それでも僕は愛を囁く
「どうして?!
どうして君が……っ!」
僕は事態を飲み込むことが出来ず、情けない声を張り上げた。
『君』は、それは驚くほど優しく柔らかく微笑むと、僕に向かって銃口を向ける。
「――サヨウナラ――」
小さく呟くような君の声が僕の耳に届くと同時に、乾いた破裂音が遠くで聞こえた気がした。
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小さく息を吐いたら、思いのほか大きく辺りに響いた。
「緊張、してるの?」
僕はそう言われて、こくりと頷く。
「じゃあ、これ。
おまじないね」
ふわりと笑って君が僕の手のひらに文字を書く。
『――ダ・イ・ス・キ――』
小さな指先で書かれたそれは、紛れもないあいのことば。
僕は驚いて君の顔を見ようとしたけれど、突然鳴り響いた警報音がそれを許さなかった。
あっという間に人の波に流され、僕は君と離れ離れになったからだ。
そのあと君の事を捜したけれど、君に繋がる情報は何もなかった。
僕たちの日常というものは常に『死』が隣り合わせであり、君がいないということはそれとイコールなのだ。
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でも君はいま僕の目の前に居る。
小さくて、花のように笑う君は、成長し、前にもまして美しく笑う。
「あ……」
僕はそう呻くと、崩れるように地面に落ちる。
からからに乾いている土の上に、僕の血がジワリと滲んだ。
蔑むような目で僕を見る君。そんな君でも美しいと感じてしまう僕はきっとどうしようもないほど君を恋焦がれていたのだろう――。
「あの……さ……。アルディナ……。
ボクも……君……すき――」
声にならない声を振り絞って、僕が言いたかった事は、僕も君の事が好きだったってこと。
生きててよかったとか。今までどうしてたとか。なんでレジスタンスにいるのかとか。
言いたいことは山ほどあったけど、僕が一番言いたいのは、あの日言えなかったあいのことば――。
ぼやけてかすむ視界の片隅で、君が僕の方へと駆けよってくるのが見えたような気がした。