琴ちゃんってばクールだねっ!大人っぽいねっ!カッコイイっ!」


…なんか、褒められた。そう、この朝からハイテンションな小柄でちんまい娘は杏里真由(あんりまゆ)…、所謂幼馴染という奴で、親友だ。………ちなみに、さっきからこの娘がカッコイイコールをし続けているのが、私こと桐谷琴(きりやこと)である。


「はあ…だから、いつも言ってる通り私は親が警察と弁護士という極めて特殊な家庭に生まれているから少し、ほんの少しだけ他よりも大人びている自覚はあるよ?でも、一応仮にも女の子にカッコイイという言葉はあまり嬉しくない、いやむしろ嫌なほめ方とも認識できると思うんだよね?そもそも…」

「──あっ!先生と転校生が来たよっ!」

「…少しは聞こうよ………」


…ちなみに付け加えると真由は黒い。まっ黒である。ちくせう。


「──ほらほらー、静かにー。朝のHRを始めるぞー」


…っと、先生が来たようだ。


「カネゴーン!転校生は、男?女?」

「男だよな!絶対!」

「いーえ、女の子がいいに決まってるわ!」


クラスの皆がまた騒ぎ始める。


「あー、静かに静かに。後、カネゴン言うなー…えー、既にみんな知っているだろうが、親御さんの事情で引っ越してきた転校生が来るぞー…因みに、女子は残念だが男子だ………賀上、入れ」

「………はい」


ガラッ、とドアを開けるその人物を見た瞬間、教室の時間が──止まった。

──入ってきた男子はとんでもない奴だった。艶のある黒髪を短く切りそろえていて、背は私より少し低め。ただ、その容貌はテレビでも見たことが無いほどに整っており、圧倒的な存在感を発している。つまり、


「…カッコイイ…」


と、その男子は隣の真由が漏らすほどのイケメン君だったというわけだ…


「…賀上(かがみ)(みなと)………」


賀上君と言うらしい彼はそうポツリと言うと、空いていた私の隣の窓際席に座った…って、は?


「か、賀上?え、自己紹介それだけか?」


…先生の言葉はクラス皆の代弁だったと思う。しかし、


「……しなきゃダメ、なの?」


この一刀両断である。そして先生も、


「うぇっ⁉あーいやーまあ、それもそうか、な?……そ、それじゃあ皆、一時間目は算数だからな?準備しとけよー!」


彼の鋭い目には勝てず…逃げた。カネゴン…哀れ。



彼の噂は一時間目が終わるころには学校中──と、言っても一学年一クラスしかないので人は少ない──に伝わっていた。無論、クラスの内外からひっきりなしに野次馬と質問が飛び交うのだが…


「──うるさい」


…その鋭い目線から繰り出される冷たい言葉に耐えきる猛者は居らず、転校から3日経つ頃には誰も彼に近づかない状況になっていた。


「──何だってのよ!あんの転校生はぁぁ!」


と、センちゃんが切れかかっているのを横目で見る、そんな日々が続いていたのだが…

──正直、こんなことになるなんて思っていなかった──彼が転校してきてから一週間もたった頃のある日…私は───


「…にゃんにゃーん」

「…うり、うり」

「もふ…もふ…」


──大変なものを見てしまったようです。



事の始まりは、転校から一週間後の、ある日の放課後、


「ごっめーん、琴ちゃん!生き物係の仕事があるから、先に帰ってテー!」


と、真由に言われたので早めに下校したのが発端だろう…

私の家から少し離れた真由の家に今日は行く必要がないので(いつもは真由から遊びに誘われるため真由について行っている)、直帰ルートを久しぶりに歩いてるところ…ん?人影が見えた…あれは、賀上君?こんなところで何を──


「…にゃんにゃーん」

「…うり、うり」

「もふ…もふ…」


──…え?は、ちょ、ホワット⁉

……あの、賀上君が、微笑んでいる………


「…ふふっ」


…その表情を見ていると、驚き、疑問…そんなものを感じるとともに、なぜか少し胸の鼓動が早くなった、気がする…でも、私が彼の微笑みを見て何よりも一番に感じたのは、

(──なんだ、そんな顔もできるんじゃないか)

という思いだった。

…それに、学校で見る仏頂面より全然今の方が良いと私は──


──パキッ──


…あっ


──ミャーン──


「あっ………」


──おおっ、猫が逃げた時の悲しげな顔も初見…って、をう⁉なんか猫来た⁉…って…


「………」

「………」


………なんか、何も悪いことしてないはずなのに、き、きまずい…


──ニャーン──


…うん、今は空気を読まない猫が唯一の救い……って、よく見れば──


「…お?お前、もしかして坂上さんちのクロ?…また逃げ出したの…」


──この黒猫は坂上さんちの猫、クロ。脱走癖がある割に人懐っこい猫なのだ。


「………君、えっと、同じクラスの…」


…おっと、賀上君の存在を忘れていた。


「…ん、桐谷琴だよ」

「…桐谷、さんはこの子の事知ってるの?」

「ああ、私の家のお隣の猫なんだ。名前はクロって言ってね…脱走癖がある困った子だよ」


そう説明すると彼は安堵の表情を浮かべた…何故に?


