第73話 再びの訪問
週末、詳しい日程などを決め、土曜日の午前10時10分前。
そろそろ来るかなとリビングで待っていると、チャイムの音が聞こえた。
慌ただしい心音を何とか落ち着け、深呼吸を繰り返しながら玄関へ。
平静を保ちつつ靴を履き、扉を開いて――
「で、なんでこうなるんだよ……」
「そんなこと言われましても。では、お邪魔しますね」
妃奈が来た。ちゃんと手土産掲げて、私服で。
「私だって来たくて来たわけじゃないですよ。莉弧ちゃんが誘ってくれたので」
「断ればよかっただろ」
「そうはいきませんよ。せっかく友達が誘ってくれたんですから」
せっかく人が招き入れてやったというのになんだその態度は。
前までよりは少し薄着。スカートで、上は白とオレンジが基本の明るめな色。家の中だと、少し華やかにも見える。スニーカーを手早く脱ぎ、妃奈は家に上がった。
「こちらは手土産です。場所はどこですか?」
「一応俺の部屋ってことになってるけど、皆が来るまではリビングでいいか?」
「構いませんよ。もし気になるなら今のうちに部屋の掃除でもしておいてください」
「別に汚くねぇよ。掃除なら昨日したし」
「そうですか。……あれ、ご両親はいらっしゃらないんです?」
リビングに入って、妃奈は首を振る。休日の午前中なのに誰もいない。テレビもついていない静かな部屋ってのは、少し非日常感がある。実際非日常だ。
「俺が友達を家に呼ぶって言ったら大喜びでさ。邪魔しちゃいけないからって外に出て、高級フレンチ食いに行くんだと」
「えぇ……そんなことでお祝いされるあなたもあなたですけど、祝わなくてはいけないあなたを置いていくご両親もご両親でね」
「多分2人的には、ようやく息子がここまで成長してくれたし、お疲れ様会をしようって感じなんだと思う」
「あんまり悲しいことを言わないでください。私が初めてあなたの家を訪れた友達だってことは十分理解しましたから」
「先月まで友達いない歴イコール年齢だったしな。親の喜びっぷりも理解はできる」
「だから悲しいことを言わないでください」
そんな憐れむような目線を向けないでください。泣きたくなるので。
「まあそれならそれで構いません。しばらくみんなを待たせてもらいましょうか」
「荷物はそこ。待つならソファ使っていいからな。……テレビ見るか?」
ダイニングテーブルの上を指さした後、俺はソファに腰かける。
約束は10時。あとの3人は遅れてくることだろう。2人きりですることもないし、テレビでも見て時間を潰――
テレビの映像が、着いた直後、小さな背中によって隠された。その背中は、落ち着く場所を探すように位置を調整した後、俺の目の前にやってくる。
太ももの上に、ずっしりとした、それでも柔らかく華奢な体重が乗っかった。
「えっと……何してんの?」
「客人の身でソファを使うのは気が引けて」
「もっと気が引けそうなことやってると思うけど」
妃奈はこっちを向かない。座り心地が悪いのか、少し位置を調整した。
「重いですか?」
「いや別に……と言うか何なら、お前ウチの妹より軽くないか? ちゃんと食ってるのか?」
「妹さんがいるんですか? おいくつです?」
「中2だな」
「へえ。妹さん背が高いんですか?」
「どっちかって言うとお前がちびなんじゃって痛い! 殴るな暴れるな! 危ないだろ!」
振り返って殴りつけてくる妃奈の顔は真っ赤だった。それはもともとだったのか、怒りなのからかなのは分からない。分からないが……とにかく痛いからやめてくれないかな⁉
「に、にぃに?」
「「ん?」」
何かを落とすような音とともに、聞きなれた声が聞こえてきた。
それはリビングの入り口。寝起きも寝起き、寝癖も直していない部屋着の姿。手にしていたスマホを足元に落とした、朝紗の声だった。




