第45話 無視
それからもずっと妃奈の動向を伺い続けていた。
そして、機会があればすかさず声を――
「なあ妃奈、ここは――」
「会長に聞いてください」
声を――
「喉乾かないか? 会長が奢ってくれるって」
「自分で行きます」
こ――
「ぁ――」
「今忙しいので」
……まだ何も言ってないじゃん。
なんかもう、すごいあからさまだった。ここまでめげなかっただけでもえらいぞ、俺。今日は諦めて帰ってたくさん泣こう。なんか日南副会長にもいじめられたし。
「湊おつー」
「ああ、ありがとな」
「喉乾いてない? 飲みかけならあるよ」
「ん? いいのか?」
……よくやるよ、あいつらも。前のファミレスでも普通に料理分けてたし。あれが陽キャの普通なのだろうか。到底まねできそうにはないな。したいとも思わないけど。
「よし、今日はこれくらいにしとくか」
稲生会長は伸びをしながら立ち上がった。気づけば初めてから2時間ほど。こんなに遅くまで学校に残ってたのは初めてだ。まさか下校中に夕日を見れそうになるとは。
「じゃ、後片付けだけして解散な。……あれ、宇津羅道はどこだ?」
「あら、いないの?」
あたりを見渡すと、確かに妃奈だけいない。多少声を上げてみても返事がない。
「おかしいな。さっきまでいたと思うけど」
「……俺、探してきていいですか? 妃奈、電話持ってないんですよ」
机の上、莉弧たちが座っていたところにスマホが一つ置いてある。土で汚れるのが嫌だから、と置いていったのを見ていたのだ。
「マジか……まあすぐに帰ってくると思うけど、じゃあ任せるけどいいか?」
「はい」
「ならウチはここで待ってね! 帰ってきたら連絡するから!」
「そうだな、よろしく」
莉弧が手を振って見送ってくれる。その莉弧に湊が何か話しているのを後ろ目に、俺は妃奈探しを始めた。
別にただトイレに行っただけですぐ帰ってきてもおかしくはないのだけど。
今はとにかく話しかけるきっかけを作りたい。探した、ってことだけで話しかけるきっかけにできるはずだ。
……って、俺は何を必死になってるんだ。きっかけきっかけって、そんなムキになって作るものじゃないだろ。
ただちょっと無視されてるだけ。もともと仲が良かったわけでも、何か大切な用事があるわけでもない。話をしに行く必要はどこにもない。
莉弧の時もそうだ。どうにも、今の俺はらしくない。
電気の付いていない廊下を歩く。もう消灯するものなのかと思っていると、自分が別館にいることに気づいた。こっちは授業以外は使わない特別教室ばかりの建物だ。電気が消えているのも納得。
あれこれ考えているうちにおかしなところまで来てしまったらしい。
それなりの時間が経っただろうと思ってスマホを取り出して確認してみたが、莉弧からの連絡はない。まだ妃奈は帰ってきていないのだろうか。
「全く、何やってんだか」
誰にでもなく呟く。スマホをぽっけに入れて踵を返そうとした、その時。
「乙崎君、そこにいるんですか⁉」
「妃奈?」
間違えなく声がした。どこからだろうと振り返る。姿はない。そもそも、声は籠っていた。
「ここです! 出られなくなってしまったんです!」
妃奈の声は、別館の廊下の最奥。確か、倉庫になっている部屋の中から聞こえた。