「あ…飼い主がちゃんと居たんだ…良かった」


…どうやら、クロのことを心配していたらしい。


「…クロを心配してたの?」

「………なに?心配、しちゃ、駄目なの…?」


そう彼がそっぽを向きつつ答える…そういえば、心なしか頬が赤い…気がする。

 …さっきのモフモフを見られた恥ずかしさを今更気にしたらしい…今までは猫の心配でいっぱいいっぱいだったのだろうか…?


「…ぷっく、ぷふふっ」


──なんか、そう、考えると笑いがこみ上げてきたっ…だって、第一印象と、イメージがっ…違い過ぎっ…!


「………」(ムスー)

「ぷふっ…!ごめんごめん、いやいや、全然だめじゃないよ?むしろ、いいことだと思う」


私はむっすりした彼の顔にまた笑いそうになりながら、笑顔でそう答える。


「…そ、そう……ふーん…」


そして、まだ少し顔の赤い彼はそう言う。

 …どうやら、機嫌を少しは直してくれたらしい。


「んー、でも、そういえば珍しいね?」

「…なにが?」

「いや、野良猫の心配なんてする人が、さ…ほら、こんな田舎だとうじゃうじゃいるもんだし」

「そう、なんだ…うん、俺の…前住んでたところは…居なかったから…」


へえ、と相槌を打つ。

…野良猫がいない、っていうのも珍しいな…なかなかにして、遠くから来た人の話というのは興味深い………


………という訳で、どうやら賀上君の家も私の家と同じ方向のようだったので、色々、せっかくだから話をした。

彼が東京から来たこと、親が海外へ転勤したために、祖父母の居るこの街に来たこと、猫好きなこと(見ればわかるが)…等々、ぽつぽつと話してくれた。私も、代わりにこの町の事や、学校の事(と、言っても8割は、色々とトラブルメーカーな真由やセンちゃんの起こした珍事件の話だが…)を話した。

 …そして、会話していく中で幾つかわかったことがあった。

 まず、無口だと思っていた彼は、案外お喋り好きだった…口下手なだけで。それに、彼の無表情も、最初はよくわからなかったが、感情が顔に出にくいだけで、普通に会話中に微妙に表情を変えているのだ。

 次に、転校初日のあれらの発言から、孤高の人の類かと思っていたが…


「──ねえ、なんで初日に自己紹介をちゃんとしなかったの?」

「…ん?…だって、何話せばいいかわからないじゃん…?」

「…えっ?……じゃ、じゃあ!皆を冷たくあしらったのは⁉」

「…騒がしいのは、嫌い、なんだ」

「………そ、そう」


…天然というか、意思の疎通ができていないというか…その容姿も助長しているのだろうけど…


(…なんか、色々、誤解解かなくちゃね…)


…なんにせよ、ほっとけない、かな…



賀上君と話したあの日から、とにかく学校で積極的に話しかけるようにしてみた。

…最初は賀上君も不思議に思っていたが、お喋り好きだからかすぐにあの日のように向こうからも話しかけてくるようになった。

 周りからは驚きの目で見られ、理由を話しておいたセンちゃんや真由からは、


「──まったく…琴、あんたって奴は…」

「──お人好し、だよねー…まっ、そんなお人好しで優しい琴ちゃんが真由は大好きなんだけど!」


…と、呆れのお言葉とラブコール?を戴いた。

暫くして、結局、私を心配してくれたのか、切り替えの早いセンちゃんとノリのいい真由は私に乗っかってきてくれた。

…それらのことを切っ掛けに、一気に彼の誤解は──解けることになる…転校から3か月目の事だ。


 …そして、時は過ぎ、5年生最後の終業式の日───



『──これにて、終業式を終わります。一同、礼』


「「「「「ありがとうございました!」」」」」




「いんやー、終業式も終わったわね~」

「春休みなにしよっかな~」

「…二人とも、気…早すぎ」


…浮かれ気味のセンちゃん&真由コンビに賀上君が突っ込みを入れている。


「ふふ、そんなこと言って…賀上君も、案外浮かれているんじゃない?」

「…別、に……そんなに子供じゃない、し…」

「あー!それって真由たちが子供っぽいてことー⁉」

「女の子にデリカシーが足りないんじゃなーい⁉」

「そーだそーだ!」

「…だって、事実、だし」


「「ムキーーーー‼‼」」


騒がしい二人と賀上君が言い合っている。

……こう、賀上君が普通に小学生していると何か、感慨深いものがあるな……

──思えば、あれから色々あり、また、いろいろ変わったものだと思う。

彼がクラスや学校に馴染むまでも当然一悶着あったし、やっぱり、学校に馴染めずに彼が苛められてしまったこともあった。

…でも、そんな時は私たちが解決のために東奔西走したりもしたのだ。それが切っ掛けで馴染めるようになったのは、いい変化のうちの一つだ…………本当に、彼が来てから気の休まらない、騒がしい日々が続くようになったな、と思う………でも、そんな日々を私は少し、気に入ってたりするんだ───


