第55話 遊園地
「来ましたね」
妃奈が呟いたので顔を上げると、莉弧が手を振ってこちらに駆けてきていた。そのすぐ後ろに湊もいる。
「お待たせー!」
「悪い、ちょっと遅れた」
「大丈夫ですよ、私たちもさっき来たところです」
嘘である。10分は待った。その間どれだけ俺が肩身の狭い思いを下か。尻に敷かれる男って言うのはこういうのを言うんだろうか。ちょっと違う気もする。
「じゃ、行こっか!」
遅れてきたことへの文句を忘れさせるような明るい声音で莉弧が言う。
俺が言ったら文句を言いそうだが、妃奈はそんな事せずついていく。ただ、普段ならしたであろう穏やかな問答は、残念ながら見られなかった。
「さすが連休! ひとめっちゃおーいね!」
「だな! うわーっ⁉ これまともに回れるのか?」
はしゃぐ2人を横目に、もらったパンフレットに目を通す。
遊園地と言うやつだった。地元なので幼少期に来た記憶はある。そうは言ってもうろ覚え。こんな遊具あったなぁと思いながら見ていると、誰かに腕をつねられた。まあ、誰かは考えなくても分かる。
「あんまりはしゃがないでくださいね。私たちの目的はあくまで莉弧ちゃんのサポートです」
「分かってるよ。だからこそちゃんと考えてるわけだろ?」
「前日に調べておかなかったんですか? これだから……」
「逆に、行くって決まってすぐに調べたのか? 生真面目だな」
「それが私のいいところですから」
「自分で言うのかよ」
「自画自賛でもしてないとやってられませんよ」
ため息交じりにそう言って、妃奈は俺から距離をとる。ちょうど歩幅分くらいの距離だ。何も、そこまで警戒しなくても。
「まずどこ行く⁉ ジェットコースターは並ぶかなぁ?」
「でもせっかく来たんだし乗っときたいよなぁ。どうせ並ぶなら最初に乗ったほうが良くないか?」
「うぅ、そうだよねぇ。ね、2人はどーもう?」
「いいと思いますよ、目玉ですしね」
「まあ、俺も」
「っし! じゃあ行くか!」
「おー!」
遊園地の中にはたくさんの親子連れがいた。テーマパークってわけではないし、有名な遊園地でもない。何か今時っぽいものがあるわけでもないし、そこまで若い集団は多くないらしい。
俺は、変に目立ってないかと心配になる。特に、前の2人がハイテンションだし。
「楽しそうですね、あの2人は」
「ん? ああ、そうだな」
妃奈も同じことを思っていたらしい。多分、前の2人には聞こえない程度の声量で妃奈が言う。
「私には縁のない話ですね」
「ん? いや、お前は――」
「2人とも、早く!」
「あ、すみません! ほら、行きますよ」
「お、おう……」
急かされて速足で追いかける。
どうやら機会を逃してしまった。まあ、大したことない疑問ではあったし、別にいいのだけど。
2人に追いつく妃奈の背中を見ながら思う。あいつら3人が一緒にいるのは、俺には自然と言うか、当然のことにしか思えないんだけどな、と。




