第7話 一般通過オタク、苦痛を耐える。
俺の番になった。
妃奈が歌い終わった後当然のように矢先が向き、曲を入れ終わってマイクを構えたところだ。一応妃奈と似た感じの曲にしておいたし、最悪の結果は待っていないだろう。
とは、思うのだけど。
「ねーひなっち、今の曲なんて名前だっけ! めっちゃよかった!」
「それな! 俺アニメのほうも気になるわ!」
「じゃあ、あとで教えますね。見られる動画視聴サイトも調べておきます」
「マジか! 熱っ!」
「お、いいな。俺にも教えてくれよ」
なんか、すっっっっっごい盛り上がってるんですけど。もう泣きたい。
ただでさえ一人だけ外野なのにここまで興味を示されてないとか普通に無理。それにここから歌うのが誰も知らなそうな曲? 今だけ未来予知使えそう。多分沈黙が待ってる。
なんて思っててもイントロは無慈悲に始まる。今だけ機械故障してくんねぇかな。ああ駄目だ止まらん。急に店員入ってきたりしない? しないかぁ。……はぁ……腹くくるか。
俺は自分の歌に集中することを決め、今日を人生初のソロカラ記念日にすることを決めた。
「お、おお? なんか、うまか、った?」
おいやめろ湊、そんな慰めみたいな言葉をかけるな。
一応完走しきった。合いの手なんかも、後半は入ってたと思う。乗りやすい曲を選んどいてほんとによかった。
「いや、点数高いし、よかったよな?」
「うん、ふつーにじょーずだとおもうよ?」
湊に続いて会長と莉弧もそんなことを言ってくる。生徒会に入っている奴らは人がいいんだな。ここまでフォローをしてくれるとは。でもな、納得しきってない表情が丸見えなんだよ。さっきの妃奈の時とは反応大違いじゃん。
まあ、ここまで言ってくれてるんだし、返事しないのは失礼だよな。
「あはは……ありがとうございます。あ、次稲生会長ですよね」
「おう。っし、負けてられないな!」
マイクを引き継ぎ、席に戻る。どっと疲れが襲い掛かってきてソファに寄り掛かると、横から見られているような視線を感じた。
「乙崎君、ナイスファイトでした! 歌を練習するところから始めましょう!」
……お前、さては歌で友達作ったな?
やはりこいつは味方の振りした敵だったらしい。もう二度と期待しない。
それから順に、また妃奈まで歌った。そして無慈悲に訪れる俺の番。普通に無理。
「あ、自分飲み物とってくるんで、飛ばしていいですよ」
逃げるは恥だが役に立つ。どっかのドラマでも言ってた。
「はぁ、妃奈の奴マジで許さん。あれから話しかけてこなくなったし――」
「あら?」
ドリンクを汲んでいると、隣から声が聞こえた。綺麗な声だ。柔らかい物腰で落ち着いてる。大人びてるなぁって感じ。どんな人なのか気になって思いつつ横を見てしまうと――
「乙崎さん、ですよね?」
――目が合ってしまった。しっかりと、じっくりと。誰かと聞かれれば、及川さんと。あの、雪の結晶みたいに繊細で、それでいて揺るぎのない淡い黒色の瞳。その眼孔まで見せてしまうんじゃないかというくらい、ただ一心に見つめてしまう。
「私の顔に何かついてますか?」
「あ、いや、その」
お、落ち着け俺。落ち着くんだ。いったん深呼吸だ深呼吸。すー、はー、すー、はー。……まずい。どれだけ落ち着こうとしてもあの綺麗な目が視界にうっすらと浮かんでる。もう目を逸らしているはずなのに。
え、なに? 特殊能力? 見た相手を動揺させるとかそういう類の特殊能力だよな? 俺もしかしてファンタジーの世界に迷いこんだ? この生徒会実は能力者の集まりで俺もそのうち能力に覚醒するとか?
もう心臓が疼いてるじゃないかって? どんな能力だよ。じゃないよ違うってそうじゃない。
「いや、名前を思い出してて。及川乃恋さん、ですよね?」
「はい。覚えてもらって恐縮です。そちらはどうですか? 交流を深められていますか?」
「まあ、理解は深まったかな、って……」
「それはよかったですね」
嘘ではないはずだ。うん、嘘ではない。さっきとは別の理由で目を合わせることは出来ないけど。