「…琴、どうしたの…?二人とも、先に行っちゃったよ………?」


──おっと、少し感傷に浸りすぎたようだ…こういうことを考えるところが大人びて見える原因なのだろうか…実は、少し気にしてたりする。


「ん、ごめん…少し、ね…私たちも先に行こうか」


…ふと、思う。彼が私を名前で呼び始めたのはいつからだったのか…それが思い出せないくらい濃密に彼と関わっているんだな、と。

………そういえば、私からは名前呼びしてなかったな…うん、これから6年生になるんだし、せっかくだからもっと親しい呼び方にした方が良いのかもしれない…なんか改まって言うのは恥ずかしいけど…うん。


「…えー、っと」

「………?」

「いや、ね?き、君のことを、ね?私だけなんか、名字呼びだからさ…せ、せっかくだから、私も名前で呼んだり、しちゃってもいい、かな?とか、思ったりして…」


…うん、思ったより、恥ずかしかった。というか、改まって言うと、恥ずかしさで死ねるレベルだな…多分、私の顔は今真っ赤だと思う。


「……んな顔で…そ…なこと言う…反…則…」

「…えっ?何?何だって?」

「…いやっ、何でもないから…!

 …うん、そうだな、琴も俺の事、湊って、呼んで?」

「っ、うん…わ、かった」


そう、彼…湊君が薄く微妙に微笑んで言う………数か月経つが、湊君の表情の動かなさは、あまり変わらなかった。でも、こうして、私たち友人には少しずつだが喜怒哀楽を見せることが増えたような気がする。と、いうか、いつも思うのだが、近くで見る彼の微笑みは破壊力がやばすぎる…おかげで少し言葉がつっかえて──


「ね、ねえ…琴?」


──ん?…おわっ⁉な、なんか湊君が少し興奮したような面持ちで私に顔を近づけてきた…正直、その整い過ぎた顔立ちを近くで見るのは、辛い…!


「なっ!何かなっ⁉」

「いやっ…試しに、俺の名前呼んでみて…?」

「えっ?えっ?」

「…いいから」

「う、うん……………………………………み、湊、君?」


「──っっっ⁉⁉」


「…どうか、した?」

「い、いや…何でもない、よ…?

 …うん、名前呼び、いいね…すごく、いい…うん」


…どうやら、気に入っていただけたようだ。

…………まったく、何を考えているのかわからないが、急に顔を近づけるのは止めてほしい…いつのころからか、そういうことをされると、何故だかわからないのだが、胸のあたりが苦しくなって、鼓動が運動もしていないのに、早くなる…そう、初めて彼の微笑みを見た時と同じ、いや、それ以上に。

 それ以外にも、最近の湊君の行動は…何か、私の鼓動を加速させるものが多いように感じる…特に、先ほどの微笑みとか、他のいろんな表情とか、前よりも無防備に見せるから…何か、びっくりして、顔が赤くなってしまう…本当に何なのだろうか…?


「…あ、二人があそこで待ってる──少し、急ごう、琴?」

「…ん、そうだね──行こうか、湊君」


…まあ、ぐだぐだ考えていても、分からないものは仕方がない。考えるだけ時間の無駄だろう。

………それでも、なんだかんだで一つ、言えることを挙げるとすれば─────


「──君の喜怒哀楽をもっと、見てみたいな──」


「──?…何か言った?」

「──ふふ、何でもないよっ!」


──そう、この言葉が、この気持ちの答えを映している…そんな気が、するんだ──────


*需要があるかわからない人物設定


・桐谷琴

少し大人っぽい小5ロリ。本人は割と気にしている。

自覚はないが、ギャップ萌。

外見は、長い黒髪を肩あたりで結んでいて、美少女ではないが、それなりに可愛い方。将来はきっと可愛い系より綺麗系。


・賀上湊

親の都合で引っ越してきた転校生。将来が確実に勝ち組確定な顔面偏差値を持つ。

色々「無」であるのと、近寄りがたい顔立ちから誤解を受けやすい体質。

外見は黒髪を切り揃えていて、鋭い目つきをもつ美少年。

そのうち、彼視点で続編を書くかも?


・杏里真由&深海千里

真由は幼稚園から、千里は小学校からの琴の親友。

真由は天然。しかし、腹黒の気あり。

千里はお祭り好きかつ情報通。少し、ヒステリック。オバチャン気質。

二人の犯した珍事件は数知れず…「敷島さんのカツラ争奪事件」や「トラクターと家畜たちによる真夏の夜の狂想曲事件」等が有名どころ。

外見は、真由がライトブラウンのツインテール。千里が黒髪ポニーテールで、それぞれ、可愛い系ときつめ系の美少女…だが、起こした事件などのせいで、残念系の烙印を押されている。

作者のお気に入り。


金山谷大和かねやまややまと

通称カネゴン。へたれ。独身。28歳。彼女無し。甲斐性無し。へたれ。



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