第56話 ジェットコースター
「まあ……こうなりますよね」
妃奈はそう呟いて、渋々といった表情で安全バーを下ろした。
30分ほど並んだあと、俺たちの番がやってきた。先に並んでいた莉弧と湊が2人並んで座り、その後ろの席が俺と妃奈だ。まあ、当初の目的から考えてもこの並びが妥当ではあるのだが……。
正直、俺も妃奈の隣はあんまり嬉しくない。ろくに声も上げなさそうだし。
始まる前からむすー、っと目を細めつまらなそうな顔をしている。
「では、発射します!」
まもなくコースターが稼働しだした。まずはゆったりと進んでいき、やがて先端が上昇していく。
懐かしいなぁ、この感覚。昔は結構ワクワクしてたっけ。この先に何があるのかなぁ、って。でも正直、今はこの先に待っているものが分かるし、別にジェットコースターも苦手じゃない。
あの疾走感、案外好きなんだよなぁ、気持ちよくて。
妃奈はどんな顔を……
「大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫……っ!」
「……」
上ばっかり見ていたのと、モーターの音があって聞こえなかったのだが、なんかすごい呟いている。と言うか、自分に言い聞かせてる。顔もすごい形相で、安全バーを握りしめている。
俯きがちに目を強く瞑り、全身が力んでいるのが一目でわかった。
怖いなら、乗るなよ。
しかもなんか尋常じゃない怖がり様なんだよな。初めて乗ったから怖いー、とかじゃなくて。明らかにトラウマでも抱えていそうな怖がり様で……。
流石に可哀そうで見ていられなくなったので、ちょうどコースターが頂上に達する頃に、気まぐれで妃奈の手に手を重ねてみる。
触った瞬間は震えていた手が、少しずつおとなしくなっていく。横を向いたら睨まれていそうなので見ないようにしておく。
「一応、お礼を言っておきましょう」
小さく聞こえたその言葉にだけ満足して、ジェットコースターを楽しむとしよう。
すでに期待は最高潮。乗っている人々はみんな唇をかんで息を飲み、今か今かと待っている。まあ、そこに抱く感情が恐怖なのか期待なのかは、人によってさまざまだろうけど。
俺も、柄にでもなく叫ぶ準備をしていた。
「っ――」
「きゃあああああああーっ!」
すぐ目の前で黄色い悲鳴が奏でられる。甲高い声に始まって、ドンドン後ろへと反響し、共鳴し、協奏曲となる。
そんなたいそうなものじゃないかもしれないが、乗っている人たちが一体となって、多種多様な叫び声たちがいい感じに調和して――
「ああああああああ! 速い、速いです! 手、離さないでくださいよ! 私軽いから飛ばされちゃいます! あっ、あっ、曲がらないで! 急カーブ嫌――いやあああぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁーーーっ!」
隣の主張が、すごい激しい。




