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先生は欠席です

作者: 弓庭柔悟
掲載日:2026/02/11


その日、朝のホームルームが始まっても、

担任の先生は教室に来なかった。

チャイムは鳴った。

でも、誰も何も言わない。

教室は、妙に静かだった。

前の席の子が、小声で言う。

「今日、先生欠席だって」

「え、そうなの?」

「職員室の前に貼ってあったよ」

黒板を見ると、

白いチョークでこう書かれている。

《本日、担任欠席》

代わりの先生は来ないらしい。

自習。

それだけで、

クラスは少しざわついた。

でも、誰も不思議がらなかった。

一時間目。

席に着いたまま、

それぞれが教科書を開く。

私は、

なんとなく教壇を見ていた。

担任の先生は、

いつもそこに立っていた。

少し猫背で、

話が長くて、

チョークの粉をよく落とす人。

「休みか……」

そう思った瞬間、

違和感が胸に引っかかった。

――昨日も、いたよな?

昨日の放課後、

進路の相談をした。

そのとき、

先生はこう言った。

「明日、提出だからな」

はっきり覚えている。

二時間目。

廊下が、やけに静かだ。

他のクラスは、

授業の声が聞こえる。

でも、

私たちの教室だけ、

空気が薄い。

黒板の「欠席」の文字が、

少し歪んで見えた。

三時間目。

私は、

ノートを取るふりをしながら、

周りを観察していた。

みんな、

普通だ。

欠席を疑う人はいない。

「先生、病気かな」

「まあ、そのうち戻るでしょ」

そんな会話。

でも、

誰も「どの先生か」を口にしない。

昼休み。

私は、

職員室へ行ってみた。

担任の机は、

空だった。

名前のプレートは、

外されている。

代わりに、

何も書かれていない。

隣の先生に聞いた。

「あの……担任の先生、今日お休みですよね?」

先生は、

一瞬、考えるような顔をした。

「……ああ」

「そうだね」

それだけだった。

名前も、理由も、

言わない。

戻る途中、

掲示板を見た。

欠席者一覧。

生徒の名前はある。

でも、

教師欄は空白だった。

午後の授業。

教室の後ろの壁に、

古い集合写真が貼ってある。

去年のクラス写真。

私は、

無意識に担任を探した。

いない。

最初から、

写っていない。

おかしい。

去年も、

同じ担任だったはずなのに。

放課後。

私は、

教室に残った。

誰もいなくなった教室。

教壇に近づく。

机の引き出し。

開けると、

中は空っぽだった。

教科書も、

名簿も、

赤ペンもない。

ただ、一枚の紙。

裏返しのまま、置いてある。

表にすると、

手書きの文字。

《欠席理由:未確認》

その下に、

小さく追記されている。

《※存在記録なし》

頭が、真っ白になった。

その瞬間、

背後で椅子が鳴った。

振り返る。

教壇の椅子に、

誰かが座っている。

ぼんやりした輪郭。

顔が、

うまく見えない。

でも、

声は知っている。

「……ちゃんと、出席取ってるか?」

担任の声。

「先生……?」

私が言うと、

その人影は、

少し困ったように笑った。

「今日は欠席だからな」

「みんなには、そう伝えてある」

「でも――」

一歩、近づいてくる。

「君だけは、覚えてた」

「それが、いけなかった」

視界が、

一瞬暗くなる。

気づくと、

私は席に座っていた。

教室は満員。

チャイムが鳴る。

黒板には、

何も書かれていない。

前の席の子が振り向く。

「ねえ、今日の担任誰だっけ?」

私は、

答えられなかった。

名前が、

思い出せない。

でも、

教壇の前には、

誰かが立っている。

少し猫背で、

チョークの粉を落とす人。

黒板に書く。

《本日、出席》

その文字を見て、

なぜか、

胸がぞっと冷えた。






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