第96話 不意の出会いは重なるもので
「これなんていいんじゃないでですか?」
「わー、ほんとだ。乃恋さんにすっごい似合いそう。試着してみたらどうですか?」
「そう、でしょうか。少し大人びすぎてはいませんか?」
……女の子たちが楽しそうに買い物をしているのを見るのは、案外悪くないものかもしれない。たとえ、そのうちの1人が妹で、もう1人が嫌味が口癖の人でも。
絶賛荷物持ち中の俺は、お店の中でキャッキャウフフする3人を、店外のベンチから見守っていた。
すでにコントローラーは修理屋さんに預けた後。合間を埋めるための買い物が始まってから小一時間が経とうとしていた。
「っても疲れたな。いくら及川さんがお金持ちでも、あれこれ買わせすぎだろ……」
持ってる荷物の大半は及川さんが購入した服たちだ。一応妃奈と朝紗も買っていたが数点だけ。両手に抱えた袋に入ってるのは2、3週間分ほどの服たちだ。と言うかこんなに買っても仕方なかろうに。
ここまで気持ちい一気買いを見せられると、及川さんの高根の花感が否応なしに増す。こんないいところのお嬢様に恋するとか恐れ多すぎるのかもしれない。
改めて現実に絶望しかけてげんなりしていると、視界の端につま先が見えた。どうやらいつの間にか俯いていたらしい。
「あ、やっぱりそうだ。乙崎君だよね、奇遇!」
「あなたは……?」
聞き覚えのない声だった。頑張って顔を上げてみて、胸元くらいでオレンジ色の髪の毛が視界に入った。
長くて、こんな色鮮やかな髪。人を覚えるのが苦手な俺でも流石に覚えてる。
「温井先輩?」
「お、覚えててくれたねぇ。嬉しいじゃないか!」
「まあ、あはは……」
テンション高めなお姉さん、温井雫先輩。校則の緩さに甘んじて髪をオレンジ色に染め上げる目立つ人。現在2年生、生徒会所属である。初めて顔合わせした時から目立つ人だなぁと思っていたけど、一緒に仕事し始めてからはますますの目立つ人認定。
声は大きくてよく通るし、所作がいちいち大袈裟。わっはっは、と腰に手を当てて笑ってるけど一応ここ公共の場ですからね?
「それでそれで? その大量の荷物はどうしたのかな?」
「あー……実は、あそこです」
「むむむ?」
俺が指さすと、温井先輩はその先を追って首を振る。あの、前のめりになりながら体をひねるのやめて下さい。服の裾とか髪の毛の主張が激しいんで。ちょっとうざいです。
「あれれ、一年ズじゃん。他2人は?」
「いえ、今日はこれだけです」
「代わりのあの子は誰かな?」
「俺の妹ですね。ちなみに、2人がいるのは知らないで妹に連れ出されました」
「ほほう。なかなか難しい状況らしいねワトソン君」
「探偵の助手になった記憶はないですね」
「あれれー? おかしいぞー?」
「しいて言うなら先輩のテンションがおかしいですね」
「私はいつも通りだけど?」
「そうなのかもしれない」
「いいねぇ! ふざけ甲斐があるレスポンスだよ!」
「そりゃどうも……」
なんでだろう。こんな顔よし声よしスタイルよしの先輩と楽しくお喋りしてるはずなのに、ただただ疲れるのは。




