第58話 2人きり
「そういえば聞きたかったんだけどさ」
飲み物を買って、並んで立っているうちに気になっていたことを聞いてみる。
「妃奈は怖いものが苦手なのか? 妙にビビってたけど」
「それを聞きますか」
とても不服そうな顔で返事された。最初見たときに顔綺麗だなとは思ったけど、そういうジト目でも整って見えるのはさすがだなと思う。
「……ええ、苦手ですよ。高所は無理、閉所も無理。虫とかも無理です」
「へえ、意外と苦手なものが多いんだな」
「意外って何ですか。これでもか弱い女の子ですよ。怖いものくらいたくさんあります」
「ふーん、あんまりか弱いって感じはしないけどな」
俺に対してだいぶ強気だし。か弱い女の子は男に皮肉とか言ったりしないと思う。
なんて思って口にすると、なんを想ったのか妃奈がまたつねってきた。だからやめてほしいと言っているのに。……あれ、もしかしたら言ってないかも。
「やめてくれ。つねられると普通に痛い」
「だったら失礼なことを言うのはやめてください」
「別に、そんなつもりはないぞ。だって妃奈、まじめだし。なんていうんだっけ、毅然? としてるだろ」
「していたって、女の子は女の子ですよ」
ふてくされるように、妃奈は言葉を投げ捨てる。よっぽど女の子扱いしてもらえないことが不服らしい。
「ならもっとかわい子ぶればいいだろ? 似合わない顔でもなかろうに」
「そんなことするのに何の意味があるんですか? それに、似合う顔じゃないですよ」
「そうか?」
「どうせ私は童顔ですよ」
「いや、別にそうは言ってないだろ……」
なんか、俺並みに卑屈だな。
そういえば、もともとは俺と同じような感じだったと言ってたか。結局、人は変われないんだよな。莉弧の時もそうだった。どうやったって、簡単にらしさは捨てられない。捨てるべきとも思えない。
自分が自分として生きやすい選択を、続けていけばいいと思う。自分がしたいことを、自分のしたいことのために――
「ああ、そうか」
「ん? どうしたんですか」
ストローに口をつけた妃奈が、上目遣いに訪ねてくる。
こいつは、自分を変えようと努力していた。つまり、らしさを捨てようとしてたんだ。莉弧があれほど悩んだように、らしさを捨てるってのは簡単なことじゃない。いままやってきたこと全部を否定して、それとは真逆のことをするんだ。
だから動揺し、混乱し、迷い、間違える。妃奈はたぶん、まだその途中なんだ。だから不安定な心を抱えて、自分らしさと、らしくなさの狭間で揺れてる。
なら俺にできることは、その違いをはっきりさせてやることなのかもしれない。
「莉弧と湊、しばらく2人きりにしてやりたいよな?」
「そう、ですね。そのほうがいいとは思いますけど。それが何か?」
「なら、言い訳を作ってやろうぜ」
「意図が分かりませんね。はっきり言ってくれませんか?」
じれったそうに問い詰めてくる目が怖い。そんなに焦らされるのが嫌なのか。
まあ隠す理由もない。とっておきの名案を、言った時の俺はたぶん得意げに笑ってた。
「俺たちも2人で遊ぶんだよ」




