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3.邂逅

地震の描写があります。苦手な方は、お気をつけください。


 カレルは、少々いらだっていた。朝一番でふもとの村から馬車に乗り、休憩もそこそこに火の神殿に着いたというのに、神官長は儀式が長引いていると、控えの間でずっと待たされているのだ。

 ホオト皇帝の唯一の子、かつ皇太子であるカレルは、皇都を長く離れたくはないのだが、初陣に出るには火の神の加護を受けなければならなかった。


 カレルは、自分の価値を知っていた。母は皇帝カイトが溺愛する皇妃セレナ。エルホの王女だった母から朱金の髪を、父から虹色の瞳を受け継ぐ髪に近き者。皇帝を絶対視するこの帝国で皇帝以上に崇拝される者。

 望まれるのは、勝利。早く加護の儀式を終え、皇都に帰り、出陣に備えたい。カレルは、神官長を待った。


 ようやく、やってきた神官長が妙にぴりぴりしているのに気付いたカレルだったが、儀式の開始を優先した。

「お疲れでしょうが、儀式をお願いしたい」

 神官長も深く追求されずにどこかほっとしていた。


 つつがなく儀式も終わり、神殿を後にする。侍従が馬車を呼ぼうとするのを止め、カズホ叔母に聞いた海への道へと足を踏み出した。

「是非行ってごらんなさい。それは美しいから」

 懐かしそうに微笑む叔母の顔を思い出しながら、細い道を進むと、開けた場所に出た。


 崖の端には、朱金の髪の少女とお付きらしき人物がいる。

 ―エルホの者か。神官長が気を使うわけだ。

 カレルは、気を引き締めた。


 「先客がいたか」

 カレルの声に、少女が振り向く。

 目を、みはった。


 朱金の髪に、虹の瞳。自分とよく似た顔立ちの少女。そこから導き出される答えは一つ―。カレルは表情を消した。


「エルホのレイナ姫…」


 一瞬顔をこわばらせたレイナも、すぐに何事もなかったようにカレルを見つめる。


「―ホオトのカレル皇太子ね」

 

 互いの護衛が剣を前に出ようとするのを、制止する。


「やめろ」


「しかし…!」


「ここは神域。中立地帯よ」


 護衛たちは、不承不承剣を納め、主人達の後に下がった。


 カレルが前に進み、レイナの横に立つ。

 護衛たちは、己の主人とその前の人物がよく似ていることに、嫌でも気付かされた。

 カレルとレイナは黙ってお互いを観察している。

 先に、口を開いたのは、カレルだった。


「…戦姫の娘は虹色の瞳だと言う噂は、本当だったのだな」


「自分の目で見るまでは、信じられなかった?」


「ああ、そうだな」


 地面が一瞬ゆれる。


「…セレナ叔母様は、いつ帰ってくるのかしら?」


「母上は、ホオトの皇妃。帰る場所などない」


「いまでも、エルホの王女よ。ホオトには攫われただけだわ」


「それは、そちらの見解だ。それより、君の父親は誰なんだ?突然現れたハヤトという虹の瞳の男、皇族には当てはまる者がいない」


「このっ…!」


 レイナは、剣を抜きかけた護衛を手で制したが、その顔はムッとしていた。


「ずいぶん失礼なのね、ホオトの皇太子は。それが、人にものを聞く態度かしら」


「気に障ったのなら、あやまろう」


 そう言って、カレルは優雅に頭をたれた。その後ろの護衛がじりじりしている。



「…まあ、いいでしょう。父は確かに皇族の血を引くわ。祖母の名はカリンといえば、わかるでしょう」


「! 先々帝の妹の? 川で死んだはず…」


 カレルの顔色が変わった。レイナはふっと笑う。


「祖父が助けたのよ。お互い一目ぼれだったらしいわ」


「…そんな話、信じられない―」


「信じられなくてもそれが事…」


 言葉は、そこで途切れた。ずんと地面が縦に揺れレイナはよろめいた。カレルと支えあう形になった次の瞬間、足元が崩れ落ちる。

 空中に放り出されたレイナは、必死で目の前のカレルにしがみついたところで、意識が途切れた。

 しがみつかれたカレルも、腕の中に抱え込むで精一杯だった。 


 いまだ治まりきらぬ揺れの中、主たちを呼ぶ、従者の声が、むなしく響いた。

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