第42話 本音
「それでは、私はお暇しますね」
妃奈はそういって帰ろうとしたけど、俺としては釈然としない。この前話したときはもっと自然に笑ってた、と思う。いや、笑顔なんて注目してみてなかったけど。喋り方とかいろいろ込みで、なんか誤魔化してるように見えた。
それにたぶん、妃奈はそういうことをするやつだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、妃奈」
「はい? どうかしましたか?」
「あ、ああいや、その……」
な、何を聞けばいいんだ。とにかく止めなきゃと思って声だしたけど違和感だけだし……。ああもう、これだから見切り発車は嫌いなんだ! 昔からこの癖があったから人と関わるのやめてたのに!
「じ、実は勉強で分からないところあってな。聞いてもいいか?」
「勉強? 今ですか? まあ、いいですけど。病み上がりでいきなり勉強というのも」
「ほ、ほらさ! こうして学校以外で会うのって珍しいし……そ、それに! ここなら俺の勉強道具があるからな!」
「学校にもあるのでは……?」
「それはそう」
あまりにも苦しすぎる言い訳! こんなのでごまかしきれるほど妃奈は馬鹿じゃない。どうする? いっそのこと直接聞いてみるか? 莉弧の時も、思い切って本音を言ったらうまくいったし。
でもあれは莉弧だからうまくいっただけで妃奈でうまくいくとは限らないというかたぶんいろいろ隠すのが上手いうえに隠したがる俺側の人間だからな妃奈は。そうなると直接聞いても誤魔化すいうか隠すというかでもそれじゃ何も始まらないし!
そもそも! あってすぐの俺に本当のことを暴露してくれるのは莉弧くらいなもので!
「あの、大丈夫ですか? もしまだ具合が悪いなら、すぐ部屋に――」
「妃奈っ!」
「――っ⁉ な、なんですか⁉」
伸びてきた妃奈の手を思わず掴んだ。あとから思えばこれは俺に手を貸そうとしてくれての物だろう。でも、俺はその手を強くつかんで、逃げられないように引き寄せた。妃奈の重心が少しだけこちらに傾いて、顔が近づいてくる。
初めてあった日にはドギマギしたものだけど、今はなんか、そんなことを感じている余裕はなかった。
「何か隠していることがあるなら言ってくれ。俺でよければ力になる。悩んでるんだろ、何か。初めて会ったばかりの俺なんて信用できないだろうけどさ」
思いのたけを言ってみた。伝わるかなんてわからないし、もしかしたら笑って流されるかもしれない。それでも、言ってみて楽になった気がする。言いたくても言えなかったことを、ようやく言えた。
今までの俺じゃ絶対にできなかったことができたんだ。……熱が出て、判断が鈍ったことにしてしまおうかな。
これで、莉弧みたいにうまくいったらいいんだけど。
わずかな希望を胸に顔を上げたとき、思わず口を開けなくなった。
妃奈は両目を細くし、口元を歪めていた。見るからな不機嫌顔。
「……気持ちは嬉しいですけど、隠していることはありませんし、あったとしても、話すつもりはありません。では」
妃奈がそういうのに、腕を放さざるを得なかった。
それから無言で帰っていく妃奈の背中を、ただただ見ていることしかできなかった。




