渇望
太陽。
砂漠の中を私は歩いている。
照り付ける陽射しは容赦なく私を焼き、私の身体を渇かしていく。
砂漠は地の果てまで続いている。幾百の砂丘を越えた遥か地平は陽炎の揺らぎに歪み、その先を見通すことはできない。砂漠以外にあるものといえば白炎に燃える太陽だけだった。
砂漠の中を私は歩いている。
もうどれほどの時間を歩いただろうか。延々と続く砂漠を私は延々と歩いている。
すでにいつから歩いているのかも忘れた。一年かもしれないし、百年かもしれないし、もしかしたら数分前だったかもしれない。
私の記憶には砂漠しかなかった。この砂漠以外に私に思い返せる記憶はなかった。
ただ砂漠だけがあった。
私はなんのために歩いているのだろう?
この砂漠と太陽しかない世界で私はなんのために歩いているのだろう?
この夜も訪れぬ砂漠の永遠の苛みの中で、私は何を求めて歩いているのだろう?
渇きがあった。
手に刻まれた皺。
骨に張り付いた皮膚。
渇きだけがあった。
割れた唇。
落ち窪んだ眼窩。
渇きだけが私を満たしていた。
張り付く喉。
喘ぐ息。
渇き。
歩を進める度に私の足はふらつき、よろめき、ついに膝から崩れ折れ、私は砂漠の上に倒れ伏した。
熱砂が肌を焼く。太陽に焼かれた砂が、私の身を朽ちさせようとする。肌はじりじりと焦がされ、ざわざわと蠢く砂が徐々に私の身体を砂漠に引き込んでいく。
それがこの渇きの終わりであることを私は知っていた。
それが安らぎであることも私は知っていた。
けれど私は立ち上がる。
手を付き、砂を掴み、この枯れた腕を支えに、私は砂を振り払い再び砂漠に立ち上がる。
渇きがあった。
満たされることなき渇きが、私を身体の底から突き上げる。
歩く。
広大な砂漠を一人。
私は熱射の向こうに揺れる陽炎を見据える。
陽炎。
その向こう。
水に似たきらめき。
私は、渇いている。
砂漠の中を私は歩いていく。