第66話 悪目立ち
翌朝、教室に入った俺は思わず頬を引きつらせてしまった。
「あ、おはー! よるっち!」
「夜瑠、来たな!」
「おはようございます、夜瑠君」
「乙崎さん、失礼しています」
生徒会1年メンバーが、俺の机の周りに集合していた。
騒がしいのは、ちょっと苦手だ。特に、目立たない存在として定着したクラスの中だと、悪目立ちしてしまう。本当に、嬉しくない意味で。
重い足を引きずって、席へと向かう。
「……何事だ」
「会長がな、1年だけでやってみてほしいことがあるって。んで、さっそく話し合いをしていたんだ」
と、湊。
「そーそー! 部活どーの視察だって!」
「主にどう手分けするかと、どういった基準で評価するかについて話し合っていました」
それに続くように莉弧と妃奈。なるほど話し合いの内容は分かった、が。
「それを何で朝から、しかも俺の机の前でするんだよ」
「申し訳ありません。今日の放課後、私に用事がありまして。それと、場所については――」
「どうせ一番遅いのは夜瑠君でしょうから、すぐに参加できるようにという配慮です」
及川さんの言葉を遮って、妃奈が厭味ったらしく言ってくる。悪かったな、いつも遅くって。でもな、別に教室にいても話し相手がいなければやることもないのだ。と言うか普通に居心地が悪い。
ならたくさんの人が出迎えてくれてよかったな、って? 馬鹿言うな、今だって視線が雨のように突き刺さってきてて普通に居心地が悪いわ。特注の傘が欲しいです。
それはそれで悪目立ちしそうだな、やっぱりやめておこう。
「ご配慮痛み入ります。……で、そろそろSHRだけど、何か決まったのか?」
「まあな。まああとでちゃんと決まったことはまとめるし、放課後、乃恋以外で集まってまた話し合うことにしたから」
おい、勝手に決めるな。別に暇だからいいけども。
「じゃあ、とりあえず解散だな!」
という湊の声で、皆が思い思いに帰っていく。
莉弧は大きく手を振りながら、及川さんは小さくお辞儀して。妃奈は――
「放課後は遅刻しないでくださいね?」
などと言う小言を置いていきやがった。いちいち一言多いやつだ。
なんて思っていて、ふと、まだ帰っていないやつがいることに気づく。
「あれ、まだ帰らないんです?」
「帰ってほしいのか?」
「あっ、いやっ、そういうわけじゃ……」
湊は、冗談だ、と言いたげに笑う。やめてほしい、普通に心臓に悪いから。
湊はそれからも、すぐに動き出そうとはしなかった。3人が完全に教室を出るのを待っているようだ。
ちゃんと見届けてから、こっちを向いた。
「さっき、ため口使ってくれたよな」
「え? ……あ、あー、使った、かも」
「そのままでいいからな? なんか、そっちが素っぽいし」
「……まあ、それで、いいなら」
こ、怖い……。この距離の詰められ方は大変怖い。これが陽キャ――とも思ったけど、なんか最近の俺、似たようなことをやってなくもない気がしなくもない。
「ま、改めてよろしくな。これからちょっと忙しくなる。無理言って手伝ってもらってるわけだから、辛かったら言ってくれよな」
「いやまあ、全然、辛いとかはないけど」
「そりゃよかった。じゃ、またな!」
そう言って湊も帰ってく。
よく分からないやつだなと思いながら。
なんか、周りがひそひそ喋っている気がする。それも、俺のことを言っている気がする。気がするだけなのだけれど……多分、あいつらのせいだ。と言うか俺がため口で話してるとこ見られたのも初めてか。メンツがメンツだったし目立つのは仕方がない。及川さんもいたしな、ああ、仕方ない。仕方、無いのだけれど。
重たい息が零れだす。俺のささやかながらも穏やかだった学校生活が、終わりそうな予感がした。




