第74話 妹は見た?
妃奈の顔は、横からでも分かるくらい真っ赤だ。
口を開きっぱなし。目も見開いていて、俺を殴っていたはずの拳は緩まり、せわしなく落ち着きどころを探している。
と言うか、お前まだ寝てたのか。
「てっきり出かけてたのかと思ってたぞ」
「だ、だからって! だからって! お、女の人連れ込んで、え、えっちなんて!」
「してないが⁉」「してません!」
朝紗も妃奈と同じくらい顔を真っ赤にして必死の形相で叫んだ。
「どこをどう見たらそうなる⁉」
「女の人上に座らせて揺れてるじゃん!」
「お前拡大解釈えぐいな⁉ お兄ちゃんお前の思春期具合にびっくりだよ!」
「そそそそそそもそも! 私がこここんな人とそんなことするわけないじゃないですか! こんなだらしなくて根性無しで顔だって別によくない人と!」
「悪口を言いながら⁉ ま、まさかそういうプレイ⁉」
「ちょっと待て朝紗! お前どこで何を見た⁉ どこで性知識を学んだんだ!」
絶対悪い友達に変な知識をつけられて――
「に、にぃにの……本」
「……すまん。俺が悪かった」
そりゃそうだよな。今まで見つかってないと思ってたのが間違いだった。こいつ普通に俺の部屋入って物色してくもん。どんだけ隠しても見つかるよな、そりゃ。今度燃やしとくよ。
「夜瑠君は何を教え込んでるんですか! 妹さんに言っておきますけど、私たちは何も変な関係じゃありません!」
「じゃあなんでにぃにの膝に乗って腰振ってんのさ!」
「こ、腰っ⁉ 本当に何を教え込んでるんですか⁉ やっぱりオタクは最低ですね! これだからオタクは! これだから!」
「お前もそうだっただろうが!」
「だから卒業したんです!」
「この前はアニメ教えてほしいって言ったくせに!」
「う、うるさいです!」
「ほら仲良し!」
「どこがだ⁉」「どこがですか⁉」
「ほらあああぁぁぁぁ!」
その時、阿鼻叫喚のリビングにチャイムの音が鳴った。
3人が動きを止める。
俺は妃奈の腰を掴んで退ける。
「ひゃっ⁉ ど、どこ掴んでるんですか!」
やっぱり朝紗にするときよりもずっと軽い。こいつチビなうえに筋肉も詰まってないんだな。
妃奈を持ち上げたまま横に置き、インターフォンのとこまで向かう。
「はーい」
『やっほーよるっち! 来たよー!』
『こんにちは。お招きいただき光栄です』
『よっす。ジュース買ってきたぞ!』
「今行く」
それだけ言って通話を切る。何とか平静を整えながら、俺は振り返る。
「……いいなお前ら、もう騒ぐなよ」
「あ、あとで覚えておいてくださいね」
「終わったら尋問ね。……あ、そうだあと、準備終わるまで入れないで。私まだ起きたばっか」
「善処する」
どうしてこう、始まる前にひと悶着あるのかな。




