第59話 お化け屋敷
「ど、どどどどうしてお化け屋敷なんですか!」
いよいよ俺の腕にしがみつくことを躊躇しなくなった妃奈は、中に入ってから今更のように悲鳴を上げた。
「いやなら入る前に言えよ」
「まさか思わないじゃないですか! 怖いの無理って言った後で、お化け屋敷に連れてこられるなんて! てっきりそれっぽい飲食店かと!」
飲食店なら、と外観の怖さを我慢していて、お化け屋敷ってはっきり書いてあった看板を見逃したらしい。こう見えて結構抜けてるよな、こいつ。
「ああもう、早く出ますよ。ほら、駆け足で――」
妃奈が急に言葉を詰まらせて息を飲んだ。どうしたんだろうと横を見ると、妃奈が固まって動かない。
理由が分からなかったのでさらに首を回すと、妃奈の肩に、ゾンビらしき人影が手を置いている。
「あー、振り返る――」
「きゃああああぁぁぁぁっ⁉」
振り返るのはやめたほうがいい、と言い切る前に振り向いてしまった。ゾンビと目が合った妃奈は俺の腕を痛いほどに締め付け、ばっ、と駆けだした。
「ちょ、急に走るな!」
「いやああああぁぁぁぁぁ!」
どうやら聞こえていないらしい。全速力で走る妃奈に全力で合わせる。正直運動不足のこの身だときついです。
と言うかあの、いい加減腕離してくれないですか? 意識しないようにとしてたけど、今回一層強くつかまれてね、そのね、あの……当たってるんですよ。さっきは女の子っぽいだとか、ぽくないだとかって話をしてごめんなさい。ちゃんと女の子です。
脳内でかしこまらないといけないくらい意識してしまっていて、どうにか逸らさなければいけないと頭を振る。別に、俺たちが恋人っぽいことをする必要はないのだ。ただちょっと、どうせなら吹っ切れてくれないかなぁ、とここに連れてきただけで。
吊り橋効果って、怖がってない側にかかるものだったか?
……まあ実際、顔は悪くない。と言うか整ってる。好みかと言われればそんなことはないが、可愛げがあっていいとは思う。アニメが好きだったなら趣味も、合わないことはないだろうし。
多少嫌われているかもしれないけど、今だってほら、こんな距離感だし。ワンチャンあったり――
「い、いなくなりましたか⁉」
「ん? あ、ああ、い、いないっぽいぞ」
っぶねぇ、危うく好きになりかけた。そもそも俺は二次元になんて興味はないし、あったとして及川さんい綺麗な人に対して抱くくらいだ。それだって好きとか嫌いって言うよりは、推しって感じの感覚だし?
うん、好きになるとかありえない。
安全を確認し、妃奈が一息つく。
急に走ったせいで高揚した頬とか、少しだけ荒い息遣いとか。そんなものが妙に気になってしまうのも、ただの偶然でしかないはずだ。




