5.異なる地で
同じようで異なる火の島での生活が、始まった。
レナード王が言ったように、朱金の髪と虹の瞳を持つ者は珍しくなかった。レイナとカレルは、初めてその他大勢と言う立場になれたのだ。
王と王妃の助けた客人として、城の皆に優しくされる。まるで、王と王妃の弟妹のように扱ってくれるのだ。
王妃は、二人目の子どもを身ごもっていて、城中が楽しみにしている。あたたかく、のんびりしたホマシの国に、レイナとカレルは、どうしていいのかとまどうばかり。
二人の部屋は、王家の私室のすぐ側になった。斜め向かいの部屋なので、当然顔を合わすこともあるのだが、お互い目を合わさない。居合わせた者は、いたたまれなかったと言う。
その話を聞いた王と王妃は、どうにか二人を和解させようと頭をひねるのであった。
そんな冷戦状態で過ごすこと一月、王と王妃が、二人に頼みごとをした。
お腹が大きくなってきた王妃だが、やんちゃなアルノー王子の相手が大変になってきたので、二人に遊び相手になってほしいと言うものだ。
「二人で…ですか?」
カレルは眉をひそめた。レイナもドレスをぎゅっと握り締めている。エルホでは女性用軍服を着ていたのだが、女性はドレスを着るものですと侍女達に押し切られたのだ。
「ああ、アルノーも二人に懐いてるからね。お願いするよ」
王と王妃にそう言われては、断れない。しぶしぶ二人で引き受けることになる。
アルノーの遊び相手になってからも、避けあっていたのだが、やんちゃな2歳児の相手をするのに、口を利かないわけにもいかず、レイナとカレルは冷戦状態から顔を合わせれば口げんかという間柄になっていった。
「カレル!王子捕まえて!!」
鍛錬帰りのカレルが、廊下を突っ走ってくるアルノーをすくい上げた。アルノーはきゃあきゃあ言って喜んでいる。
片手でドレスをたくし上げ、片手にタオルをつかんだレイナが走ってきた。
「つかまえたわ、王子。泥足でお城の中を走ったらダメですよ!」
言いつつ、アルノーの足をつかみ拭き始めた。見れば、点々と小さな泥の足型が続いている。
「なるほど」
アルノーが、すごいでしょというような笑顔で、カレルを見ていた。
「王子、レイナの言った通りですよ。お城の中が泥だらけになったら、皆が困ります。お父様やお母様が転んで怪我してもいいですか?」
「う~、それはダメ」
王子がムウとうなる。
「では、これからはしないと約束できますね?」
「うん」
「お約束ですよ、王子」
「うん、ごめんなさい、レイナ」
カレルの腕の中で、アルノーが謝った。レイナも快く受け入れ、やっと追いついた侍女達に、アルノーを引き渡した。アルノーは風呂場へ直行だ。
「お二方も、着替えられたほうがいいですわ」
侍女にそう言われ、自分達を見ると、見事に泥の足型がついていた。
「王子はまかせたわ。私達は着替えに部屋にもどります」
カレルを見やると黙ってうなずいて、レイナと共に歩き出す。もちろん、二人きりではなく、侍女と侍従が後を追っていた。
自分の部屋の前で足を止めると、レイナは一瞬ためらった後にカレルに声をかけた。
「あ、ありがとう。助かったわ」
「いや、当然のことだ。王子の相手は僕も同じだろ」
「それでも、よ。じゃあ」
言うなりレイナは、扉に消えた。一瞬固まったカレルだったが、何事もなかったように自分の部屋へと去ってゆく。
このことは、侍女と侍従によって速やかに王と王妃に伝えられ、いたく喜ばれたのだった。