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第46話 脱出

「妃奈? どういうことだ? 鍵でも閉められたのか?」


 扉に向かって話しかける。


「そうじゃなくて、物が倒れて扉が開かなくて。この部屋、窓もないので」

「そういうことか……分かった、扉から離れられるか?」

「は、はい」


 本当に何があったんだ。そもそも何の用があってこの部屋に入ったんだか。

 分からないことだらけだけど、ひとまず扉を押してみる。少しだけ、紙くらいなら通りそうな隙間が開く。が、何かにぶつかった音とともにびくともしなくなる。


「なるほど。物はどかせないのか?」

「た、試してみましたけど、私の力じゃ……」

「そうなると、人を呼んだほうがいいか? 待っててくれ、すぐ先生たちを――」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 職員室に走ろうとした俺を、妃奈が必死な声で呼び止める。


「どうした?」

「そ、その……お手洗いが、近くって」

「……えぇ」


 要するに、待てないということか。そこでしろ、とは冗談でも言えない。妃奈にとって一生のトラウマになる。でも正直、だからと言って俺一人でどうこうできることでもない。

 何か手段は……。


「なあ妃奈。倒れてるのって棚か何かか?」

「え? え、ええ。用具をまとめる用の棚です」

「ならさ、起こすとか引くんじゃなくて、分解できないか?」

「分解? でも、用具もないですし」

「スチールラックだろ、ウチの学校が使ってるの。叩くものがあったら板を叩いて、支柱から外してくれ。引っかかってる部分だけでも外せたら、俺が全力で押してみる」

「で、出来ますかね……で、でも分かりました。やってみます」


 あらかじめ見ておいてよかった。この学校、どの倉庫も整理に使ってるのは業務用のスチールラックだった。それも持ち運びしやすいように手軽に解体できるやつ。多分、妃奈の腕力でも十分に分解できる。

 問題はどのくらい時間がかかるかだけど……。まあ、そこは妃奈次第だな。でも、スチールラックが倒れて、多少物が散乱しただけならそこまでひどい状態ではないはずだ。

 倒れたラックとまだ立ってるラックが接触して動かせないだけのはず。で、倒れたラックは荷物の重さもあって起こせない。なら、倒れたラックが、まだ立ってるラックとぶつからなければいい。ラックの上と下を少し分解できればそれで充分。


 気づけば、ドンドン、とラックを叩く音が聞こえてきた。どうやらハンマーがあったらしい。音からして金属製。ラックが多少曲がるかもしれないが、まあ人が閉じ込められているんだ。先生に謝るときは、俺も一緒に謝ってやろう。


 なんて考えているうち、妃奈が声を上げた。


「は、外せました! 開けませんか?」

「ん? 分かった、離れてろよ」


 力いっぱいに押してみる。さっきよりは、少し開いた。


「これ以上は、開かないな……」

「も、もうちょっとどうにかなりませんか⁉ もう、限界で……!」


 切羽詰まった声だ。今にも泣きそうなくらいの。

 そりゃそうだ。誰もいない部屋とはいえ、目の前に同級生の男子がいて、漏らしそうだとか。泣きたくもなる。そもそも閉じ込められてることだって怖いだろう。


 ここは、多少男を見せなきゃいけないのかもしれない。


「じゃあ全力で押すから! 音で驚くなよ!」

「えっ⁉ は、はい!」


 肩を突き出すショルダータックル。絶対痛めるだろうけど、傷になることはないだろう。全力で踏み込んで扉に体当たりする。


 ドンッ、と鈍い音とともに扉が少し奥に開く。すぐさま足を引いて、もう1度。どうにか腕が一本通りそうなくらいの隙間が開いた。でも、これじゃまだ通れな――


「す、すみません! お礼はまた後で!」

「うおっ⁉」


 もう1度、と思っていたところ、その隙間から妃奈が出てきた。すごい勢いで廊下を走って行って、見る見るうちに背中が小さくなる。

 唖然としてしまって追いかけることもできず、俺は立ち尽くす。思うことはいろいろあったけど、とりあえずこれだけは言っておきたい。


 お前、体柔らかすぎだろ。試しに腕を通してみたが、俺は肩で詰まった。

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