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第76話 カーレース

 妃奈と湊、莉弧がゲームに飽きてお菓子を食べ始めたのを横目に、俺は及川さんとゲームをしていた。

 と言うのも、案の定というかなんというか、及川さんはゲームを始めてするらしい。5人の中で顕著に下手だったことを自覚して、俺に教えてほしいと言ってきたのだ。


 タイトルは、某有名配管工のレースゲーム。カートの作り方とかの難しい話は置いておいて、操作について教えてほしいとのことだった。


「簡単な操作については分かってるんですよね?」

「はい。前進と、右折左折くらいは」

「なるほど。じゃあ、特別なアクションについて説明すれば良さそうですね。まずはどんなアクションがあるのか一通り説明しますね」

「お願いします」


 及川さんが握るコントローラーのボタンを指さしながら、どれがどの役割なのかを説明する。

 するのは、いいんだけど。


「なるほど、そういうことだったんですね」


 と興味深げに頷く及川さんの横顔を覗き込む。

 長いまつ毛、整った目鼻立ち、毛穴ひとつ見えない白い肌。相変わらず芸術品みたいに綺麗な顔だ。孫女装子らのゲームでは出せないディティールをしている。黄金比ってやつなのだろうか。瞳の輝き方も、他の人とは全然違う気がする。


 コントローラーを握りう指だって俺のよりずっと細い。爪は綺麗に整えられている。根元の白い部分なんてほとんどない。関節の一つひとつが迷いなく滑らかに動く。欠陥が変に浮くことはない。ただ痩せているだけじゃない、健康的な細身。

 

「――さん、乙崎さん、聞こえてますか?」

「え? あ、ああ、ごめん。どうかしました?」

「その、これらのアイテムについてなんですけど」


 いけないいけない。及川さんのこととなると時々集中しすぎてしまうな。ここまで近くで観察できる機会も、そうそうないし。なんて、見つめ続けるのも失礼だよな。ゲームの説明に戻ろう。


 それから10分ほど、質問に答えながら教えていった。

 にしてもさすがは及川さん、頭もいいらしい。言ったことをすぐに覚えていった。思い通りにカートを動かせる、ってほどではないけど、最初と比べれば断然見違えた。頭がいい人はゲームもうまいらしい。

 天が与えた才能か、それとも及川さん自身の努力の証か。どっちにしても、少しだけ羨ましいなと思ってしまうもので。


「おお、こういうことだったんですね。……わあ、出来ました! ありがとうございます、乙崎さん」

「……いえいえ、これくらい。やってみますか?」

「はい。お願いします」


 実際のレースを開始した。

 さっきまで毎回最下位だったとは思えないくらい上手な操作で6,7位を維持している。アイテムの使うタイミングなんかはまだまだだけど、使うべき場面はある程度分かっているっぽい。

 ただちょっと、カーブにあわせて体を動かす癖があるらしい。まああるあるなので、慣れれば次第に無くなって――


「っ、急カーブ! ……って、あれ?」


 左肩に重たい感触。腕に触れた細くて軽いものが髪だと分かって、すぐに横を向く。

 そこには、体を傾けすぎたのだろう、体重を預けてくる及川さんの姿があった。頭を俺の二の腕において、不思議そうな顔でこっちを見上げてる。集中していて、自分でもなんでこうなったのか分かっていないのだろう。現状を確認するように何度か瞬き。


 そんな様子が可愛すぎて見惚れてしまった俺も、しばらく動けないでいた。

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